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1000回振られても君が好き  作者: 千子


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6/20

底が見えない

新井が高塚を打ったという噂は驚くほど早く校内を駆け抜けた。

三角関係の修羅場というには高塚は俺たちには高嶺の花過ぎて、新井の一方的な嫉妬として取り扱われた。

それは一部の男子から反感を買った。

男子に嫌われたくない女子は黙っていた。


沈黙は何より残酷だった。


俺は出来る限り新井を庇った。

勇気のある者は、高塚になんで打たれたのか尋ねた。

「なんでかしらね」

微笑んで言われると、余計に新井の立場がなくなる。

なんでこんなことをするんだ!

俺は憤怒したけれど、俺と目を合わせると潤んで訴え掛けるような瞳に何も言えなくなる。

俺は弱かった。

「ごめんな、新井」

「ううん。カッとなって高塚さんを打っちゃった私が悪いんだもん」

昼食は教室から校舎裏に移った。

視線に耐えかねた新井からの提案だった。

「高塚さん、何を考えているんだろう」

「さぁな」

中学三年間追い続けた存在は、意味の分からないところが多かった。

新しい発見だ。

知りたくなかったけど。

「くしゅん」

外はまだ寒い。

夏は日差しも強いだろう。

早く教室で昼食を食べられるようになりたい。

新井のためにも。


俺は、部活の合間に高塚を呼び出した。

事情を知っている連中からジロジロ見られるから部室の裏まで連れ出した。

先にいた新井と合流して、三人で話し合う。

「なあ、高塚。なんでこんなことをするんだ?」

「こんなことって?」

「私達に嫌がらせとか」

「私は何もしていないけど?」

高塚の言う通りだ。

高塚自身は何もしていない。

高塚に好かれたい男子が暴走しているだけだ。

「じゃあ、男子をなんとかしてくれ」

「私から何かしてって言ったわけじゃないもの」

俺には、目の前の女が中学三年間好きでたまらなかった女に見えなかった。

底が知れない。

「じゃあ、言ってくれ。俺達に関わるなって」

「分かったわ」

それ以降、男子からの嫌がらせは止んだ。

けれど俺には高塚が怖かった。 

中学の時はこんな子じゃなかったはずだ。

なんで俺と新井の中を邪魔するんだ?

何も解決していないのに、体だけが動く。

俺は今日も跳んでいた。

チリチリ、蝋の翼が溶ける音を聞きながら。

……高塚があんなことをしていたのは、俺と新井が付き合い始めてからだ。

もし、もしも俺と新井が付き合ったことが気に入らないなら。

俺のことが本当は好きだったんなら。

いや、それはないか。

それならあんなに告白していた中学時代に告白を受け入れてくれたはずだ。

それに俺は新井が好きだ。

それは間違いない。

本質を間違えるな。

溶けた蝋が固まる気がした。

もっと高く跳ぶ。

「すごいじゃん!飯田くん!最高記録だよ!」

「本当か?」

見ていてくれた新井に近寄ってタオルを受け取る。

今日は高いなぁと思っていたけれど、今までで一番高いなんて。

「新井のおかげだな。ありがとう」

「ううん。私は何もしていないよ」

「新井がいてくれるから頑張れるんだ」

「飯田くん……」

いい雰囲気はあっさりと壊される。

「こら!そこ!部活動に恋愛を持ち込まない!」

「鹿谷部長……」

「すみません!」

二人して謝罪をする、そんな姿を高塚が冷めた目で見ていたのには気が付かなかった。

唇を噛み締めて、何かに耐えているようだった。

唯一、清水先輩だけは目撃していて、今後について他の部員を集めて会議をしていたことすら俺達には知らされていなかった。


翌日から昼食は教室に戻った。

みんなも普段通り重い思いの昼休みを過ごしている。

「美味しい?」

「美味しいよ」

バカップルみたいな会話をしながら元の生活に戻れた喜びを噛み締めていた。

「明日は飯田くんの好きなもの入れてくるね!」

「本当か?嬉しい」

ほんわかした空気が漂う。

「飯田くん、高跳びの調子もいいね」

「ああ。新井が見ていてくれるからな」

「もう……」

赤くなる新井は可愛い。

この笑顔のために頑張れるのは事実だと思う。

「新井、俺、頑張るから」

「うん。一番近くで見ているね」

その言葉だけで俺は力が湧いてきて、イカロスの翼なんて忘れてどこまでも跳べる気がしていた。

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