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リア充応援計画  作者: 梅木 仁
始まりの始まり。
22/28

第二十二話ー芦湯成美’s history(1)ー

こんにちは、こんばんは!

梅木仁ばいきんまんです。

今話もどうぞよろしくお願いします!

「ところで、今、その規則18条は使われてる?」

当然、いくら規則にのっとった行為であっても、現実に利用されていなければ批判されかねない。

「そうね、今のところ委員会という形態で、広報委員会が設置されているわ。他に10年前には制裁委員会というのがあったわ。」

「制裁委員会?」

「今は教職の生徒指導部にあたるわ。小畠くん、アニメはわかる?」

アニメの話となっては小生の得意とするところだ。小生はうなずく。

「そう、アニメで出てくるところの風紀委員会みたいなものよ。」

「みたいなもの?」

「じゃあ、少しずつ説明するわね」

芦湯さんがこちらを向きなおし、姿勢を整える。


「普通に考えてね、なんらかの違反には二段階で制裁されるのが一般的だったの。違反した行為の認定というステップと、それにどれだけの制裁、というか罰を加えるかというステップ。繰り返す言うけれど、この2ステップで行われるのが一般的なの。」

確かにそうだ。昔の日本の文献にも、芦湯さんが言ったような流れで処理されていたと書かれていたのを覚えている。

「事実認定と法の適用、ってこと?」

「う~ん。そうね、昔の考え方だと、罪刑法定主義といって、制裁や罰があらかじめ明確にルールによって定められている必要があったわ。つまり、とある違反した事実について認定した上で、法によって制裁や罰は決められていて、それに基づいて罰せられたり制裁をされたりして裁くべきなの。」

「で、その制裁委員会っていうのは?」

「どうやら、生徒が生徒を裁く、というスタイルだったみたいよ。建前ではね。」

芦湯さんが終始渋い顔をしながら話している。

無論今でこそ、生徒主体の制裁委員会は存在しないから監視の目は緩んだ(少なくとも登下校中までは監視されていない)というべきではあるが。かといって、話していて気分のいい話ではない。

「となると、生徒が、事実認定とかをしてたんだ。え、10年前の校則はどんなだったの?」

小生は純粋に聞く。芦湯さんは逡巡しながらもこう答えた。


「それがね、ないのよ。ないの、校則が。」


芦湯さんは低く悲しそうな声で告げる。


単純に、校則がないというのは自由な校風というイメージを受けるのかもしれない。自由で闊達、生徒の自主性に任された校風というクリーンで若々しいイメージかもしれない。しかし、当時は少なくとも被植民地支配移行期で、三群校となったばかりの時代である。そのような時期に、無論、そんなフレッシュな校風があるとは必ずしも言いがたい。

そして重要なファクトはそれにとどまらない。時に、ルールというものは、権力者の言動の範囲を制限するという側面も持つ。言い換えれば。生徒会の言動の範囲は無論、教職の生徒への過干渉を防ぐという役割があると考えられる。


「と、ということは生徒が生徒を裁くっていうよりも…。」

小生は思わず唾をごくりと飲む。小生は少しその先を考えてみる。

被植民地支配移行期に全国で三群校に分けられたのと同時並行で進められたのが、既存の教職の追放である。その事実と、この校則が存在しないという事実から考えられるのは…。

「そう、もうそこまで気づいていると思うのだけれど、実際は先生が生徒を裁いているのと同じ。名目上は生徒が生徒を裁いていることにしていたってこと。」

芦湯さんは続けて言う。

「ここまで言ったのだから、最後まで言うわ。その制裁委員会の構成は、優秀な生徒、学業成績上位10パーセントの生徒から選任されて構成されたわ。そして、彼らには特権として、先生たちと一部同等の権利が与えられ…、うん。そういうこと。」

絶句してしまった。確かに小生は日本の広い意味での被植民地支配政策に関しては、概して理解していたが、学校政策の細部の理解までは理解が及んでいなかった。

結論として締めるならば、こうだ。


当時は制裁委員会というものがあった、その委員会は成績上位者によって構成された、彼らには生徒を裁く権利が与えられた、彼らは教職と一部同等の特権を有していた、彼らは教職の、いわば操り人形となって、生徒を裁いた。


芦湯さんは吐き捨てるように言った。

「まあ、今でこそ、あのドンジンの乱のおかげで宥和政策へ移行したから制裁委員会は廃止されたのだけれど…、ひょっとすると、昨日受けたオリエンテーションテストも、制裁委員の選抜のために利用されていたと考えるのが筋でしょうね…。」

彼女の目には涙が浮かんで見える。ただ彼女はその涙がこぼれるのをぐっとこらえるようにして、話し続ける。小生はまだ言葉が出てこないで、彼女の左側をただついていくように歩いている。

「つまりよ、私たちみたいに点数を競い合って、アイスをごちそうしようだなんて、本当に当時からしたら考えられないことだったのよ…。当時はもっと、生きるか死ぬか、勝ち組になれるのか、負け犬になるのかで、支配されていたわけね。学校というものが、学校出なかったのよ。上位の人は上位の人で、親友に巡り合えず、孤独な操り人形として青春を白色の空白のままで生きていたのかしらね…。」

その言葉を聞いて小生はからがら、声を発する。

「下位の人は、下位の人で、虐げられて、ということか…まるで奴隷のように…。」

「それを言うなら、上位の人も同じよ…あのころは、今よりもおかしい時代だったのよ…。」


時間が過ぎるのは早いもので、知らず知らずに身体は動いて、6組の教室前までたどり着いていた。小生は芦湯さんの後ろを歩く。廊下にも教室にも、まだ人影はない。

すると彼女は教室に入ることなく、廊下の窓から北側の教職棟を下に見て遠くの景色を見ている。その目に、もう涙はない。何かの決意に満ちたものを瞳の奥に宿しながら。小生は、なんとも、彼女がかっこよく見えた。

ただあまりの沈黙と、シーンとした張り詰めた空気に耐えられなくなって、彼女に聞いた。

「芦湯さん、よくそこまで知ってるよね。その文献、今度見せてよ。」

何気ない小生の一言に、彼女はまた、目を潤ませる。

「え、ど、どうした!?」

小生は混乱する。そしてついには流れなかった涙が芦湯さんの頬を伝う。

「え、そうね、ここまで見られちゃったんだし、話そうかしらね。」

その次の言葉に、小生は心を打たれ、頭を殴られたような気になる。


「今の話、全部、兄の遺書に書いてあった話なの。そう、私の兄は制裁委員会の委員長だったの。」


「兄はね、先生から言われるままに、従ったわ、なんでもね。今もそうだけれど生徒会が機能していない以上、制裁委員会のトップになって、制裁をできる限りなくして学校を、青春を、リア充を守るために身代わりになろうとしたのよ。だからこそ、どんなことでも従った。

「そしたら兄が委員長になる前、つまり委員としての最後の制裁の時に、先生に言われた指示は、退学処分を半年で10名に下せ、という指示だったの。」

小生はもう、目の前がバチバチとして視界の中の芦湯さんを捉えられていなかった。

「当時は毎年、全校でなぜか必ず50人ずつ退学者が出ていたのよ。それがね、実は制裁委員によって下された制裁だったの。そして、中には目標を達成しても精神的に病んでしまった人も多かった。でも兄はそれに耐えて目標の50人退学を達成させてなんとか委員長になったの…。

「そして、兄は委員長就任後、数か月して、確かに最初の目標通り制裁の数を減らしていったの。でも先生たちはそれを、その傾向を見逃さなかった。」

小生がようやっと声を挟む。

「見逃さなかったって?どういうこと?」

「そこまでは詳しく知らないわ…でも、兄はある日から学校に行けなくなった。おそらく、制裁委員会の中で、いろいろ反発が起きていたのよ。だって、制裁の数を減らすってことは、部下の出世を妨げることにもなるから。そして、学校に行かなくなった兄は、休学ということになって、そして…。」

そのあとの言葉は聞くまでもなかった。




人は、それぞれの歩調で、歩幅で、いろんなものを見ながら生きている。

芦湯成美。

彼女の背後には小生では思いもよらなった、過去がある。

彼女が一昨日の入学式で小生に声をかけた理由。

ただただ読書だけをしている彼女がなぜ小生に声をかけたのか。


見えてきた現実は何にも名状しがたいほどに残酷なものだった。

最後までお読みいただきありがとうございました。

今話は少し重い話になってしまいましたね…。

個人的にはもう少し軽く書いていきたかったのですが、やっぱり登場人物のことをしっかりと書いていこうとするとどうしてもシリアスになってしまいます。小生は芦湯成美に感情移入しながら書きつつも、主人公目線で書いております。とても難しいことなので時折、自分が誰だかわからなくなります。でも、そうすることで、主人公でも芦湯成美でもない、現実世界での自分というものがちゃんと見えてくる気がします。その意味でも、自己分析になっている気がします。

さて、最後は業務連絡。特になしです汗

これからも精一杯書いて参りますので、よろしくお願いします。

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