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1000回振られても君が好き  作者: 千子


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冬大会 後編

いよいよ榊が跳ぶ番になった。

秋大会の成績までは順調に跳んでいき、その後も危なげなく跳んでいった。

「頑張れよ、榊」

小さな声で応援する。

勝ちたい。

でも、榊が跳ぶ姿を見ていたい。

榊が跳ぶ瞬間は、美しかった。

目が離せない。

とうとう俺の記録までバーの高さがきた。

心臓が早鐘を打つ。

跳べないでくれ。

跳んでくれ。

相反する感情が渦を巻く。

榊がこちらを見て笑った。

ああ。こいつは跳べるんだなと直感する。

その通り、榊は跳んでみせた。

高校新記録を自分自身で塗り替え、観客の声援はすごいものだった。

俺も思わず座っていたベンチから立ち上がって拍手をした。

「慎太郎くん……」

里子が心配そうにする。

「すごいな、榊は」

「慎太郎くん、目がキラキラしている」

里子が笑う。

高塚も笑っていた。

「負けて喜んでんなよ、飯田ー!」

「そうだぞー!」

……部員からの視線は白いけど。

それでも。

榊を見ると、もう次の高さまで跳んでいて、完璧に負けている。

それなのに、目が離せない

榊が跳ぶ姿から目が離せない。

「綺麗だな」

「私は、慎太郎くんの跳び方の方が好きだよ」

里子が嬉しいことを言ってくれる。

「ありがとな」

「本当のことだもん!」

「そこ、いちゃつかないの!まだ榊くんが跳んでいるんだから見ていてあげなさい」

高塚に叱責されているが、目を離したのは一瞬だから勘弁してほしい。

再度榊を見ると榊もこちらを見ていた。

榊は笑っていた。

その後も何度か跳び、自身と高校新記録を上書きしていった。

「凄いな」

「うん」

とうとうバーに足がつき、落ちる瞬間さえも美しかった。

少し悔しそうな表情の榊に、それでも俺は拍手を馬鹿みたいに繰り返した。

「榊!よく頑張った!」

俺が叫ぶと、マットの上でこちらを向いて片手を上げた。

さっさとマットから移動すると、こちらに近付いてくる。

「飯田、どうだった?」

「凄かった!やっぱり、榊は凄いな」

「飯田も凄かったぜ!こんなに跳べるなんて、さすがだな」

「負けて喜べるかよ」

榊はまた笑った。

「悔しい奴がそんな笑顔でいるかよ」

俺も笑う。

「おめでとう、榊」

「ありがとな、飯田」

握手を交わして、表彰式に向かう。

榊はまたマスコミに囲まれた。

……俺も少しインタビューを受けた。

「俺でいいんですか?」

少しの期待を込めて尋ねると、マスコミは悪気なく言った。

「あの榊選手の好敵手ですから!」

俺は榊の付属品ってか?

言ってろ!

俺は俺の跳び方で、榊に勝ってやる!

燃えてきた俺に、マスコミから逃げ出した榊が耳打ちする。

「なぁ!高塚さんの連絡先聞くの手伝ってくれねぇ?」

「お前……自分で聞けよ」

「聞いて教えてくれないから飯田が橋渡ししろよ」

「なんで俺が」

「聞いて全部知っているんだけど」

「……今回だけだぞ」

榊の冷めた視線に押されて、つい約束してしまう。

そのまま榊を匿いながら高塚の元へ行くと、嫌そうな顔をされた。

「何度聞かれても教えないから」

「そこをなんとか!」

拝む姿は先程までの榊とは到底想像が出来なかった。

「跳んでいる間はすごいのになぁ」

「まぁまぁ、私としてはライバルが減ってくれたら嬉しい!榊くん!頑張れー!」

「おう!」

「新井さん!」

騒がしい三人を眺めて、俺はどこまで跳べるのか、榊に勝てるのか、考えていた。

息は白い。

次は、見上げる側じゃない。

この息から白さが消える頃には、跳べているだろうか。

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