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「何やってんだ! テメェ!」
「に、逃げ遅れてしまって……」
「これだから浮浪人は困るぜっ! テメェ死にたくなかったら此処を動くな! 動いたら死ぬぞ! 分かったな‼」
銃弾の飛び交う林の中、戦闘の真っ最中の男が生い茂る叢に人影を見つけ放っておくことは、出来なかったのだろう自分を見ていた。
その男は、解けば腰までは、ありそうな茶色の髪を後頭部で結っていて棘のある怒鳴り声で言葉を浴びせ、浮浪人と呼ばれた男は、あまりの男の迫力に叢から覗かせていた顔を引っ込め怯んだ。
大人である現在、人に本気で怒られた浮浪人は、鋭い目つきの男に嫌悪し相手に見えないように睨みつけてみたのだが、しかし、その言葉使いや態度を除けば素晴らしく人並み外れた男であった。
どうしてこのような状況に陥ったのかと言うと――
内乱の絶えないウィズ地区に軽い気持ちで、足を踏み入れてしまったのが事の発端。
それは、ウィズ地区の先にあるティナーという街に行く為だった。
ティナーは、他の街とは比べ物にならない程に芸術が抜きん出ている豊かな街。
絵画を始め他種に渡る工芸品や楽器など――浮浪人の興味をそそる物が幾多にあった。
故に少しでも早く街へと辿り着きたかった。
本当であればかなりの遠回りになるが、ウィズ地区を迂回して進むのが旅人の当然の決まりなのだが……
浮浪人は一つ前の街で、何処の輩とも知れない男から〝ウィズ地区では内乱は起こっていない〟という情報を手に入れ、それを鵜呑みにした結果〝安全だろう〟と踏んで、のこのこ戦乱の中に飛び込んで行ってしまったのだ。
〝動くな〟と強く汚い口調で言った男は、向ってくる敵に身体一つで向かって行った。
「信じられない――」
武器を持った相手に身体一つとは、些か常識的に考え難いものがあった。
目に見えない速さで飛んでくる銃弾を避け、一斉に飛びかかって来る者達も上手く避けていた。
次に攻撃に出た男は、相手へと距離を詰めると、蹴りだの拳だのを顔や腹に次々と決めて行く。
一人では、到底敵わない敵の数だった。
しかし、男は余裕の表情で自分を〝敵〟と認識する輩を片っ端から薙ぎ倒して行った。
十分程度の出来事だっただろう。
〝動くな〟と言われ、その通りに叢に身を潜めたまま男の活躍を目にしていたが、余りの呆気ない結末に男が何をしていたのか、記憶の大部分が抜け落ちたように思い出せなかった。
「おい。いつまでそこに居るつもりだ?」
「え? あ、はい。すみません。助けて下さってありがとうございました……」
男の手に因って無残にも意識や命を奪われた人達が足元に横たわる中に浮浪人に対し背を向け、仁王立ちで立っていた男が肩越しに言う。
男の強さの象徴とも言える、倒れている人達に気を取られていた浮浪人は、男の言葉に視線を下から上へと移す。
目が合った後の男の言葉には、やはり棘があったが助けてもらった手前、叢から立ち上がり頭を下げて丁寧に礼の意を述べる。
「助けたわけじゃねぇー。これが俺の仕事だ」
「……あぁ。そうなんですか……でも、まぁ。いやー強いですな。素手だけで此処まで戦えるとは、噂に聞くリッドグリードにでも入れるのではないですか?」
「…………――」
浮浪人は、命の危機から脱した安堵感からか饒舌に言葉を交わす。
雰囲気を少しでも良くしようとの心遣いのつもりだったのだが、男の表情が急に険しくなり黙ってしまった。
浮浪人は、自分の一言で前触れもなく漂った鈍よりとした空気に嫌な予感がしていた。
それは、ただの予想だけでは済まず、浮浪人の体が自分の意思とは関係なく地面へと平伏す。
「ふごぉっ」
両手を後ろに取られ倒された体を庇うことも出来ず胸は、固い地面へと打ちつけられ痛みと共に顔を歪め咳き込む。
「連れて行け……」
「はっ!」「はい!」
何処からともなく現れた二つの黒い影に因って、取り押さえられた浮浪人。
浮浪人と話をしていた男の合図で二つの影の内の一つが、浮浪人を拘束したまま担ぎあげ何処かへと駆けて行く。
――もう僕は、お仕舞いだ。
人生の終着を悟った浮浪人は、倒された時の痛みと頭に血が上ったことで霞んでいく視界に閉じたくないはずの瞼が次第に重くなり、完全に視界を閉ざす。




