新しい関係
「榊くんからのアプローチが止まらないんだけど」
「その苦情は俺じゃなくて榊に言ってくれないか」
「言って聞いてくれないからあなたに言っているんでしょう?友人なんでしょ?止めてよ」
「そうは言ってもなぁ」
部活の休憩時間、高塚が寄ってきたと思ったら榊に対する苦情だった。
「連絡先の交換なんてするから」
「しないとしつこかったのよ」
高塚が苛立っている。
こんな高塚を見るのは初めてだった。
思えば、中学時代の楽しそうな笑みから高校時代の悲し気な笑みまで見てきたけれど、こうして怒っている高塚を見るのは稀だった。
「お前、そうやって感情を出せるんだな」
「……誰かさんのおかげでね」
そう言って目線を合わせるようにしゃがりこむ。
「とにかく、榊くんのこと、なんとかしてね。じゃないと私と関係があったこと、全部バラすから」
それはもはや脅迫だった。
「……わかったよ。やってみる」
「お願いね」
そう言うと、高塚はさっさとドリンクの補給に戻って行った。
「さて、どうするか」
考えても仕方がない。
榊とは大会で再開してから何度かやり取りはしている。
その流れで高塚が迷惑していると告げるか?
いや、あいつは諦めないだろう。
俺が中学で一番高塚にアプローチしていたから情が深い榊は俺に遠慮していただけだ。
その俺が高塚を諦めて里子と付き合っているとなると、アプローチは止まらないだろう。
でも、これは高塚にとってもいいことだとは思う。
俺以外の男に興味を持ってくれたら、幸せになれるんじゃないだろうか。
榊はいいやつだ。
俺より高塚を幸せにしてくれるだろう。
「……そうだ」
「なにがそうだ、なの?」
「里子」
「休憩終わるよ」
手渡されたドリンクを飲みながら、考えを話した。
「俺と里子、榊と高塚でダブルデートしたらどうかな?」
里子が顔を歪めた。
「なにその地獄絵図」
「そんなに悪い案か?」
俺と里子、榊と高塚でいいペアだと思ったんだけどなぁ。
呑気な俺に対して、里子が厳しい。
「あのね、それでいいのは男連中だけでしょう。私と高塚さんはしんどいだけなんだけど」
「そうか……」
ならどうしたら。
里子がため息を吐いた。
「あのね、慎太郎くん。慎太郎くんが思っているより、私、高塚さんとのことすごく傷ついた」
「里子……」
里子が近寄ってくる。
「さっきも、高塚さんがあなたになにを話しているか気が気じゃなかった。高塚さんには悪いけれど、私はやめて欲しいな」
里子がこうして自分の考えや感情を出してきてくれるのが、少し嬉しい。
「本当にごめん」
「うん……。私、慎太郎くんが思っているより重たい女なんだよ?」
「うん」
「しっかり離さないでね」
「もちろん。これからは里子一筋だよ」
「これからも、でしょ」
頬をつねられる。
その動作と裏腹に寂しそうな聡子の声音と表情に、本当に俺は取り返しのつかないことをしてしまったんだと実感する。
「うん。これからも里子一筋だよ」
そう言って、つねられるてに手を重ねた。
「こら、そこ!いちゃつくな!休憩はもう終わりだぞ!」
鹿谷部長の声で、周囲が笑いに包まれる。
「結婚式には呼べよー!」
なんて冷やかしも出てくる。
言われなくても呼んでるよ!
俺たちは赤くなって距離をとった。
「じゃあ、部活に戻ろうか」
「うん。頑張って!」
そうして、また高跳びの練習に精を出した。
いくら跳んでも大会の榊の記録には届かない。
「やっぱりすごいやつなんだよなぁ」
榊も高塚も幸せになって欲しい。
高塚を悲しませた俺が言えることじゃないけれど、本心からそう思った。
「……なんて、やり取りがあってどうしてダブルデートになるの?」
里子が怒っている。
「せっかく慎太郎くんとのデートだと思ったのに」
「高塚さん!今日はよろしく!」
「……はぁ」
「いや、榊と話しているうちにこうなっちゃって」
四人とも、顔色は違う。
このダブルデートで、高塚が榊に好意を持ってくれたらいいな。
「頑張れよ、榊」
「もちろんだ!」
俺達の会話とは裏腹に里子と高塚は、お互いにため息を吐いて、いつ解散しようか考えていた。
このダブルデート、果たしてどうなるか……。
榊と高塚、二人にとっていい結果になるといいな。




