それから
人間の俺は、人間らしく、地道に堅実に生きている。
季節は過ぎ去り、俺達は高二になった。
新しく入部した後輩にいいところを見せようとして失敗したことは内緒にしていたい。
大会に出たら一位を取れることがあれば、榊以上のライバルが出てきたり、割と熱くなることもある。
相変わらず、走って、跳んで、あの太陽を見る。
俺がどう生きようと、空は何も変わらなかった。
「飯田先輩って、時々空を眺めているんですけど、何があるんですか?」
後輩の一人に尋ねられた。
「なんだと思う?」
「さぁ?」
小首を傾げる後輩に、少し前の春大会を思い出す。
「跳んだ先にしか見えない景色があるんだよ」
そう言って、紙をぐしゃぐしゃにかき混ぜる。
「あ!やめてくださいよ。もー」
嫌がられてもそんな姿が可愛いと思うのは後輩馬鹿だからだろう。
鹿谷先輩や清水先輩達の気持ちが少し分かったかもしれない。
後輩は可愛い。
榊にそう言ったら、部活やめたから後輩と接点なくてわかんねーと言われた。
まあ、そういうタイプもいるだろう。
榊は時々、高塚を飯やらデートに誘っているみたいで、勝率は1%を超えるかどうからしい。
けれど、本人は高塚とやりとりをしているだけで楽しそうだ。
そして俺は知っている。
高塚は本当に嫌なら返信しないことを。
律儀に告白を断っていた時のように、誘いをやめてくれと告げればいいだけだと思う。
それでもそうしないのは、少しは気持ちがあるからじゃないかと榊に味方したい俺の心が希望的観測を出している。
いつか、ダブルデートのリベンジが出来たらいいかもな、なんて思っている。
「さて、今日も飛ぶか」
走って、跳んで、空を見る。
この繰り返しだけれど、俺は空に包まれている気持ちになれた。
気持ちいい。
もうすぐ夏だ。
夏になったらまた大会がある。
新たなライバルにも負けないように、俺も日々研鑽しないといけない。
「慎太郎くん、楽しそう」
「そうか?そうかもな」
里子からドリンクとタオルを受け取って少し休憩に入る。
「次の大会も勝ってね」
「そうね、勝ってくれないと。うちの部の宣伝にもなるわ」
高塚がやってきて、そんなことを言う。
「あの春の大会を見て新入生が陸上部に入ってくれたんだから、飯田くんにはまた勝ってもらっていい宣伝になってもらわないと」
榊。お前はこれでも高塚が俺を好きだなんて言えるのか?
完全に無料の宣伝費扱いだぞ。
俺が顔を引くつかせていると、高塚が笑った。
「冗談よ……なんてね」
「それはどっちなんだよ!?」
聞いても高塚は笑うだけだ。
里子も笑っている。
しょうがなくて、俺も笑ってしまった。
「あの三人、仲がいいですよねー」
「一年、表面だけ見ている間は幸せなもんだぞ」
他の部員のそんな会話をさせられていて、俺は何も知らないままへらりと笑っていた。




