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1000回振られても君が好き  作者: 千子


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19/45

蝋の羽は燃え尽きた

俺と里子が別れたという話はすぐに校内を駆け巡った。

なんせ学校公認のカップルだったんだ。

噂の的になるには充分だった。

その代わり、俺は里子と別れて高塚と付き合っているという噂も同時に流れた。

俺は二股をかけてバレて振られた最低男として見られていた。

そばにいるのは高塚だけ。

「おはよう」

挨拶をしても返されない。

けれど、部活では違った。

鹿谷部長も三ツ谷先輩も清水先輩も変わらず接してくれる。

「お前達の修羅場は何度もあったからなぁ」

なんて言われて反論ができない。

全部、俺が悪いんだ。

高塚とのことを過去にしきれなかった。

あの寂しい背中を見ると、笑って欲しいと思ってしまう。

でも、それで今度は里子に寂しい背中をさせていちゃダメだったんだ。

イカロスの羽は、溶けきって大地に落ちて死んでしまった。

太陽に近付き過ぎたんだ。

「飯田くん、はい」

「ありがとな」

高塚からのタオルを受け取るだけでヒソヒソと他の部活動をしている生徒から噂される。

里子は俺のことなんていないかのように他の部員に接していた。

……俺との付き合いで入部してマネージャーになったんだから、辞めてもいいのに。

里子を見ていると高塚が俺の顔を覗き込んだ。

「新井さんじゃなくて、私を見てよ」

「いや、俺は……」

言葉の意味が頭に沈む前に、彼女はそっと顔を寄せてきた――。

高塚が耳元で囁く。

「今日も両親がいないんだ」

俺は、どうすれば良かったんだろう。

中学時代から好きだったんだ。

無碍には出来ない。

でも、心はまだ新井にある。

体と心は裏腹に、バラバラになりそうだった。


結局は、あの憧れた後ろ姿が俺を向いて笑ってくれるから甘えてしまう。

高塚との関係は、断ち切らないといけないのに。

それでも、彼女の瞳の奥に映った寂しさが、俺を許したように見えた。

高塚の部屋で、二人で――熱い肌を重ねた。

俺は、すっかり高塚に溺れていた。

その度にチリチリと音がして、燃え尽きたはずの蝋の羽が後悔を迫る。

里子は今、どうしているだろう。

泣いているんじゃないか。

「飯田くん。今だけは私を見てよ」

高塚が暑さの割に冷たい手のひらで俺の頬を撫でる。

「高塚……」

今、この腕の中の存在を離したらまた泣かせてしまう。

どちらにしても片方の愛した女性を泣かせてしまう。

俺は、どうすればよかったんだろう。

「……新井さんとのこと、気になる?」

全てが終わった後、俺の頭を撫でながら高塚が聞いてくる。

「ああ……」

そう言うと、高塚が抱きついてきた。

「やっと自分の気持ちに気付いて飯田くんが手に入ったのに、また離れるなんて嫌!」

「高塚……」

俺は、高塚の涙にも里子の涙にも弱い。

だから、二人には泣いてほしくない。

「高塚。聞いてくれ。もうこんなことはやめよう。もちろん、里子にも近付かない。俺は二人が悲しむと悲しい」

「悲しませているのは飯田くんじゃない!中学はずっと私のことが好きだったのに、いつの間にか新井さんと付き合って、私に近付いてくれるのは飯田くんだけだったのに」

高塚が泣き出した。

計算尽くじゃない、本物の涙。

「高塚、ごめん」

「……ううん。飯田くんのそういう優柔不断なくらい優しいところが好きなんだもん」

高塚は泣きながら笑った。

それが、きっと最後の笑顔だった。

「里子とも、もう二人で会わない」

「……それは、いいよ。飯田くんはきっと新井さんの元に戻る。中学三年間、ずっと私に愛を捧げていたように、今度は新井さんに捧げている。ごめんね、飯田くんの優しさに付け込んで」

「いや、優柔不断な俺が悪い。ごめん」

「ふふ、さっきから謝ってばかりだね」

「そうかも」

「そう言うところが好きだよ」

そう言って、最後に高塚からキスをした。

今まで冷たく感じたキスは、初めて温かさを感じた。

なのに、胸の奥のどこかが静かに泣いていた。

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