ダブルデート 後編
「粗方乗り尽くしたな」
「もう夕方だし、夕飯食って帰るか?」
「ちょっと二人とも!最後に忘れていない!?」
里子の声に俺と榊は首を傾げた。
「……観覧車」
高塚の発言に手を叩く。
「ああ!」
「なんだ、高塚も楽しみだったのか?」
俺が尋ねると、高塚は顔を赤くした。
「いいでしょう。そんなこと」
「そうだよ!早く行こう!」
女性陣二人に押されて観覧車の列に並ぶ。
四人で喋っていると待ち時間はあっという間で、このまま四人で乗るのかと思ったら、高塚が意外な行動に出た。
「うわっ」
「え?」
「はーい!カップルお二人様ですねー!」
高塚は榊と里子を押して二人にさせると、スタッフさんにカップルと思わせて二人きりで観覧車に乗らせた。
「おい、高塚!」
「次、私達の番だよ」
「カップルお二人!入りますー!」
スタッフさんの元気な声が恨めしい。
「どういうつもりなんだ、高塚」
「どうもこうも。あなたこそどういうつもり?」
じとりと睨まれる。
「私を振ったと思ったら、今度は同じように中学時代から私のことを好きだったって男子をあてがおうと?馬鹿にしないでくれる?」
「そんなことは思っていない」
「なら、どういうつもりよ」
「俺は、榊と高塚に幸せになってほしくて……」
そこまで言って高塚が顔を歪めた。
その言葉は、自分でも思っていた以上に他人行儀に聞こえた。
「……なんで、そんな酷いこと言うのよ」
高塚は泣いていた。
「そんな簡単に他の人を好きになっていたら、こんなに苦しくないのに」
「高塚……」
俺は結局高塚を悲しませてしまうのか。
「悪い」
「謝らないでよ、惨めになる」
高塚は俯いていた頭を上げると、宣言した。
「やっぱり無理。諦めるなんて、無理。だって私だってずっと好きだったんだもん。中学の時に気付いていれば、新井さんと飯田くんが付き合うことなく中学から高校までまで私達、付き合っていられたのかな?」
「そんなもしもの話をしないでくれ。俺は里子を愛している。もう戻れないんだ」
「わかってる。わかってるから、悔しいんじゃん」
ゴンドラはゆっくり、高塚を慰めるように回っていった。
ようやくてっぺんに辿り着く時、あまりに綺麗な夕焼けに目を奪われた。
そして、高塚を見た。
高塚の涙も綺麗だった。
高塚の目尻も頬も赤い。
その赤は、夕焼けのせいにはできなかった。
でも、俺はもうその太陽に触れられない。
「高塚、これ使ってくれ」
ティッシュを差し出すと、高塚は苦笑いした。
「それぐらい、私も持っているよ。心配してくれてありがとう」
蝋はもう、溶け落ちているんだ。
「もうすぐ終わるね」
軽く化粧直しをして、高塚が言う。
俺は、里子になんて言えばいいか考えていた。
榊にも、どう言い訳をすればいいのか。
俺が頭を抱えていると、じっとその姿を高塚が見ていた。
ゴンドラはようやく地上に辿り着いた。
「終わりだな」
「そうね」
そう言って高塚が先に出て、俺も続けて出ようとして急に高塚が振り向いて驚いた。
背伸びをして、高塚からキスをされた。
「慎太郎くん!」
先に降りていた里子が呼ぶ声が遠くに感じた。
「飯田!」
榊も怒っている。
だが、これは俺は被害者じゃないのか?
いや、そんなことはない。あの涙を見てそう思った。
「やっぱり無理。諦められない。そんな簡単な思いじゃないもの」
そう言うと、高塚は榊と里子に向かって言い切った。
「そういうことだから」
「……高塚さん、宣戦布告?」
「飯田、どういうことだ!?」
地獄絵図は、想像じゃなくて現実になってしまった。
スタッフのお姉さんが興味津々といった顔だけれど、生憎と観覧車は混んでいる。
周囲の視線が痛いほど突き刺さる。子どもが指をさして笑っているのが見えた。
「観覧車から降りた瞬間キスしてたってよ」と、誰かが囁いた。
俺達は公衆の面前で修羅場を繰り広げてしまった。
そんな話が噂にならないはずがない。
同じ学校の生徒も偶然同じ遊園地にいて、現場を目撃していたらしい。
俺達はまた噂の的になった。
「なんでこんな目に……」
「慎太郎くんが隙を見せるからだよ!」
「そうよ、早く私のものになってよ」
「なんで高塚は平然と俺達の間に入ってくるんだ!?」
「腫れ物扱いは慣れているんだけど、いい加減しんどくなって」
しんみりと寂しそうに言われると、なんとも言えない。
俺も原因の一因だ。
俺が隙さえ見せなければ……。
結局、里子も高塚も悲しませている。
ついでに榊も。
あの騒動の後、みんなで夕飯なんて雰囲気にはなれずに解散したんだが、榊からの連絡がすごい頻度で来る。
こいつ、ちゃんと授業は受けているのか?
そんな心配をしつつ、俺はこれからどうすべきか内心困り果てていた。
それでも授業はあるし、部活はある。
高塚はまた俺への好意を隠さなくなった。
甲斐甲斐しく、世話を焼いてくれる。
でも、それは里子もで、二人して俺に寄ってくるものだから部員達から大顰蹙を買った。
「飯田!新井!高塚!お前ら男女交際は清く正しく美しくだぞ!他の部員に迷惑をかけるな!真面目に高校生活をしろ!」
鹿谷部長からも怒られた。
三ツ谷先輩は笑っていて、清水先輩は呆れていた。
俺もそっち側に回りたい。
「なんで飯田ばっかりモテるんだ!?」
「普通の顔だろ!?」
そんなやっかみも受けて蝉の声が遠く、赤い空が沈んでいき夏は終わり、高校生活は波乱の秋を迎えていた。
熱すぎる恋のいざこざは、夏のうちに終わらせたかったんだけどなぁ。




