里子とのクリスマス旅行
待望の冬休みがやってきた。
冬休みとはいっても部活動はあり、それでも少しだけ纏まった休みがある。
俺は里子と小さな旅行……本当に近場のスポットまで旅行に来ていた。
両親を説得するのは大変だったし、小遣いを貯めるのも大変だったけれど今ではいい思い出だ。
「慎太郎くん!ホテルに行く前に海に行こう!」
「海?」
「冬の海って、それだけで雰囲気あるじゃん!」
そう言って里子は電車から飛び降りると手招きして微笑んだ。
周囲にも可愛らしいカップルね、なんて微笑まれてちょっと恥ずかしい。
「行こうか」
「うん!」
二人で並んで歩くのは普段と変わらないのに、違った場所だと違うふうに見える。
……里子も。
今日はクリスマスイブ。明日はクリスマス。
中学時代はいつかは高塚とロマンティックなクリスマスを過ごしたいなんて思っていたけれど、里子と過ごすこの賑やかなクリスマスも楽しい。
「慎太郎くん!改札はこっちだよ!」
「わかってるよ!」
わいわい言い合って、スマホで地図を見て歩いて海を目指す。
「うおー!寒い!」
冬の海辺なんて寒い以外の感想を抱けない。
でも、里子は楽しそうだ。
寄せては戻る波を、追いかけて逃げてを繰り返している。
可愛いな、なんて惚気ても、今日は部員や学校の生徒からの野次も飛ばない。
「慎太郎くんもやろうよー!」
里子に誘われて、貴重品を持って一緒になって波と戯れる。
側から見たら何をやっているんだ、と思われるかもしれないけれど、里子と一緒だからか何をしても楽しい。
二人で笑って満足したらちょっと腹ごなししてホテルに向かう。
チェックインをしたら、夕飯までお風呂に入ろうってことになってそれぞれの露天風呂に入ってきた。
寒い冬の海で凍えた体に染み渡る温かさ。
気持ち良くてつい長居してしまったのに、里子はまだ出てきていないみたいだった。
待合室でマッサージ機を堪能していると、背後から笑われた。
「慎太郎くん、おじいちゃんみたい」
「いやこれ、気持ちいいんだって!」
「本当に〜?」
「本当に!」
なんてやりとりをしながら里子もマッサージチェアをやり始めた。
「おおっ!こいつはやるね!」
「だろう?」
俺の功績なんて何一つないのに、どことなく誇らしく言ってみた。
俺の方が先に終わって里子を待つ。
弱いところに当たったのか、けらけら笑う里子は楽しそうだ。
里子は今日一日中、ずっと楽しそうだった。
こんなにちゃんと笑顔を見るのは、俺が高塚に振られて里子に告白されて付き合うまでだったな。
なんで俺はこの子を悲しませてきたんだろう。
……高塚を諦めきれなかったからかなぁ。
でも、もう高塚は吹っ切った。
今度こそ、この子を幸せにしたい。
ようやく里子のマッサージも終わって、二人で部屋に戻った。
部屋に戻ってしばらくすると、料理が運ばれてきた。
「慎太郎くん!蟹だよ!蟹!」
「奮発したからなぁ」
中居さんに微笑まれて、ケーキを二皿差し出された。
「こちら、当ホテルからのクリスマスプレゼントでございます」
「えっ、嘘!?ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
思わぬサプライズに、目を瞬かせる。
「嬉しいね、慎太郎くん」
「ああ。メリークリスマス。里子」
「メリークリスマス、慎太郎くん」
二人で笑い合って、ご飯を食べる。
些細な幸せが何より嬉しい。
今だけは、高跳びで高く跳びたいとか、榊に負けたくないとか、高塚のこととか、何も考えずに里子と幸せを分かち合う。
そんな日があってもいいんじゃないか。
それがクリスマスイブなんて、ロマンチックなこと、思い出に残るだろうな。
「慎太郎くん、今、思い出になるだろうなとか考えていたでしょう?」
里子がカニを頬張りながら尋ねる。
「なんで分かったんだ?」
「慎太郎くんのことだもん!それに、これは単なる思い出なんかにさせないからね!毎年積み重ねる幸せの一ページなんだから!」
カニの足を指すな。
俺は蟹の足から逃れながら、苦笑した。
「分かっているよ。来年も、またどこか行こうか」
「うん!……でも、私は慎太郎くんと一緒ならどこだって楽しいよ」
照れたように笑う里子に愛しさが増す。
「里子、好きだよ」
「何よ、急に……。私もだよ」
そこでふと、薄く開かれ障子から窓に雪が降っているのが見えた。
「ホワイトクリスマスだ」
「綺麗……」
「里子なら雪だるま作りたいとか言い出しそうだよな」
「そこまで子供じゃありませんー!……そりゃあ、ちょっとは作ってみたいけど」
俺は小さく笑った。
「明日、積もっていたら作ってみるか」
「……うん!」
いつの間にか窓辺に近寄って二人で並んでいる。
明日のことを話して笑い合う。
こんな関係が、いつまでも続けばいいと思った。
そのために、俺は跳ぶんだ。




