合宿の終わり
翌日からも、俺は練習に没頭した。
跳んでいる間は、何もかもを忘れられていた。
ただ高く。
もっと高く。
跳んで、跳んで、また跳んで。
「飯田くん、お疲れ様」
「ありがとう、新井」
罪悪感から新井の瞳が見れない。
「……ねぇ、昨日の夜、本当に高塚さんと何もなかった?」
新井の感は鋭い。
でも、これ以上嘘をついて新井を悲しませるのも俺の本意じゃない。
俺ははぐれていた間のことを正直に話した。
「ごめん」
「ううん。話しにくいことをちゃんと話ししてくれてありがとう」
ちょっとぎこちない笑顔で新井が首を振る。
そんな顔をさせたいわけじゃないのに。
「俺が好きなのは新井だけだよ」
「……でも、高塚さんにも一瞬くらっときちゃったんだ」
「それは、そうだけど……」
新井はパン!と自分の両頬を叩くと、俺にいつもの笑顔で言った。
「あー!もう!嫉妬やめ!ごめんね!私も飯田くんが好きだよ!」
ニカッといつもの調子で笑う新井が強がって見えて、思わず抱きしめた。
俺より小さくて薄い体。
無理しなくていいのに。
俺を詰ればいいのに。
「無理しなくていい」
「無理じゃない」
「泣きそうなのに」
「まだ泣いてないもん」
でも、目元には涙が溜まっている。俺はもう一度抱きしめて、呟いた。
「里子」
「……名前」
「いいだろ。付き合っているんだから」
「じゃあ、じゃあ、私も慎太郎くんって呼んでいい?」
躊躇いがちに尋ねられて断る理由なんてない。
「もちろん」
俺がそう言うと、涙はどこへ行ったのか、また満面の笑顔で「慎太郎くん」と言う里子が俺には可愛くて仕方がなかった。
そうだ。
高塚は昔の恋だ。
今の俺には里子がいる。
合宿の一時のことなんて忘れて里子との時間を大切にしよう。
「こらー!そこ!いちゃつくな!なんのための合宿だと思っているー!」
鹿谷部長の大声にこちらに注目が集まった。
抱き合う二人。
盛大な野次が飛び交った。
一人、真顔で俺たちを見ていた。
高塚だ。
俺と高塚の視線が一瞬合うと、逸らされた。
これでいいんだ。
「合宿が終わったらどこか行こうか」
「いいね!私、海が見たい!」
そんな計画を立てて、二人で笑い合った。
新井を好きでいて良かった。
新井が俺を好きでいてくれて良かった。
俺は、大切な恋人との初めての夏休みに想いを馳せて、スポーツドリンクを一飲みした。
それからは調子が良かった。
飛べば新記録。
合宿の最終日。
大会に出る選手の発表がされた。
俺は、数合わせといえど高跳びの選手に選ばれた。
「すごい!飯田くん!」
「まだ、成果を出してからだよ」
「そうだね。でも、この調子ならいい成績が出せるかも」
「そうなったら嬉しいな」
「だから〜!いちゃつくな〜!飯田は練習量増やすぞ〜!」
三ツ谷先輩から言われて、俺達は顔が赤くなる。
繋いだ手が、信頼を現していた。
高塚は終始無言だった。
ただ、時折いじるスマホに見知らぬお守りがつけられていたのが気になった。




