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1000回振られても君が好き  作者: 千子


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部活動

あの日から、なんとなく高塚が気になって自然と目が追いかけるようになる。

新井がそんな俺に気付かないはずがない。

「ねえ、高塚さんと何かあった?」

不安気な表情で尋ねられる。

表情豊かで活発で素直で甘えたがりな今の彼女の新井。

文武両道、クールで中学時代三年間好きで追い掛けていた高塚。

選ぶのは新井のはずなのに、あの日の高塚の寂しそうな顔を思い出すと何とも言えない気持ちになる。

俺ならそんな顔をさせなかったのに。

振られていた俺がそんなことを言っても高塚には届かないだろう。

それより目の前の新井だ。

「なんでもないよ」

「本当に?」

「本当だって」

信じて欲しい。

今の俺が好きなのは新井なんだ。

じっと見詰め合うと、周囲から茶化された。

そんな周囲に反応せずに真っ直ぐに新井を見続けると、新井が折れた。

「分かった。飯田くんのこと、信じているから」

「ああ。信じてくれ」

高塚は中学時代の思い出。

そう、思い出なんだ。

今の俺には新井がいるのに、何を考えているんだ。

「新井、好きだ」

その言葉に教室内が騒がしくなる。

新井は真っ赤だ。

「わ、私も好きだよ」

そう言って卵焼きを食べた。

教室内でクラスメイトが結婚式には呼んでくれよとか野次を飛ばしてくる。

それが何だ。

俺には、今、新井が大切なんだ。

でも、結婚式という言葉にあの日思い浮かんだエプロン姿の高塚が俺に微笑みかける。

俺はそれを忘れるように新井の弁当を食べた。

「そういえば、部活どうする?」

「部活?」

「入部希望、もうすぐ締切だよ」

そういえば朝のホームルームでも言っていたっけ?

「特にやりたいことはないかな……」

中学は高塚を追い掛けていることに忙しかったし。

いや!

振り切るためにも何か新しい趣味を持とう、

「……何か、入ろうかな」

「じゃあ!陸上部はどう?陸上だけは褒められていたじゃん!高跳び!」

そういえばそうだった。

俺が唯一、先生に指名されてみんなの前で手本になった競技。

「私、マネージャーになるしさ。どう?」

新井が窺う。

「そうだな……」

陸上も高跳びも嫌いじゃない。

何かを始めるにはちょうどいいかもしれない。

「見学だけでも行ってみるか」

「やった!それじゃあ今日の放課後、見に行こう!」

はしゃぐ新井が可愛くて、俺もすっかりその気になった。


放課後、陸上部の部室の扉を叩く。

「すみません。見学希望なんですけど……」

「今更見学?ギリギリだけど、まあいいか。じゃあ、体操服に着替えて。そっちの女の子は?」

「私はマネージャー希望です!」

「ふぅん。恋人同士で楽しくやれるほど、うちの陸上部は甘くないよ」

部長と思わしき男性に忠告される。

選択する部活を間違えたかな……。

一抹の不安を抱えていると、そんな部長と思われる男性を叩く女生徒がいた。

「ほら!そんなこと言っているから今年は新入部員が少ないの!部の存続のためにあんたも頑張りなさいよ!」

「でも、俺達は今年こそ全国に行きたいんだ」

他の部員も頷いている。

「そんなの、この子の実力も見ないうちにどうするの。あなた、得意競技は?」

急に話を振られて、少し慌ててしまう。

「えっと、高跳び……です」

「高跳び!いいじゃない!うちに高跳びに強い選手いないもん!足が速いばっかりでさぁ」

けらけら笑いながら男子生徒の背中を叩く。

「失礼ですが、あなたは?」

「あ、ごめん。三年マネージャーの清水っていうの。あなたは?」

「飯田慎太郎です」

「私は新井里子です!マネージャー希望です!」

俺達を見て値踏みするように眺める。

「ふぅん。恋人同士?いいねぇ、青春だねぇ!」

「だから、そんな甘い考えじゃ……!」

「そんなんだからあんたは彼女の一人も高校三年間作れないのよ」

「うっ、陸上と恋愛に関係は……」

なんだかこの部活の力関係がわかってきたぞ。

「とりあえず、見学をお願いします」

「よろしくお願いします!」

二人揃って頭を下げる。

この部活で本当によかったんだろうか。

まあ、今日は見学だけだしな。無理ならやめよう。

マネージャーの清水さんは軽快に快諾した。

「いいよー!さ、体操服に着替えてみんなグラウンドに集合!新井さんは女子更衣室に行こうね」

「はい!飯田くん、またね」

「ああ」

女性陣と別れると、部室内には他の先に入部した一年や先輩達だけになってしまった。

「俺は三年、部長の鹿谷だ。今日は見学ということで、まあ実力を見せてもらおうか」

「安心していいぞ、飯田。部長、怖そうだけど怖そうなだけだから」

「そうそう。部長に成り立てで張り切っているだけだからお気になさらず〜」

周囲から援護を受けて鹿谷部長が赤くなる。

「お前ら!」

「本当だろう、鹿谷。えっと飯田くんだっけ?肩の力を抜いて気楽にね〜。あ、俺は副部長の三ツ谷。よろしく〜」

手をひらひらさせて、軽そうな先輩が笑ってくれる。

「よろしくお願いします!」

「だから固くならなくっていいって」

そうして、俺の陸上部の見学は始まった。

準備運動から始まり、グラウンドを十周。

「えっと、飯田くんは高跳びが得意なんだよね。うち、足は早いけど高跳びに特化した選手がいないからいてくれると助かるかも〜」

そう言いながら準備されていく。

なんだか高跳びに対する期待がされてしまっている。

これは失敗出来ないな。

「飯田くん、頑張ってー!」

体操服に着替えた新井の声援を受けて、久々に走り出す。

ここだ。

ぐっと力を込めて高く飛ぶ。

ハードルは揺れもしなかった。

「おお」

鹿谷部長が感嘆の声を漏らす。

「すごいじゃん、飯田くん。結構高く設定したのに。それじゃあどこまで飛べるか検証しよう〜」

三ツ谷先輩の声でハードルがどんどん高くなる。

飛ぶ度に感嘆の声や声援が耳に届く。

後半は自分でもどこまで飛べるか楽しみになってきた。

「あっ」

何度目かの飛び立ちでハードルが踵に触れて落ちてしまった。

「残念〜。でも、これなら充分だよ〜!」

「……ああ、認めるしかない」

「それじゃあ」

「入部おめでとう〜!って、最初から決まっていたけど」

三ツ谷先輩が舌を出して悪戯っ子のように笑う。

「高校生の部ではなかなかの具合だな。もっと頑張れば、大会でもかなりの好成績を残せるぞ」

鹿谷部長からも褒められる。

「やったじゃないか、飯田」

「すげぇな、お前」

「地味な奴だと思ってたわ」

二年生や同級生からも持ち上げられて、調子に乗ってしまい、そのまま陸上部に入部した。

「飯田くん!格好良かったよ!」

新井の声援が一番効いたのは惚れた欲目だろう。

「ありがとう」

こうして、高校は陸上部として部活動を頑張ることになった。

もちろんマネージャーとして新井と一緒に。

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