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Wonder record  作者: ゆんゆ
第一章
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5/8

*

 リッドグリード――


 暗殺や戦争といった争いにおいて必要とされる、優秀な人材派遣を請け負う裏の組織。

 戦場などで度々、ダイヤをモチーフにしたエンブレムを衣服かアクセサリーとして身につけている人が見掛けられたことから〝人殺しを請け負う組織が存在する〟と噂が広まり、表の人間にも周知されることとなった。

 組織の人間の証し、ダイヤのエンブレム。

 裏の世界では、有名な組織だったが表の人間は、前のことが広まるまでは、知る由もなかった。

 詳しいことは、存在が明るみになってからも分からぬままだったのだが、裏の世界の構造に興味を持った表の人間に因って〝組織の名前〟と〝組織の一員は人間とは掛け離れた身体能力を持っている〟この二つだけが表の世界でも認知されるようになった。


 だが、それ以上を知る者はいない……

 何故なら――


 組織のことを知ってしまった者及び調べようとした者は、全て……この世に存在しないからだ。

 それからと言うもの組織について触れることは、タブーとなった。

 組織の内情に少しでも触れた者は、組織の持つ力で消される――



 ――僕の人生は、短かった。こんなにも早く君との別れが来るとは、思っていなかったよ――


「おっ……――おい! 起きろ‼」

「はひぃ!」


 夢の中にいた浮浪人は、耳元でした大きな声で現実世界へと引き戻された。

 勝手に夢の中で自分は、死んだ。と思い込んでいた浮浪人は、上体を起こした先にある自分の足を見た瞬間〝死にたくない〟という強い思いの所為で、遂には〝生きている〟と錯覚させられている夢を、見ているのだと思った。

 そんな中、浮浪人の口から出た言葉は、とても単純なものだった。


「僕は、生きているのかい?」

「何言ってんだよ。そんなことも自分で分かんねぇーのか――」


 状況を把握できていない中、確認の意味で呟いた。しかし、独り言のつもりだった言葉に対して返答された。

 返して来たのは、起こされた時と同じ低い男性の声。

 流石に夢でないことと、この空間に居るのは自分一人でないことだけは理解出来た浮浪人は、辺りを見渡し声の主を探した。


「どこ見てんだよ――」

「き、君は!」


 人間の習性と言うやつは厄介で、目の前にある物よりも視界に入らない横や後ろに目をやってしまう。そして、浮浪人の足元にいた男は、目の前に居るにも関わらず無視されているような気持ちになり、痺れを切らして声を発した。

 浮浪人は、視線を上げて目の前に居た意外なる声の主を見ると瞬きを速くし、少し大きな声を出してしまう。

 男は、踵を地面につけず爪先だけで屈んで浮浪人を凝視していた――それは、それは、見覚えのある戦場で会った厳つい顔の男。


「こんな分かり易いとこに居んのに無視か?」

「いや、灯台もと暗し。と言うやつだよ――そうじゃなくて君は、リッドグリードの一員なのだろ? 何故、僕は生きているんだい?」

「来い――」


 自分の両手をまじまじと眺めながら、一度に二つの質問した浮浪人に対して一つも正解を与えることなく、腰をあげ部屋を出て行ってしまう。

 音を立てて閉められたドア。

 部屋には、自分一人が残る。


 一人になって誰の邪魔も入らなくなった所で、状況確認の為に部屋の中を見渡すが何一つ不審な点はなく、何よりも自分の置かれている状況が余りに意外過ぎて、自然と目が見開かれる――

 浮浪人は、捕まった。という意識があったので、自分が小奇麗な部屋の中央に敷かれた布団に丁寧に寝かせられてるということに驚かされたのだ。

 囚われの身というのは大抵、身動きがとれないように手足が拘束されていて冷たく無機質で薄暗い監獄のような所に入れられるものだと思っていた。

 場所は兎も角、身動きが取れたとしても此処は、人を殺すことに長けている組織の本拠地。

 ただの浮浪人には、敵う訳がないのだが――

 部屋の中をゆっくり見渡しながら思考を巡らせていた浮浪人だったが、ふと男が待っていることを思い出し人を見た目で判断するのは、いけないと教育されて来た常識人でさえ絶対に、あの男は短気だ。と推測するであろう男を待たせ過ぎると何をされるか分からないので、早々に起き上がるが、


「ありゃりゃ――」


 立ち上がろうとして全体重を両足で支えようとした瞬間、捕まった時のダメージが腰にきていたらしく鈍い痛みを感じた。

 同時によろけた浮浪人は、右に傾き右足で体を支えようとバランスを取るが頑張った甲斐もなく、半回転した後もう一度天井を仰ぐ。


「あはは。痛い――」

「何やってんだよ」


 自分がまだ痛みを感じる人間だということが嬉しく思え、床に大の字で寝転がりながら痛みに対して笑う。

 浮浪人が中々、部屋から出て来ないことに待ち切れなくなった男がドアを開けた時、倒れたにも関わらず笑っている浮浪人を見てしまい、気味悪がりながら言った。


「ほらよっ」


 男は、意外にも親切で倒れている浮浪人に手を差し伸べ起きるのを手伝ってくれた。


「すまない。ありがとう。君は、意外といい人なんだね」


 二本の足で立った浮浪人は、親切な男に対して褒めたつもりで言ったのだが怪訝な表情を見せた男は、足早に部屋から出て行ってしまった。

 ただ照れてしまっただけだろう。と男の反応に対して曲がった解釈をして次は、遅れないように軽く布団を整えてから直ぐに後を追って行く。


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