高校入学初日
高校入学初日。
新入生代表は俺が中学三年間ずっと好きで振られ続けていた彼女、高塚佳菜子が務めていた。
全校生徒、職員、父兄の前に立っても物怖じせず話す彼女は堂々としていて、どう足掻いても高嶺の花だった。
一瞬目が合ったのは気のせいだろう。
万雷の拍手を受け、次席へと戻る彼女は凛としていてどこまでも美しかった。
「同じクラスだね!」
当て振られた教室で新井が俺の席の前で嬉しそうに言う。
俺も嬉しい。
「これからもよろしくな」
「うん!」
飛び跳ねて全身で嬉しさを表現する新井が可愛い。
「あ」
高塚佳菜子が入って来た。
「同じクラスなんだ」
新井が不安そうな顔をする。
「俺の恋人は新井だけだよ」
そう言うと、赤くなる。
まだ付き合って数日だけど、俺は何度も新井に好意を伝えてきた。
中学時代にほとんど毎日高塚に告白していたから、すんなりと好意を表せる。
振られ続けていたけれど、こういうところは良かったのかもしれない。
「もう、高塚さんのこと、好きじゃない?」
「うん」
ほんの少しの嘘は許してくれ。
新井の笑顔を守るためについた嘘だ。それでも、どこか自分が汚れた気がした。
そんな身勝手を思って告げる言葉は、ちくりと俺の胸を刺した。
俺は新井と話すのに夢中で、高塚が何度か俺たちのことを気にしていることに気付いていながら気付かない振りをした。
だって、新井は怖がっている。
俺が高塚を三年間も好きでずっと告白したことを知っている。
そんな高塚が同じクラスで、俺たちのことを気にしているなんて知ったらどうするか。
悲しむだろう、泣くだろう。
喜びの涙なら流させてみせたいけれど、悲しみの涙は流させたくない。
俺は新井が振り向いて二人が目を合わせないように、新井の話を聞いては笑い、高塚の視線から逃れた。
けれど、現実はそんなに甘くないらしい。
入学式と挨拶を終えて帰ろうとする俺たちに高塚が声を掛けてきた。
「飯田くん。ちょっといいかな」
「高塚……」
その時、腕を握られるのがわかった。
新井が不安そうにこちらを見ている。
「なにか用か?」
「その、彼女は?」
「同じ中学だった新井だよ。俺の彼女」
「初めまして、新井里子です」
新井がぺこりと会釈すると、高塚も会釈をした。
「高塚佳菜子です。これから一年間、同じクラスだけどよろしくね。……飯田くんも」
「ああ……。話ってそれだけか?」
「そうじゃないけど、もういいの。ごめんなさい。二人の時間を邪魔しちゃって。……いい彼女だね。良かったね。」
にこりと微笑むと、そう言って高塚はさっさと帰っていった。
「なんだったんだ?」
「毎日告白していた飯田くんが私に盗られたからやきもちじゃない?まあ、今更遅いけど!」
強がる新井が愛おしい。
「そんなことはないだろう」
笑って言うと、新井は怒った。
「そうやって自分を甘くみる!だめだよ、飯田くんの悪い癖!」
「分かったよ。でも大丈夫だって。俺が今好きなのは新井だけだから」
「飯田くん……!」
繋ぎ止めていた腕から指先へと洗いの指が移る。
そっと握って手を繋げば、新井は満面の笑顔になる。
俺にはそれが可愛くて可愛くて、新井に恋をして良かったと思った。
「帰ろうか。送っていくよ」
「ありがとう!」
些細なことでお礼を言ってくれる新井に小さな自尊心が擽られる。
「……いい彼女、か」
高塚がどんな意図で言ったかはわからないが、確かに俺にしてはいい彼女すぎる。




