太陽が眩しすぎた
その日の晩、夢を見た。
悲しげな里子を前に腕を組む俺と高塚。
思わず目が覚める。
冷や汗もかいて、喉が渇く。
ベッドから出てキッチンに向かうと水を一杯飲む。
なんて悪夢だ。
いや、悪夢なのか?
俺は確かにあの時、高塚との生活を思い描いた。
自室に戻ると机の上に手紙とお守りが置いてある。
俺はこれをどうすればいいか分からなかった。
捨てるべきか、お守りを付けておくべきか。
悩んだ末にそっと引き出しにしまった。
高塚は中学時代の淡い思い出だ。
このお守りと手紙も、気持ちだけ受け取ろう。
そう思い直してベッドに戻った。
今度こそ、夢の中の里子が笑ってくれた気がした。
翌朝、里子が家まで迎えにきた。
足を怪我してから毎日の光景。
今までは俺が迎えに行っていたのに、すっかり逆転してしまった。
「おはよう」
「おはよう!」
そう言って、手を繋ぐ。
足はもうだいぶ良くなった。
今日から部長に話をして、部活に復帰しよう。
高跳びしている間は高く飛ぶことだけで頭が占められる。
高塚のことも、考えなくて済む。
そう考えている時点で意識しているとは俺は考えていなかった。
里子と二人で他愛ない話をして、教室に入っても甲斐甲斐しく世話をしてくれる里子。
俺には過ぎた彼女だ。
ちらりと高塚の後ろ姿が目に入る。
凛として伸ばされた背筋は、誰も近付けなかった。
俺は、一人でいる高塚が気になった。
本当はあんなに優しいのに。
周りに持て囃されて、結局は一人で高い場所に追いやられて降りれなくなった少女に思えた。
中学時代を思い出す。
そんな高塚が気になって、笑って欲しくて、毎日話しかけて、告白して、振られて、それでも高塚がいつか笑ってくれるんじゃないかって勝手に期待して、俺も他の連中と同じだ。
勝手に高塚に理想を押し付けていた。
高塚への目線に里子が気付かないわけもなく、首が音を立てる勢いで頬を掴まれて里子に顔を向けられる。
「慎太郎くんの恋人は?」
「里子だよ」
「よろしい」
俺の優柔不断を可愛い嫉妬に変える里子を大切にしないと。
昨夜、高塚とは中学時代の思い出だと心に決めたのに、忘れたくても忘れられない。
三年という月日は長過ぎた。
でも、俺には今は里子がいる。
裏切らないようにしないと。
……キス、二回もされたけど。
柔らかかったな。
聡子も柔らかいけど、違う触感だった。
里子と高塚を比べている自分に気付いて首を振る。
「どうしたの?」
「なんでもない」
もう一度、高塚の背中を見る。
……お守りのお礼だけは言ったほうがいいよな?
部活の前、里子が先に更衣室へ向かったのを見計らって高塚に声を掛ける。
「高塚」
「飯田くん。何?」
「お守り、ありがとな」
「……名前を書かなかった意味、ないじゃない」
高塚がポツリと言う。
「でも、こういうのはもうやめてくれ。俺には里子っていう恋人がいる」
「本当に?本当に新井さんがいいの?」
「どういう意味だ?」
「飯田くんの好みって、私でしょう?」
高塚が首を傾げて言う。
確かに、その通りだけれど!
「それでも、俺の恋人は里子だ」
「……本当に、やり直せないの?」
その言葉に詰まる。
もしも、の話は中学時代から考えていた。
「なんで、なんで今更なんだ?なんで中学時代に応えてくれなかったんだ?」
「前も言ったでしょ。後悔したって。中学時代も私も飯田くんが好きだって今更気付いたんだって」
高塚が初めて泣いた。
「ごめん」
「いや、謝るのは俺の方だ」
高塚を傷付けるのは本意じゃない。
「ねぇ、中学時代の続きを今からやるには本当に遅いのかな?」
「……そうだな」
チリチリと音がする。
跳んではいないのに、太陽に焼かれて死んでしまう。
高塚は危険な存在だ。
「とにかく、高塚の気持ちには応えられない」
「そう」
高塚が泣いていた目を擦る。
俺はなんとも言えない苦い感情でその姿を見ていた。
「部活の時間に遅れるな」
「そうだね。そろそろ行こうか」
そう言うと、高塚はふわりといい匂いをさせて俺の隣を通り過ぎていった。
その残り香にくらくらしながら、俺は部室に向かった。
鹿谷部長にも説き伏せて、再度高跳びの練習を始めるようになった。
これなら大会に間に合いそうだ。
ただ高く。
飛ぶ度に蝋の羽が燃え尽きる音が聞こえた気がして、太陽は眩し過ぎた。
それでも目が離せなかった。




