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1000回振られても君が好き  作者: 千子


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ファミレスにて

結局、新年になっても高塚への未練を高塚自身から突きつけられて何も言えなくなった。

そこから迷いが生まれて跳び方も分からなくなった。

部活中も不調が続いた。

「慎太郎くん、大丈夫?」

里子に心配される回数も増えた。

「大丈夫だよ」

俺は笑えているだろうか?

寒さで昔の怪我も痛む気がする。

全部気のせいだと思うには鮮明過ぎる。

「里子」

「なぁに?」

「……なんでもない」

俺が笑うと、里子も合わせて笑ってくれる。

でも、またぎこちない笑顔になってきている。

幸せにしたいと思っていたのに。

俺が優柔不断なばかりに今を大切に出来ていない。

「里子」

もう一度呼んでみる。

「慎太郎くん。私は、慎太郎くんの真っ直ぐなところが好きだよ」

そう言って微笑む里子に何も言えなくなる。

「さ、練習再開しよ!春こそ榊くんに勝って目指せ日本一だよ!」

両腕を掴まれて座っていたマットレスから起き上がらせる。

里子には敵わないな、と思った。

「そうだな、今度こそ榊に勝って目指せ日本一だ!」

「その意気だよ、慎太郎くん!」

跳ぶ。

スタートラインに立って深呼吸をする。

吐いた息はまだ白い。

「そういえば、もうすぐバレンタインだよね」

「そうだな。期待してるぞ」

「任せてよ!」

里子が胸を張る。

「私の美味しい手作りチョコで慎太郎くんを元気付けてあげるから!」

「ああ。任せた!」

バレンタイン。

もうそんな時期か。

中学時代は高塚を追い掛けていて義理でもいいから貰えないか期待していたっけ。

なんて感傷に浸るのもやめた。

俺は、俺らしく。

跳んで、悩んで、落ちて、また立ち上がればいい。

「そういえば、慎太郎くんの家って今日ご両親がいないんだよね?ご飯とか大丈夫?うちで食べる?」

「いや、今日はファミレスでなんか食べるよ」

「そう……?」

里子は少し不満そうだったけれど、それ以上は何も言わなかった。


部活も終わり里子を家まで送ってそのままファミレスまで向かう。

運動部帰りの学生なんてみんな腹を空かしているもんだろう。

適当に入って注文すると、混雑した時間帯より早いせいか思ったよりも早く料理が提供された。

それを食べていると、背後から声が聞こえた。

「あ!」

「ん?」

振り向くと榊がそこにいた。

「飯田じゃないか!こんなとこで何してんだよ!」

「何ってどっからどう見ても食ってんだろ」

そう言うと、榊は断りもなしに相席で座ってきた。

「お前が食べてるの美味そう」

「期間限定メニューらしいぜ」

「まじか。じゃあ俺もそれにしよ」

そう言うと、メニュー表をパタリとしまいピンポーンと軽快な電子音を鳴らして店員さんを呼び出した。

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「この季節限定のやつと、Dセット!ライスは大盛りで!」

「かしこまりました。ドリンクバーはあちらにありますのでご自由にお使いください」

にこりと営業スマイルを残して店員さんはまた去って行った。

「じゃあ、俺は飲み物とってくるな」

「おう」

その間にポテトを摘んで榊を待つ。

すぐに榊は戻ってきた。

「家だとさ、食事と炭酸なんて〜!とか言われるけどファミレスだと言われないのってなんでだろうな」

「さぁな」

そう言いながら榊の注文した料理を待つ。

「おい、俺の注文したのなんて待たなくていいぞ。冷めるだろ」

「いや、でも、一人で先に食うのもなんかなーって思って」

「お前、本当に変なところで律儀だよな」

なんて談笑していたら榊の料理も運ばれてきた。

「美味そう!」

「美味いぞ」

二人でこうしてファミレスで喋るのなんて久々だな。

中学を卒業して以来か?

「そういや、お前。高塚さんと新井さんとどうなってんだよ」

「ごふっ」

飲んでいた烏龍茶を吹き出す。

「何やってんだよ、お前」

「しょうがないだろ?榊が変なこと言うから……」

机を拭きながら答えて、今の状況を相談してみる。

だが、案の定というか榊は物凄く呆れた表情で溜息を吐いて叫んだ。

「おっ前!高塚さんと新井さんを秤にかけて俺迷っちゃうなんて随分と贅沢な悩みじゃないか!」

「ばっか!お前!声がでかい!」

慌てて榊の口を塞ぐももう周囲から好奇の目で見られていた。

……しばらくこの店に来れないな。

榊は俺が当てた手を離して神妙に語り出した。

「あの高塚さんだぞ?」

「そうなんだよなぁ」

俺が3年間焦がれていた女性。

そんな女性から振られ続けて急に実は好きだったなんて言われて俺の心はどうしたもんかと本当に袋小路に入ったままだ。

里子も好きだけれど、高塚が俺のことを好きと言って胸が騒つく。

「まあ、新井さんも結構人気あったからな」

「そうなのか?」

それは知らなかった。

「……俺は、正直なところ高校に入ってもお前は高塚さん一筋だと思ってた」

「決めていたんだ。中学の卒業式でも振られたら諦めようって」

「そっか。それで今更高塚さんから好意を寄せられて困っていると」

「ああ」

そこで俺は思い出して榊に尋ねた。

「高塚に告ったって、本当か?」

「高塚さんから聞いたのか?本当だよ、振られたけどな」

知ってる。高塚は、中学時代から無意識に俺を好きだったらしい。

「中学時代に言ってくれたら……自分の気持ちに気付いてくれていたらな」

「そしたら新井さんとは付き合っていなかったってか?」

榊の言葉に返答に詰まる。

俺は。どうなんだろう。

確かに里子と付き合い始めたのは高塚に振られたのが原因だ。

だけれど、今、里子を好きなのも本心だ。

「なあ。俺、どうしたらいいと思う?」

「知るかよ!あーあ。高塚さんもこんな優柔不断な男のどこがいいんだか」

随分な言われように腹も立つが、事実なので反論出来ない。

お互い飯を食べ終わって、ドリンクバーで混むまで粘って話を続けた。

結局俺はなんの答えも出せないまま、晩飯を終えた。

「なぁ、もう少し話さないか」

そう誘われて、里子とよく行った公園まで榊と歩いていく。

その背中は堂々たるもので、なるほどこれが勝者の風格と思えた。

俺もいつかこんなふうに思われる日が来るんだろうか。

いや。来る。

春の大会で榊に勝つ。

改めてそう決めた俺は、榊の横に並んで談笑の続きをした。

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