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1000回振られても君が好き  作者: 千子


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青空と蝋の羽

高跳びをして、青い空を見る。

その瞬間は何もかも忘れられる。

ただ高く。

誰よりも高くあの青に近付きたい。

陸上部に入部してから、俺はどんどん高跳びにハマっていった。

新井もマネージャーの仕事に忙しそうだ。

高く飛べば飛ぶほど、みんなからすごいと言われるのも自尊心を擽られる。

もっと、あの青に近付きたい。

そう思って飛ぶ日々に、転機が訪れた。

新入生の入部が打ち切られる日、みんなが集められた。

「一年から新しいマネージャー希望者が現れた。高塚佳菜子さんだ」

俺と新井は目を見合わせた。

「高塚佳菜子です。陸上のことはよく分かりませんが、よろしくお願いします」

頭を下げると、男子がどよめいた。

だって、あの高塚が、マネージャー!

出来るんだろうかとか、なんで陸上部のマネージャーに?とか、疑問は尽きないけれど、俺には飛ぶことしか出来ない。

高塚がマネージャーになってから新井の機嫌が悪い。

俺が言葉を尽くしても、不安な気持ちは拭えないらしい。

どうしよう。

そんな思いも込めて飛んだせいか、いつもより調子が悪い。

「飯田くん。どうかした〜?」

「三ツ谷先輩」

恋愛事に煩い鹿谷部長より三ツ谷先輩の方が相談しやすいか……。

「実は……」

俺は、中学時代のことも含めて今の状況を相談した。

「なるほど〜。飯田くんも隅に置けないねぇ〜」

「そんなことは」

三ツ谷先輩は清水先輩の方を見た。

「清水からは何にも言われていないからとりあえずマネージャーとして二人はどうこうってなっていないんじゃない?これからはわかんないけど、とりあえず何かあったら清水から俺たちに報告があるはずだよ」

「はぁ」

俺は俯いてしまう。

「しょぼくれるな!上を向いて飛んでろ〜!」

パシン!と音が鳴るくらい背中を叩かれて思わず空を見た。

そうだ。

跳ぼう。

それからまた熱中して跳んでいった。

あの青い空に近付けば、この悩みも消えるんだろうか?

でも、イカロスは太陽に近付きすぎて蝋の羽が溶けて死んでしまった。

俺も、この悩みに結論を出したら死んでしまうんだろうか。

いや、俺は新井が好きだ。

イカロスにはならない。

じっとこちらを見つめる四つの瞳。

それに背を向けて跳び続けた。


「飯田くん。お疲れ様」

タオルを持って高塚がやってきた。

「あ、ありがとう」

思わず受け取ってしまった視界の端に同じくタオルを持ってこちらに来ようとしていた新井が見えた。

やらかした!

そう思っても受け取ってしまったものは仕方がない。

それに、早く汗を拭きたかった。

「……高塚は、なんで陸上部のマネージャーになったんだ?」

蝋が燃える音がした。

「なんでだと思う?」

蠱惑的に高塚が微笑む。

少しドキリとした。

チリチリ、音がする。

「なんでかは、俺には関係ないと思う」

「本当に?」

「なぁ、高塚。俺の事を揶揄っているのか?中学三年間、ずっと告白を断り続けていたのに、なんで急に近付いてくるんだ?」

「なんでだろう?自分でも分からないんだ」

高塚がそう言った時、背後から新井が近付いて来た。

「なら、分からないままでいて。飯田くんに近付かないで。飯田くんは私の彼氏なの」

「今はね」

高塚の挑発に新井がカッとなって高塚の白い頬を打った。

「新井!」

「……ごめんなさい」

遠くで見ていた清水先輩が声を掛けて来た。

「ほら!一年二人!修羅場してる前にやる事たくさんあるよ!」

その言葉に新井が走って清水先輩の元へ走って行った。

「怒らせちゃった」

そう言うと、高塚も清水先輩の元へ走って行った。

俺は無性にあの青に近付きたくて、蝋が溶ける音を聞かずにただ跳んでいた。

それでも空は遠くて、俺は新井のことを好きなはずなのに、どんどん危うくなる高塚から目が離せなくなっていた。

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