榊とファミレスにて再び
榊の最後の大会、春の始まりの大会まで二週間を切った。
成績は好調で、再び榊の成績まで近付いていた。
「あと少し……」
そんな焦りと期待で俺が奮闘していると、また両親が不在でファミレスで晩飯を食べる日があった。
「まさかな」
案内された席に座ろうとすると、別の席から声を掛けられた。
「よぉ!飯田!」
「榊……またかよ……」
そう思いながらも店員さんに断りを入れて相席になる。
「これ美味いぞ」
「いや、俺は今日はパスタの気分」
「まじで?俺が迷ってたやつ」
「まじか」
そんな会話をしながら榊の最後の大会の話も試合の話も進学の話もしない。
ただの友人として近況を話したりした。
「そういや、高塚さんからのチョコ美味かった?どうだった?どんな感じだった?」
「……なんでそんなこと知っているんだよ」
「高塚さんに強請ったら断られて飯田への本命チョコしか渡さないって言われた。いいよなぁ、飯田は!高塚さんからと彼女の新井さんから本命チョコ貰ったんだろ!?」
「ばっか、お前、声がでかい」
慌てて周囲を見ると、微笑ましげに見られたり羨ましげに見られたりと注目を集めていた。
「ったく、榊……」
「悪い悪い」
絶対に悪いなんて思っていないだろう。
そんな軽い態度でもまぁいいかと許してしまう気安さがあった。
「そういえばさ」
「なんだよ」
「大会まで二週間切ったな」
先程までの長閑な雰囲気からびりりと変わった気がした。
飲んでいたメロンソーダの炭酸の刺激が分からない。
「ああ」
「俺、今度も勝つから」
「いや、俺が勝つ」
目線が交わる。
両者引かない力強さがあった。
「お待たせしました〜!熱々ポテトになります!」
言葉もなく睨み合っていた俺たちの間に明るい声と共に間に追加注文したポテトが置かれた。
「おっ、ポテトきた!」
「……熱いうちに食うか」
「おー!」
明るく言う榊によって会話は中断された。
黙々とポテトを食う。
「……でもさ、俺は本気でお前に勝つよ」
「やれるもんならやってみろ」
それは勝者の宣言だった。
「俺はまた成績を伸ばしているぜ」
聞きたくなかった現実。
「俺も、お前に追いつきつつある」
「追いつくだけじゃダメじゃん。俺を追い越さないと」
正論を言われてぐうの音も出ない。
「でも、俺が勝つ!」
「俺も。また勝って高塚さんに告る」
「えっ?」
俺が聞き返すと、榊が答えた。
「お前に勝ったら考えるって言われたんだよ」
「高塚が?」
高塚はずっと俺が好きだと思っていた。
それと同時に驕りを感じた。
高塚を振っておいて好かれているなんて、烏滸がましい。
「そっか」
「それだけか?」
「ああ」
それからまたお互いにポテトを摘んで談笑が始まった。
あのドラマが面白いだの、この芸人さんが推せるだの、なんてことのないありきたりな話。
春の大会、俺は榊に負けるかもしれない。
それでも、勝ちたい。
それがライバルというものだと俺は思った。
高塚が、榊のことを恋愛感情で考えるからじゃない。
純粋にライバルとして勝ちたいと思った。
全部食べ終わって外に出ると、まだ少し肌寒い。
風が冷たくて頭を冷静にさせる。
「榊」
「なんだよ」
「春の大会。やっぱりお前のライバルとして俺が勝つから」
榊は小さく笑うと、軽く返した。
「出来るもんならなー」
「勝つさ。絶対に」
俺の返答に榊は満足そうだ。そのまま別れて自宅へと戻る。
勝ちたい。
これが最後の戦いなんだ。
そう思うと心が熱くなっていった。
翌日の練習で俺は、自己新記録を達成した。
跳んだ感覚は、今までにないものだった。
榊にはまだ勝てないかもしれないけれど、俺は俺の跳び方で榊に勝てる。
なんとなく、そう予感した。




