大会後、榊とファミレスにて
人生初の一位としてのインタビューを受けて、高校一位になったということがじわじわと実感として湧いてきた。
囲まれること一時間。
ようやく解放されると、榊が近付いてきた。
「飯田、ちょっといいか?」
榊にそう声を掛けられてすぐに了承した。
「今日、一緒に帰んねぇか?」
「べつにいいけど」
榊と俺。競い合っていた仲だけど、それももう終わり。
「良かった。じゃあ、部の連中に言ってくる」
「俺も、部の連中に言ってくるから正門で待ち合わせな」
「おー」
手を振って、榊が元来た道を戻っていく。
俺も里子達に帰りは別行動になることを告げに行った。
「まさか最後の最後で負けるなんてなー」
「言ったろ。俺が勝つって」
人生一番のドヤ顔で答える。
「むかつく」
足でゲシっと軽く蹴られる。
「勝者の痛みだと許してやるよ」
「あーあ。やっぱり、勝ったら高塚さんに付き合ってくれなんて言わなきゃ良かった。……振られたけど」
「妬くな、妬くな。俺は今は里子一筋だからな、お前も三年間告ってれば高塚も揺らぐんじゃね?」
俺が軽い気持ちで言うと、榊から睨まれた。
高跳びで勝っても睨まれたことなんてないのに……。
俺が慄いていると、榊がため息を吐いた。
「あの頃と今とじゃ状況が違うさ。高塚さん、未だにお前が好きだぜ?」
「えっ?」
「えっ?じゃねぇよ!俺の高塚さんのハートを奪っておいて、まだそんなことを言うのか!?俺に勝つだけじゃなくて恋も勝者だもんなー!羨ましいぜ!」
そう言ってゲシゲシと蹴られる。
「痛い、痛いって!」
とはいえお互い本気じゃない。
けらけら笑いながら戯れあっている。
「……榊は、これが最後の試合だったんだよな」
「おー。でも、負けたのがお前で良かった。他のやつに負けていたら今頃不貞腐れて店中のポテト食ってた」
「ポテトか……いいな。ファミレスでも寄るか?」
俺が提案すると、榊が目を瞬かせた。
「いいのか?」
「いいんだよ」
そう言って、二人でいつものファミレスへ行って高跳びのことやこれからのこと、いろんな話をした。
「榊、お前が高跳びやめても友達なのは変わらないよな?」
「何度聞くんだよ。それこそ、高跳びやめて友達もやめられたら俺が泣くぞ」
榊がなく真似をする。
それに安堵して、ようやく人心地がつけた。
そうか。俺はずっと緊張してたのか。
そうだよな。
「何笑っているんだよ」
「いや、俺、お前が好きだなって思ってさ」
榊は怪訝そうだ。
「は?なんだよ急に。見ろよ、このサブイボ」
見せられた腕には、鳥肌が立っていた。
それが面白くてゲラゲラと笑ってしまう。
「なんだよ、お前が言い始めたんだろ!?」
「いやー、やっぱ好きだよ。榊」
腹筋が痛い。
笑いすぎだと分かっていても止められない。
榊がわいわい言ってくるが、どれもなんとなく刺さって榊の言動にいちいち笑ってしまう。
ようやく笑い終わった時にはメロンソーダの炭酸が抜けきっていた。
「でもまあ、俺も飯田のこと好きだけどな」
笑い終わったと思ったらそんなことを言われてまた笑ってしまう。
「なんだよ、笑うことじゃねぇだろ」
「いや、お前、それはタイミングがずるい」
夜のファミレスで男子高校生が騒いでいても、大衆に紛れ込んでしまう。
他にも騒ついたテーブルからしたらなんてことのない風景なんだろう。
「……榊はさ、高塚に改めて告ったりしないのか?」
「笑い終わったと思ったらそれかよ……。だから、高塚さんはお前のことが好きなんだって。俺が告ったって無理」
「そんなことは……」
ポテト食べながら否定するようで出来ない。
高塚は、まだ俺を好きだろうって予感はあった。
見て見ない振りをしてきた。
「でも、諦めないからな。俺だって中学の時から好きだったんだ。好きな男がいるくらいでなんだってんだ」
そう言う榊は眩しく見えた。
「上手くいくといいな」
「うっわ!それ勝者宣言ぽくてむかつくー!お前も新井さん泣かせるなよ!」
それはもちろん!
いや、悲しませてばかりだけど。
跳びきって俺の決意は固まったんだ。
もう里子を悲しませない。
そう決意をして、炭酸の抜けたメロンソーダを、一気に飲み干した。




