バレンタイン
「はい!バレンタインチョコだよ!」
登校前に里子の家に寄って迎えに行くと、玄関の扉を開けてすぐに里子から可愛らしいラッピングの包みを渡された。
「ありがとな」
「うん!」
一目で手作りだとわかるこれは、里子の愛情が感じられた。
それがとても嬉しい。
「これは俺も頑張らないとな」
「お返しは優勝メダルでいいよ」
さらりと返されて言葉に詰まる。
優勝メダル。
榊に勝つということ。
出来るだろうか。
いや、する!出来る!
「任せておけ!」
胸を叩いて咽せる。
「大丈夫!?」
「だ、大丈夫」
格好悪いところを見せてしまったな。
そんなことを思いながら大切に里子からのチョコをカバンにしまう。
「ふふっ」
里子が笑う。
「どうしたんだ?」
「慎太郎くんが任せておけって言ってくれて嬉しい!頑張ってね、応援しているから!」
くるりと回ってそう言うと、前へ向かって走り出した。
「おい!急に走ると危ないぞ!」
「大丈夫ー!」
「大丈夫じゃないって、まったく」
急いで追い掛けて、里子と並んで校舎へ向かった。
「慎太郎くん、短距離走でも早いねぇ」
「まあ、普段から走ってはいるからな」
校舎の玄関を通って下駄箱から靴を出そうとすると、また可愛らしい包みがあった。
高塚からだと直感して、里子にバレないように急いで鞄にしまった。
いらないって言ったのに!
高塚はいつもそうだ。
こっちの気持ちなんてお構いなしに掻き乱す。
鞄の中の二つのチョコを見る。
ピンクと水色。
両者を現しているみたいで、喧嘩しないでくれよとチョコに心から願った。
「どうかした?」
「なんでもない」
「高塚さんからのチョコ、ちゃんと食べてあげてよね」
その言葉に思わず咽せる。
「なんで知っているんだよ」
「一緒にラッピング道具とか買いに行ったもん」
けろりと言われて、女子ってわかんねーと思った。
「里子はいいのか?」
「何を?」
「俺が高塚からチョコを貰っても」
里子は小首を傾げて考えた。
「うーん。なんていうか、おんなじ男の子を好きだからこそって、感じかな?」
「そんなもんか?」
「そんなもんだよ」
里子がまた笑った。
「でも、私の方が美味しいって言わせてみせるから!」
「おう、期待している」
なんて言いながら教室へ辿り着くと高塚が既に席に着席して本を読んでいた。
「ほら、慎太郎くん!お礼くらいは言わないと!」
彼氏が他の女子からチョコを貰ってお礼を言うことを勧める彼女はどうなんだろうか。
俺は里子にせっつかれながら高塚の元へ行った。
「高塚、チョコ、ありがとな」
「うん」
それだけ言うと、交わっていた視線は外されて高塚は本に目を戻した。
最後にぽつりと、本命だから、とまた心を乱す言葉を言うのを忘れずに。
「どうだった?」
「ちゃんと言ったよ」
「両方食べてね」
「分かっているよ」
本命チョコが二つ。
昔の俺と今の俺が鞄の中で小競り合いをしているようだが。
落ち着かない気持ちのまま、その日は部活までぼんやりと終わった。
放課後、部活中も部室に置いてある鞄の中のチョコが気になって仕方がなかった。
里子と高塚に「気になるなら先に食べていいけど?」とまで言われる始末だ。
そう言われても、そういうわけにはいかない。
「家に帰ってからなー」
そう返して、頬を叩いて気合いを入れ直す。
もっと高く跳ぶ。
そのために、もっと頑張らないと。
スタートラインに立って深呼吸をする。
そのまま走って跳ぶ。
バーは踵に当たって落ちてしまった。
「まだだめか」
溜息が出る。
榊はもっと記録を伸ばしていたらどうしようか。
そんな気持ちでいるのがいけないんだ。
邪念を捨てないと。
もう一度、スタートラインへ戻って深呼吸を繰り返す。
走って、跳ぶ。
踵にまたバーが当たった感触がした。
頼む、落ちないでくれ!
俺の願いが届いたのか、バーは落ちなかった。
「よし!」
小さくガッツポーズをして、喜びを現す。
「慎太郎くん!」
「飯田くん、おめでとう」
里子と高塚が近寄って喜んでくれる。
けれど、バレンタインという日もあってか他の部員からの視線は痛い。
「ありがとう」
嬉しいのに、喜べない。
へらりと笑ってもう一度跳ぶ。
今度は危なげなく乗り越えた。
「すげー!あの高さを跳ぶのかよ、飯田!」
「すごいよ、慎太郎くん!」
「うちの高校で初めて高跳びで優勝メダルをもらえるかもね」
ちやほやされて悪い気はしない。
好調のまま残り数センチも跳び切った。
帰ってから食べたチョコは両方美味しくて、俺は二人に改めてお礼のメールをした。
「ありがとな」
チョコの写真を添付して二人別々に送る。
どっちが美味しいとかなかった。
二人の気持ちがすごく嬉しかった。
金メダル。
榊に勝って取るしかないな。
そう思いながら大切に食べた。




