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嫌われ王子は働きたくない。 ~なのに、無双してしまうので、周囲の期待がとんでもない件~  作者: タライ和治


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35.帰路と追っ手

「……といったわけで、王都近辺でアルバートの話題は避けた方がいいだろうな」


 王都から馬に乗って二時間ほど。城外でレオンハルトたちとの合流を果たした俺は、郊外からアーベントラントへの帰路についていた。


 その道中、周囲を確認しながら、俺は絶大な信頼を寄せる若き将軍に、さりげなく思念魔術について切り出したのだが。ぶっちゃけてしまうと、アーベントラント領内にもエーミールの息のかかった人物がいる可能性が否めない。


 それを考えれば、いま話題を伏せていてもいずれはバレてしまうだろうなあ、と。


 とはいえ、用心にこしたことはない。郊外とはいえ、ここは相手のテリトリーなのだ。少なくとも王都を抜けるまでの間は気を遣う必要があるだろう。


「承知いたしました。では、練兵に魔術士を交えることも控えますか?」


 明らかな警戒感をにじませ、レオンハルトが応じる。俺は緊張をほぐすようにあえて微笑み、そこまでする必要性がないことを伝えるのだった。


「ここで魔術士を麾下から外せば、なおさら怪しまれるだろうしね。練兵は通常通りに取り組んでくれ」

「はっ」


 返事を聞きながら、俺は後ろに付き従う兵たちを一瞥する。今回の参内には顔が割れているだろうアルバートではない、別の魔術士が同行してくれているのである。


 道中、他の魔術士と思念魔術で連絡を取り合い、帰路の安全を確保することになっているのだが……。これも控えたほうがいいのかもしれない。


「それにしても」


 半ば独語のように呟いて、俺はため息を漏らした。考えなければいけないことが多すぎるのだ。


 特にエーミール。少し前までは確かに、軍国主義を掲げる単純な人だと認識していたけれど、どうにも考えを改めなければならない不気味さがある。


 長兄ミヒャエルにはないカリスマ性と実行力を兼ね備えた人物が、いよいよ本性を現したということなのだろうか?


 なにより、どうして俺を助けるような真似をしたのか? 取るに足らない相手だから見逃してやろうとか、恩を売ろうとか、そんな意図で動く人物なのか?


 それとも、もっと他の、こちらの予想もできないような理由で助けてくれたとするのだったら……。


「殿下」


 一人、考えにふけっていたその時だった、先ほど視線を向けた魔術士が遠慮がちに口を開いた。


「どうした」

「後方に控える別の魔術士から、私に思念が送られてきました。いわく『兵が追ってきている、注意されたし』とのことです」


 俺は思わず黒髪をかき回し、二度目のため息を漏らした。やれやれ…。使わせたくなかったのに、結局、思念魔術を使わせてしまったか。


「人数はわかるか? それと武装の有無は?」

「三十人程度、ほとんどが剣と槍を構えているとのことです」

「傭兵か、野盗の類いかな?」

「身なりはきちんとしているようですが」


 うーん。話を聞く限り正規の兵っぽいなあ。はてさてどうしたものか。


「アルフォンス様」


 迷いが表情に出ていたのだろう、くつわを並べる長髪の将軍は心配そうな面持ちでこちらを見ている。


「どのように対処されますか? ご命令とあらば、蹴散らしてまいりますが」

「相手の用件も聞かず、こちらが暴力に訴えるのは紳士的じゃないな」

「はっ」

「とにかく、向こうが追いついたら話だけでも聞こうじゃないか」


 とはいえ、十中八九、追っ手か刺客に間違いないだろうなあ。見逃してくれたことを考えるとエーミールの配下ではなさそうだ。


 そうなるとミヒャエルか? こういう汚れ仕事は雇われの兵を使うと思っていただけに意外だな。


 よくよく考えれば、そういった方面に伝手とかなさそうだからなあ、プライドの高い長兄殿下は。貴族特権強めだし。


 ……自分の身に危険が迫っているかもしれないのに、何を考えているんだろう、俺は。


 ま、なんだかんだ、考えすぎかもしれないからな。向こうも通り過ぎるだけって可能性もあるわけだし。楽観的にいこうじゃないかと、そんな風に思うことにしたわけだよ。


 で、結果、三十分も経たず、楽観視できない状況に陥るわけだ。


***


 松明を片手に馬を走らせる集団が、こちらに追いついたのはそれからしばらくしてからである。


「アルフォンス殿下!」


 俺の名前を叫びながら現れた完全武装の兵たちは、二手に分かれると一方は俺の前方に、もう一方は後方に回り、挟撃の態勢に移るのだった。


「アルフォンス殿下、宮中へお戻りください」


 前方に回った一団の中から指揮官らしき人物が声を上げる。


「ミヒャエル殿下から言付けを預かっております。先ほどの非礼を詫びたい、と。どうか、このまま宮中にお戻りいただけますよう」


 口調は丁寧だが、表情は硬い。下馬することもなく口上を述べるその様子に嫌気がさしながら、俺はせいぜい冷静さを取り繕って応じるのだった。


「いやいや、このアルフォンス、一切気にしてはいない。ご足労痛み入るが、このままお引き取りいただき、ミヒャエル殿下によろしくお伝えいただきたい」

「そうはいきませぬ。我ら、ミヒャエル殿下より、なんとしてもアルフォンス様をお連れしろとご命令を賜っている故」

「ほう。それは生死問わずということかな?」


 それとなく切り出した言葉に、指揮官の表情がこわばる。


 はい、これで確定しました。彼ら、俺を殺る気満々です。


 とはいえね、一応、平和主義者ですから。無用なトラブルは回避したいわけなんですよ。


「はっはっは、冗談だ、冗談。単なる戯れ言と聞き流してくれ」


 笑いとともにそんなことを言ったんですけど、もうね、前後から殺気が沸き立っているのがわかるんですな。で、無言のうちに剣が引き抜かれては、こちらに向けられるっていうね。


 ……はあ、もう、嫌になるなあ。


「かかれっ!!!」


 指揮官のかけ声とともに、前後から兵が襲いかかる。


「レオンハルトっ!」


 声をかけると同時に馬を走らせた若き将軍は、焦るでもなく、ごくごく自然に剣を抜き放つと、指揮官と対峙した。


「前方を突破する! 私に続け!」


 向かってきた兵と剣を交えながら、俺は声を上げる。


 数秒にも満たない、そのわずかな時間。


 指揮官と対峙していたはずのレオンハルトが、いつの間にか姿を現し、俺と対峙していた兵の首を切り落とした。


「アルフォンス様、ご無事ですかっ!」

「大丈夫だっ! それより先ほどの男はっ」


 レオンハルトの視線の先には、すでに亡骸と化して地面に伏せている指揮官がいる。その変わり果てた姿に士気をそがれたのか、追っ手たちは悲鳴混じりに逃亡を始めるのだった。


「追いかけますか?」


 息一つ切らさない、涼しい顔をした若き将軍に俺はかぶりを振ってみせる。


「いいさ。あのまま戻ったところで、彼らも無事では済まないだろうからな」


 ミヒャエルの性格上、任務の失敗を許すことはないだろう。半ば、絶望ともいえる未来予想図に哀れな思いすら抱きながら、俺は剣を納め、レオンハルトに声をかけるのだった。


「それより、第二第三の追っ手が来るとも限らない。できるだけ早くアーベントラントに戻ろう」


 負傷者が出ていないことを確認した俺は、麾下の兵を連れ、夜道を急ぎ、アーベントラントの中心都市であるデンマーブルクへと馬を走らせた。


***


 デンマーブルクにある領主邸に辿り着いたのはそれから五日後のことだった。


 片道七日かかる行程を二日早く戻ってきた計算になる。昼夜の逃避行は肉体を酷使し、十六歳の若さでも、とてつもない疲労感を覚えるほどだ。


 なにより、精神面でいえば、中身は三十を過ぎたオッサンなのだ。正直、エナジードリンクが欲しくなる心境である。異世界だから、そんなものはないけどさ。


「アルフォンス様……」


 数日ぶりの風呂に入り、着替えを済ませた俺を出迎えてくれたのは、印象的な碧眼を持つ美しい補佐官で、瞳を潤ませながらうやうやしく一礼を施すのだった。


「やあ、エレオノーラ殿。留守中、迷惑をかけた」

「とんでもございません。アルフォンス様、ご無事で嬉しく思います」


 胸元で手を合わせ、心の底から安堵したようにエレオノーラは呟いた。その声に、家に戻ってきたなというような温かさを抱きながら、俺はさりげなく話題を転じるのだった。


「帰ってきて早々済まないが、私の祖父母は到着しているだろうか?」


 祖父も祖母も、ゲラルト率いる傭兵団『暁の狼』に守られながら、一足早く出発していたのだが。


 一方で、こちらは追っ手から逃れるように、途中で道を変え、昼夜問わず馬を走らせてきたこともあり、もしかしたら、俺のほうが早く着いてしまうかもと途中で気がついたのである。


「先ほどゲラルト殿より使者が送られてきました。本日、アーベントラント領内に入ったとのことです」


 ああ、やっぱりそうなったか。まあ、団長たちが一緒ならおじいさんもおばあさんも無事につくだろう。とにかく、二人とも歳だから、道中気をつけて欲しいものだね。


 そんなことを呟いていると、エレオノーラはお説教のように語をついでみせた。


「お身内の心配も結構ですが、アルフォンス様。どうか、ご自身のこともいたわってください」

「私自身を?」

「レオンハルト殿に伺いました。ここに来る道中、ろくに食事をとられなかったとか」


 それはまあ、いち早くここへ戻ることを優先していたからなあ。確かに携帯用の干し肉ぐらいしか食べてなかったけどさ。まあ、無事だったからいいじゃないかとも思うわけだよ。


「いいえ、いけません、アルフォンス様。私の目の黒いうちは、栄養価のある美味しい食事を召し上がっていただきます」


 いますぐ用意しますので食堂に向かいましょう。そんな風に続けるエレオノーラは、弟の世話を焼く姉のように見えてなんだか微笑ましい。


 たまにはこういうのもいいかもなとか、そんなことを思っていると、廊下の途中で足を止めたエレオノーラは振り返り、こちらの顔をまっすぐに見つめてから口を開いた。


「アルフォンス様。お願いがあるのですが」

「……?」

「私の父に会っていただけませんか?」

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