秋大会当日
秋大会当日。
俺は控えやマネージャー達と一緒に観客席のベンチに座っていた。
鹿谷先輩も三ツ谷先輩も軽々優勝していて、その努力を裏から知っていたはずなのに、堂々とした姿を見ると普段とは違う人物みたいで、遠い存在に感じる。
「先輩達、すごいね」
「ああ」
俺も、いつかあの喝采を浴びてみたい。
誰よりも高く飛んで……その時、また足が痛んだ。
俺は、太陽に近付けない。
地上で太陽を見上げる凡人なのだろうか。
いや、今までの練習を無かったことにしたくはない。
「次、高跳びだな」
「うん。榊くんの出番は最後の方みたい」
「そりゃあ、高校新記録を出した今話題の人物だしな」
里子と会話をしていると安心する。
寄り添う里子と話をしながら高塚が混じってくる。
「榊くん、高跳びだけはすごいのよね」
「高跳びだけじゃないぞ、いい奴だし」
「どうだか」
高塚は素っ気なく言うと、俺の隣に座った。
里子に挟まれた形になり気まずい。
「早く怪我治しなさいよ」
「慎太郎くんは頑張ってるよ!」
「頑張りで怪我が治っていたら苦労しない」
俺を挟んで言い合う二人。
「ほら、榊が跳ぶぞ」
榊は悠々と跳んでみせた。
どんどん高くなるバーに、高校新記録更新かと周囲が騒つく。
俺は、榊が落ちて欲しいのか跳んで欲しいのか分からなかった。
これ以上追い付けなくなるのが怖いのか、友人として応援したいのか。
ただ、見守っていた。
「すごいね、榊くん」
「本当に。太陽にも届きそう」
「……高塚さんも、そんな詩的なこと言うんだ」
「でも、太陽に近付き過ぎると焼かれてしまうのよ。蝋の羽をね」
俺はその言葉にドキリとした。
「なにそれ、榊くんが跳べなくなるって言うの?」
「さあね」
また空気が悪くなる。
そんな中、榊が出した高校新記録より高い位置。
これを越えれば高校新記録が更新される。
誰もが固唾を飲む。
俺も、気が付いたら叫んでいた。
「榊、頑張れ!!」
榊がこちらを見て笑った気がした。
綺麗な一瞬だった。風は無音で、バーが揺れる音すらしない。
榊は、自分の記録を超えたのだ。
歓声が湧く。
俺達も、他の高校でも感嘆の声がそこかしこで叫ばれた。
俺も、あれくらい跳びたい。
もう足は痛まない。
「早く跳びたいな」
「なら、早く怪我を良くしないとね」
里子が言う。
「きちんとこまめな治療は受けているの?」
高塚も心配してくれている。
「ああ。俺も、こんな怪我を治して早く跳びたい。榊以上に」
「……うん!慎太郎くんなら出来るよ!」
「努力すればね」
「努力はするさ。俺は、もっと高く跳んでみせる……跳びたいんだ」
それは願望であり希望だった。
誰より高く跳びたい。
それは、高跳びをする者にとって当たり前のことだと思った。
榊は、この大会で新記録を出し、堂々の優勝。
「俺、ちょっと行ってくる」
思わず下まで駆け出した。
脚を庇いながら、榊の元まで駆けつけた。
「榊!」
「飯田!怪我したって聞いたけど、大丈夫か?」
「ああ!お前の跳んでる姿を見たら俺も跳びたくなった!」
榊は俺の包帯で巻かれた足から視線を合わせると、笑った。
「そっか」
「と、悪いな。これから表彰式だろう?また今度、会う時に色々と聞かせてくれ」
「俺も、可愛い彼女と美人な高塚さんに囲まれていたお前に聞きたいことも言いたいこともたくさんある!」
少し嫌味ったらしい言葉だったけれど、事実なので仕方がない。
「悪いな、モテて」
「どの口が言うんだか」
そう軽口を叩きながら、榊は表彰台に向かった。
俺も、元の自分の席に戻った。
「榊くんとなにを話していたの?」
里子の問いに、俺は晴れた気持ちで答えた。
「イカロスと鳥の違いについてだよ」
頭に疑問符を浮かべる里子と違い、高塚には意味が分かったようで、少し笑っていた。
「あまり大層な鳥じゃないと思うけどね」
「それでも、あの翼は本物だ」
「そうかもね」
「もう!二人して何を分かり合っているの!?」
少し怒った里子を宥めて表彰式を眺める。
俺もいつか、あの一番上の台に立ちたい。
そう思って、決意も新たに翌日からリハビリとマネージャーの仕事を頑張り、高跳びの選手の研究にも熱が入った。
イカロスにも鳥にもなれない人間には、努力って跳び方が一番地に足ついているかもしれないな、なんて考えながら太陽を見た。




