24.最期の手紙
" 薫さんへ
私の手紙は、読み終えましたか?きっと、これを見てるってことは、私は、あなたの側にいることが出来なかったってことですよね。ごめんなさい。もっと、かおるさんの側にいられたら良かったのに、それは叶わないくらいに短い命だったもので…
まあ、そんなことは後ででいいんです。
それよりかおるさん。私が一目惚れしたと思っていますよね。あれ、違うんです。私、実は薫さんをずっと前から知っていました。"
?、俺をずっと前から?
…ていうか、自分の命をそんなこととか言うなよ……
まあでも、あのつむぎだからなぁ……
つむぎはまだ、俺の頭の中で鮮明に映っていた
" かおるさんは覚えていますか?中学生の頃、私が公園で、1人で蹲って泣いてる時、あなたは手を差し伸べてくれたんです。『どうしたんだ?』って、優しく聞いてくれました。これが、1度目の出会いです "
…覚えてる。その子は、最近両親の仲が悪くて、家に帰りたくないと。絶望した顔をしてた……
あの悲しみで染まってる顔を持つ小さい子が、つむぎだったのか?
" 次に会ったのは、高校1年生の秋くらいの時期だと思います。友人の好きな人が、私を好きだったという理由で、イジメが始まりました。初めは大丈夫でしたが、イジメにずっと耐えられるほどの強靭な精神力は、私にはありませんでした。もう、死のうかなって、思ってたんです。両親も離婚して、母は他界。お金には困らないけど、ただそれだけ。私の孤独が満たされることはありませんでした。"
1度、読んでいた手紙を畳んだ。
つむぎが、ずっと優しい理由がやっと分かった……。
つむぎの過去も知らずに、俺はつむぎに何を思ってたんだ……?
何も考えず笑ってるやつなんかじゃない。
むしろ1番…誰よりも人生のことを考えて生きることを強いられてる人だった。
そんなやつに俺は少し前まで、表面上だけで、つむぎの笑顔の訳を勝手に決めて、勝手に解釈してた。
あの時俺に言った『生きるために笑ってますよね』って言葉は、正真正銘、つむぎもしてたんだ。
現実と向き合った心が折れないように、生きるために、必死で笑ってたんだ。
…だからあの時、俺とつむぎは同じだって、言った…
…あ〜……、これじゃ、他のやつらと何も変わらないじゃねーか…
本当に俺は、つむぎのことを何も知らないな…
半年くらいは一緒にいたのに、つむぎの家庭の事情を知ったのですら、ここ最近の事。
一方でつむぎは、俺のことを知った上で、ずっと側にいてくれた。
あのイジメの件も、俺は知っている………というか…
" そんな時、唯一助けてくれたのが、かおるさん、あなただったんです。次の日から、私はイジメられなくなりました。どうしてなのか分かった頃には、既にかおるさんは、高校にはいませんでした。ただ一言言ってくれた『笑え。この先の人生、笑わないとやっていけないぞ』って言葉を胸に刻んで、かおるさんを探し続けました"
俺にイジメの矛先が向いた出来事だ…。
…まさか、俺の言葉が、つむぎをずっと笑顔でいさせる原因になってたのか…?
つむぎを苦しめてばっかりだな…俺……
" 薫さんが『笑え』って言ってくれたおかげで、私の人生は好転したんですよ。友人関係も成績も、部活だって表彰されたりもして、充実した生活をおくれました。この時はまだ、病気は見つかっていませんでした"
…つむぎは、俺の心を手紙でも読めるのか?
現実でも、夢でも、手紙でも、どんな時も俺に優しく甘いつむぎは、自分には厳しかったんだろうな
『笑え』って言葉だけで人生が好転する訳がない。
その言葉で好転したのなら、それはつむぎが相応の努力をしたから
なのにつむぎは、俺の言葉を魔法みたいに言って、手紙の中でも俺を甘やかす。俺のおかげだって言って……
" 私の病気が見つかったのは、実は薫さんと出会う数日前だったんです。それから、私がもう長く生きることが出来ないのをどうやって嗅ぎつけたのか、元カレは遺産をくれと言ってきました。元々碌でもない人でした。そんな時、薫さんが来てくれたんです。これが、合わせて3回目の出会いです。"
俺の方が碌で無しだ……
つむぎを傷つけて、苦しめて、悲しませて…
こんな短い人生を、何で俺なんかのために捧げちまったんだよ…
ああ…文字が、読みづらい。
字が汚いとか、そういうのじゃない。
ただ、俺の視界が仕事をしないだけ。
だんだんと、俺の視界は揺れていく。
" それから、かおるさんとあのバーで鉢合わせた時。あの日が、担当の医師が私に、『夏までは生きられない』と余命宣告された日でした。あの時は、少しだけやけになってました。だから、顔見知りが絶対来なさそうなお店に入ったんです。でも、かおるさんがいました。かおるさんの顔を見たら、余命なんてどうでも良くなったんです。見た目は変わってたけど、性格はやっぱり、優しいままでした。『愛はいらない』って言ったの、本心だったんですよ。私が愛を与えるだけで良かったんです。かおるさんは優しいから、私が死んだら気に病んでしまうと思って、言ったのに。かおるさんは…かおるさんだけは、私を見て、私に愛をくれた、大切な人なんです。"
俺はつむぎに何もしてない。
過去の俺は何かしたのかもしれない。でも今は?
変わり果てた俺ですら受け入れてくれたつむぎに、俺は何もしてやれてないのにっ…
" だから、薫さんに、たくさんのありがとうを言わせてください。"
…!
"『助けてくれてありがとう』
『側にいてくれてありがとう』
『受け入れてくれてありがとう』
『変わろうとしてくれてありがとう』
『弱い私を受け入れてくれてありがとう』
『お揃いのものを用意してくれてありがとう』
『隣にいてくれてありがとう』
『素直なあなたでいてくれてありがとう』
『生きていてくれてありがとう』
『幸せをくれてありがとう』
『頼ってくれてありがとう』
『心配してくれてありがとう』
『涙を見せてくれてありがとう』
『泣かせてくれてありがとう』
『一緒に泣いてくれてありがとう』
『愛してくれてありがとう』
『来世も一緒になろうって言ってくれてありがとう』
『最後に…』
『出会ってくれてありがとう。私も、かおるさんを愛してます。来世の人生も、あなたと一緒に生きたいです』
" これで、私がかおるさんにどれだけ救われてるか、少しは分かりましたか?…ごめんなさい、かおるさん。あなたを1人にしてしまうことだけが、心残りです。私という存在に囚われないで、かおるさんの人生を生きてください…なんて言葉は、無責任ですよね。それでも、ごめんなさい。これだと、私を救ってくれたかおるさんへの、独りよがりな恩返しになってしまいますね。でも私、やっとかおるさんに少しだけ恩返しが出来て嬉しかったです。今世は一緒にいることが出来ないですけど、来世は必ず、一緒に生きましょうね。2人だけの約束です。最後に1つだけ。生きてくださいね。そしてたくさん、お土産として思い出話を聞かせてください。これも、約束です。大好きですよ、かおるさん。誰よりも、かおるさんを愛しています。
つむぎより"
……………………
あ〜〜っ…、本当にダメだろっ、なんでこんなもん残すんだよ…。
もう、生きる意味は無くなったと思ってた。
今度こそ、俺の未来が全部暗闇になった、なんの光もない中を、ただただ彷徨わなければ生きていけないのかと、思ってた…のに…。
つむぎは、そんな俺の未来が見えたのか、暗闇の中で光る、1つの蝋燭みたいに、温かく照らしてくれる。
……生きないと、…な。つむぎのために
いっぱい思い出つくって、これでもかってくらいに話に花を咲かせてやるから、…だからっ……
「うぁぁ"ぁ"____……!!!」
今だけは、つむぎのために泣いてもいいだろ……
◇◇◇




