大会当日
大会当日は快晴で、ただでさえ暑いのにもっと暑く感じた。
「はい、ドリンク」
「ありがとう」
今は短距離走で三ツ谷先輩が堂々の一位を獲得していた。
その前には鹿谷部長も長距離走で一位。
練習を見ていた時から思っていたけど、二人ともやっぱり早い!
俺も頑張らないと。負けていられないよな!
先輩たちの背中を見ながらふと、足元を見ると、里子からもらった靴紐が結ばれたスニーカーが目に入る。
そうだ。俺はもっと、誰よりも高く跳ばなきゃ。
「そろそろだね」
「ああ、ウォーミングアップしてくるよ」
そう里子に告げて、グラウンドに出ると、声を掛けられた。
「よぉ、飯田だよな」
「お前は……榊?榊だよな!中学の卒業振りだな!久し振り!」
「やっぱり飯田かー!どうだ?高塚を追い掛けて同じ高校に行ったんだろう?」
俺は頬を掻いて里子の方を見た。
「実は、高塚とは中学最後の告白を最後に諦めたらそんな一途な俺が好きだって言ってくれて、今は里子と付き合っている」
「まじでか!?あの子って俺と同じクラスだった新井さんじゃん!そっか、そう言うことになってたのかー」
そこで榊は尋ねた。
「なぁ、ってことは高塚さんってフリー?」
「……ああ」
色々あったけど今はフリーなのは間違いない。
「実は、お前に遠慮して言えなかったけど、俺も高塚さんのことを好きだったんだよな」
「まじで!?」
「毎日熱心に高塚さんに告ってるお前を見ていると、言い出せなかったけれど、今なら言える気がする。俺は、優勝して高塚さんに告白する!」
榊の突然の宣言にポカンとしてしまった。
「そ、そっか。頑張れよ」
「ああ!それより、お前も高跳びの選手なんだな」
そうだ。そう言えば榊は中学時代も陸上部で高跳びの選手として有名だったんだっけ!?
「そうだけど、負けないからな」
俺が言うと、榊は笑って言った。
「おう!俺も負けるつもりはないさ!」
お互いに握手をして、ウォーミングアップをした。
……榊、いい足しているよな。
走り慣れたいい足だ。
俺の足はまだあそこまで作られていない。
勝てるだろうか。
不安になる俺に、里子が応援してくれた。
「慎太郎くん!頑張って!」
「ああ!」
片手を上げて応える。
気合いを入れるために両手でパシン!と音がする程頬を叩いた。
「よし!」
ポケットには、結局高塚からのお守りも入っている。
これは愛情の延長線じゃない。
マネージャーと部員、友人同士の励ましだ。
里子にも、もう隠し事をしたくなくて話てある。
里子は笑って許してくれた。
後から聞いた話だけど、里子は里子で高塚と話し合いをしたらしい。
修羅場にならなくてよかったって笑っていたから比較的穏便にしたんだろう。
俺の胃が痛むが、里子も高塚も笑っていてくれるならよかった。
「高跳びの選手は集まってください」
アナウンスに従って、俺はスタートラインに向かった。
俺の順番は榊の後だった。
「よろしくな!」
「こっちこそ!」
一人ずつ走っては跳んで、脱落していく。
俺はまだ生き残っているけれど、いつ脱落するか。
榊はまだ余裕そうだ。
やっぱり強い!
俺は、他の部員や里子、高塚の声援を受けて跳び続けた。
跳んで、跳んで、跳び続けて、落ちた。
「飯田慎太郎選手、失格」
無情なアナウンスに、それでも他に跳び続けているのは榊だけだったから俺の二位は確実だった。
榊は大会新記録を出して、堂々の一位になっていた。
「さすがだな、榊」
「飯田こそ、こんなに頑張るなんて思わなかった」
「どう言う意味だよ」
「そのまんまだよ!」
笑い合って、優勝するのが榊でよかったと負けた身で思った。
「さて、それじゃあ行くか」
「ああ」
表彰式は、すべての競技が終わってから順に行われた。
一位の榊は輝いていて、俺は二位だったけれど榊が一位で良かったと心から思った。
「さ、高塚さんに告白してくるかー」
「あの話、まじだったのか!?」
「まじだよ。俺だって好きだったんだ」
「でも、高塚はさぁ」
俺のことが好きだったなんて言うに言えない。
「お前の学校、あっちの方だろ」
「あ、榊!」
ぐいぐい行く榊に慌てて追い掛ける。
「高塚さん!」
「……なに?」
「俺と付き合ってください!」
トロフィー片手に差し出して、告白をする榊。
「悪いけど、無理」
「なんで!?」
「あの頃とは違うから、かな」
そう言って高塚は俺を見た。
俺は苦笑しポケットを叩いて、ここに高塚の想いはあると言外に伝える。
高塚が柔らかい顔になる。
「なんだよ、やっぱり二人は付き合ったのか!?」
榊が喚くが俺は里子を呼び寄せて紹介した。
「俺の恋人は里子だけだよ」
「久し振り、榊くん。優勝おめでとう!」
「久し振りだな、新井!」
握手する二人に胸がチリリと痛むが、同級生の握手ですら嫉妬してどうする。
「里子、ごめんな。優勝出来なくて」
「ううん!慎太郎くん、格好良かった!」
里子は興奮気味に食い付いた。
「そうだな。一年生の割には検討した。俺達は引退だけれど、来年は見に来るからな」
鹿谷部長に声を掛けられて、そうか、この大会で部長達は引退なのかと急に感慨深くなる。
「まあ、卒業式まで引退する気はないけどな!」
笑って言う鹿谷部長に、らしいなって思いながら「卒業するまで鍛えてください!」と答えた。
他の部員もやいのやいの言ってくる。
そこへそっと高塚が来た。
「二位だったけど、飯田くん格好良かったよ」
「ありがとな。高塚のお守りのおかげもあるかも」
「……まったく。そう言うことを平然と言うから諦められないのに」
高塚がぽつりと呟いたのは、騒ぎで聞こえなかった。
「高塚、なんだって?」
「なんでもないよ」
その笑顔が寂しそうで、あまりに綺麗で、高塚もこんな俺なんて見限って幸せを手にして欲しいと願った。
「あーあ、高塚さんには振られるしなぁ」
「まあ、時間が経ったら案外オッケー出るんじゃねぇか?」
その頃には、俺から他の男に目が行くだろう。
「太陽は、眺めるだけに限るけどな」
「なんだそれ」
「そういうことだよ」
俺は笑って榊の背中を叩く。
いつか、この火傷を笑って話せる日が来たら、笑い話に出来たらいいなと思った。




