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1000回振られても君が好き  作者: 千子


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18/45

落ちた蝋の羽

「あれ?里子は?」

今日も一緒に帰るつもりでいたら、急な家の事情で早く帰宅したらしい。

「そっか」

「さすがは体育祭で校内認定カップルになった二人だな」

なんて揶揄われながら一人で帰る道は寂しい。

とぼとぼと歩いていくと、後ろから高塚が近付いてきた。

「飯田くん、ちょっと待って」

そう言って、腕を組んでくる。

押し付けられた胸にどきりとして振り払おうとしても、ぎゅっと握られて、きつく拒絶しないと離せそうにはなかった。

そして高塚はそっと耳元に唇を近付けた。

「今夜、両親が家にいないんだ」

「お前、何を言っているんだ!?」

あんなに躊躇われた手を強引に離した。

「事実しか言っていないよ。何を期待しているの?」

少し嘲るような高塚に、少しムッとして、歩みを進める。

「揶揄っているなら先に帰るぞ」

「待ってよ。今日は新井さんもいないんでしょう?なら、チャンスじゃない?」

「チャンス?」

高塚がにこりと微笑んだ。

「中学時代の続きをするのに、さ」

それからは記憶がなかった。

チリチリ、いつもの雑音がノイズのように俺の耳で鳴り響いていた。

「中学時代に応えられなかった気持ちを今更に返そうっていっても、新井さんがいるのは分かっている。でも、私が飯田くんを好きなのは事実なの。信じて」

そう言われて、涙目で見られて、里子が重なった。

俺は、高塚と里子。どちらを愛しているんだろう。

気付くと高塚の家に入り込んでいた。

高塚が作った飯を食べて、風呂に入って、その夜を過ごした。

初めての割には高塚がリードしてくれたのが功をなして、お互いに快感を拾えた、と思いたい。

とにかく、すごく気持ちよかった。

聡子の顔が浮かんでは消えて、蝋が解ける音だけが響いていた。

初めては、高塚に捧げてしまった。

終わってからの後悔が半端なかった。

里子にも、高塚にも最低な行為だったと思う。

それでも、肉欲は旺盛で、誘われたら高塚の体に溺れた。

最低で最高な夜だった。


それから度々誘われては高塚の家の前で立ち尽くす。

「中学時代の続きをしよう」

その言葉が、胸の奥で何度も反響する。

帰るべき場所があるのに、足は動かなかった。

高塚が差し出した手は、熱を持っていて、

その熱が指先から心臓まで届いた瞬間、

理性は焼け落ちた。

――気付いた時には、もうすべてが過ぎ去っていた。

灯りの落ちた部屋で、彼女の横顔を見つめながら、

罪の重さが静かに降り積もっていく。

胸の奥で、蝋が溶けるような音がした。


「慎太郎くん、なにかおかしくない?」

「えっ、なにが?」

「最近、一人で先に帰るしさ」

里子がむくれる。

そんな姿を可愛く思う。

やっぱり、高塚との関係はやめよう。

俺には里子が大切なんだ。

そう思って、交換していた高塚の連絡先に「もうああいうのはやめる」

とだけメッセージを送った。

「慎太郎くん?」

「なんでもない」

俺からのメッセージを見て、高塚が悲しげな表情をしていたのを目尻に見て、俺はこれでよかったんだと自分を納得させた。

けど、世の中そうはいかなかった。

「慎太郎くん、これは何?」

里子が阿呆面で寝こけている俺の写真を見せてきた。

「なんだ。これ」

「高塚さんと、そういう仲になったんだ」

里子が泣いた。

「違う、あれは過ちで……!」

「過ちなんてひどいわ、飯田くん。あんなに何度も愛し合ったのに」

高塚が嘲笑する。

「高塚……!」

「ねぇ、新井さんより私の方が良かったでしょう?新井さんとはまだしたこともなかったもんね」

「それは、里子を大切にしたくて」

「なら、私を抱いたのは何?結局飯田くんは、愛してくれる人なら誰でもいいのよ」

聡子の目が泣き腫らして赤い。

そんな顔をしたくなかったのに。

「里子……」

「やめて!」

伸ばした手はぱしりと叩かれた。

「もう、慎太郎くんとは別れる」

「そんな」

「高塚さんとお幸せに」

里子が去っていく。

「可哀想な飯田くん。大丈夫。私は愛しているから」

そう言って、高塚は俺にキスをした。

何度交わしたかも分からない高塚とのキス。

それでも、ここまで冷たいキスは初めてだった。

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