里子と高塚と
大会が終わり、数日後。
高塚に呼び出しを受けた。
いよいよか、という気持ちと共に、俺も覚悟を決める。
高塚に呼び出された校舎裏に訪れると、一年前を思い出して感慨深くなり、風が強く吹いているのがこれからの試練のように感じられる。
高塚はもう待ち構えていた。
何を言われるかは察せられていた。
一年前の俺がそうだったから。
高塚は静かに言った。
「好きです」
「ごめんなさい」
中学三年間、ずっと好きだった高塚からの告白。
でも、俺の心はもう決まっている。
「振られても振られても君が好きだったけれどさ、今はもう里子が好きなんだ」
「……うん」
「だから、ごめん!」
頭を下げると笑われた。
「あの頃とは逆だね」
「そうだな」
頬を掻くと、高塚が少し寂しそうに笑った。
「あの頃の飯田くんとは違うんだね」
「里子のおかげでな」
「新井さん、いい子だもんね」
「ああ」
そう言うと、また笑われた。
「振られた相手に惚気られるの、結構きついね」
「……ごめん」
「ううん。私が自分の気持ちに気付くのが遅かっただけ。新井さんと仲良くね」
そう言って去り際にポツリと呟いた。
「隙があったら奪っちゃうから」
俺が思わず振り返ると、高塚はまっすぐ歩いて帰っていった。
その顔が涙で溢れていたのには、後ろ姿しか見えない俺には気付かなかった。
里子と帰るために待ち合わせ場所の校門に向かうと、里子が待っていた。
「遅いよ!」
「ごめん、ごめん」
そう言って謝ると、里子が神妙な顔になった。
「高塚さんとは、ちゃんと終わった?」
「ああ」
「……いいの?今更だけど、本当に私で。中学時代にあんなに好きだった高塚さんが今、飯田くんを好きだって言っているんだよ?」
俺は里子に視線を合わせた。
「俺は、たとえ千回振られようが里子が好きだぞ」
「なにそれ」
里子が思わずといった溢れ出る涙を拭う。
擦れた目が赤くなるので、やめさせようと手を掴むと距離が縮まった。
「俺の一途さは里子が一番知っているだろうが」
「そうだけどさ」
里子の目が赤い。
ぎゅっと抱きしめる。
初めて付き合って抱き締めたように胸がドキドキして心臓が飛び出そうだ。
「言葉のままだよ。高塚は振った。安心して欲しい。俺が好きなのは里子だけだから」
「本当?」
涙目の里子の目尻にキスをした。
「本当だよ。さっきも言ったけど、俺を振っても何度も告白するぞ。俺は執念深いんだ。知っているだろう?千回振られても里子が好きだよ」
里子はようやく笑ってくれた。
もう一度キスをして、二人で笑い合う。
二人で手を繋いで歩く道を、これからも進んでいきたい。
そう思って里子を見ると、目が合った。
「私も千回好きって言うね」
「俺もだよ、里子」
笑い合う二人の影が重なったのを、太陽だけが見ていた。
蝋の翼は溶け落ちて、俺は人間になって人間の里子と恋に落ちてハッピーエンド。
こんなイカロスがいてもいいと思う。
イカロスも、きっと溶けた蝋から落ちた先が永遠の恋なら、幸せになったはずだ。
そう思って、二人で笑っていられる時間が愛おしい。




