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木のドアを潜った先の廊下には、等間隔に花瓶があり毎日、取り換えているのかきちんと綺麗な花も差さっていた。
犯罪に加担する組織の本拠地にしては、余りに不釣り合いの光景だった。
浮浪人が部屋を出た所で男は、壁に寄り掛かり待っていた。浮浪人を一瞥すると黙って先を歩いて行く。
男は途中、振り返る素振りは一切見せず前だけを見て歩く。
真っ直ぐ伸びる廊下を二度ほど右へ左へと曲がる男に付いて行きながら、幾多に枝分かれした廊下を目にして屋敷の大きさを実感させられた。自分であれば迷子にでもなってしまいそうな廊下を男は、躊躇いもせず進んで行くと、
「此処だ。中では、変なこと口走んなよ。浮浪人」
「僕は――」
男の足が止まって、やっと自分を見たかと思うと言いたいことだけを言い、自分のことを未だに〝浮浪人〟と無神経に呼んでいることに対して反論しようとした時には既に遅く、男の右手側にあった両開きの扉が開かれる。
「遅かったですね……」
開かれた扉の先に見えたのは、裏の組織に所属するのには違和感が拭えない、いたいけな少女。
「すまないな。浮浪人が、もたもたするもんで――」
「あの。さっきから言おうと思っていたんだが僕の名前は、浮浪人なんかじゃない。ルイス・ランテという立派な名前がある。それに浮浪人ではなく旅人もしくは、放浪人と言って頂けますか? 浮浪人だと些か気分が悪い」
此処が何処かも忘れ自分の言いたいことをつらつらと述べたが先程、男に中では口を慎め。と忠告を受けたばかりだった。
「だははぁ! 面白い輩を連れて来たな。このリッドグリードの支柱を担うグランデにそこまで言い切るとは――」
浮浪人改めルイスの発言に腹を抱え笑う一人の女。
部屋に入ってから、少女とグランデと呼ばれる男の暴言に意識が集中し過ぎていて気付かなかったが、少女の目の前の豪勢な椅子に座っている露出の激しい――簡素に答えるならば品のない女が未だに大口を開けて笑っている。
「お前、人の話を聞いていたか? 変なことを口走るな。と忠告したと思ったんだが……まぁいい。ボスには気に入られたみたいだからな」
「ボ、ボスゥ!」
目の前に居たのは、そう裏の組織リッドグリードのトップ。
知りたくもなかったが、そのボスの話でグランデがかなりの幹部ということも判明した。
少し前までの男に対する態度を思い出し、体が強張った。今までの無礼をなかったことに出来るなら、今直ぐに土下座でもなんでもする勢いの心構えだった。
「――ルイス。まぁ、そんなに硬くなるな。ルイス。お前に私達からお願いがあるんだよ――」
「お願い。ですか……」
肘を膝につけ体を前のめりして上目遣いでルイスを見るボス。
その顔には、不気味な笑みが浮かんでいる。
ボスの言葉を繰り返して理解しようと努力をしてみるが、裏の組織の〝願い〟は、表の世界の凡人には、理解出来なかった。
「ま、お願いって言ってもルイスに断る権利はないがな」
「え? そ、そんな――」
当たり前のことだが、囚われの身であるルイスに救いの道はなかった。
自分の置かれている状況を無視して、ボスの言葉に対し咄嗟に不満の意を述べようとするが、そんなものは許されないのも分かり切っている話で――
「断るなら死んでもらうよ。うちの内情を知られたからにはね。それが嫌なら素直に頭を縦に振ることが得策だと思うよ」
先程までの気のでかい姉ちゃんのオーラは、一瞬にして組織のボスとしての威圧に変わる。
威圧に耐えることの出来るはずのないルイスの頭は、防衛本能で勝手に首を縦に振っていた。
「よーし。利口な判断だ――ありがとよルイス。恩に着るよ」
掛声と共に立ち上がったボスは、ルイスの横まで来ると数回軽く、肩を叩いた。
自分がどんな立場にいるのかを明確にする言葉を浴びせられたルイスの体は、その時から動かなくなっていた。
「じゃ。後は、頼んだよ」
「はい」「うっす」
ルイスは、なんの反応も出来ないまま、その場に佇む。
二人に指示をして揃った返事を聞きボスは、部屋を後にする。
部屋には、無表情の少女と厳つい男グランデと自分だけが残された。
「命が助かるだけ良かったと思え。その代わり今回のことは、他言無用だからな。分かっているだろうな、浮浪人」
横に居たグランデが馬鹿にするように半笑いで言う。
しかし、そのことよりも最後の〝浮浪人〟の方が頭に来たルイスは、思わず相手を睨む。
「一般人が兄様に刃向う姿など初めて見ました。兄様を目の前に一般人が命乞い以外をするのは、初めてのことです――」
少女のいやにリアルな話に鋭く睨んでいた目は、力を失くし遂には男を見ることも敵わない。
「私の名前は、ミラ・フォースです。あちらが兄のグランデ・フォース。ルイスさん任務への協力を感謝します」
適当で言葉も汚いグランデと血の繋がりがあるとは、思えない程しっかりとした少女ミラ。
どんな成り行きかは、分からないが命の代わりに組織に協力することになってしまったルイス・ランテの旅は、最悪のスタートを切った。




