始まり
この扉の向こうに何があるかなんて知らなくていいと思っていた
「レヴァは大きくなったら何になりたい?」
「んーとねぇ、お嫁さん!!」
父は少し引き攣った顔をしていた
「えーと……お父さんとだよな?」
「んーん、おとしゃん臭いし、や!」
父の瞼には涙が流れていた
「そーよ、レヴァにはお父さんよりもいい人がいっぱい見つかるわ」
「いっぱい!?」
「そう、いつかね……」
母は少し悲しそうに私の頭を撫でる
父が小声で「そりゃレヴァにはいい人はいっぱい見つかるかもしれないけど本当にそれがレヴァにとっていい人なのかわからないし…………」
ぶつくさと言っているのに呆れて母は溜息をつく
とても楽しいいい思い出だ
ここにずっといれるならこの扉の外なんて知らなくったって私は十分だった
だから、閉じていてよ……勝手に開かないでよ
「返してよ……」
夢を見ていた
過去の夢を見ていた
詳しい内容は思い出したくない
思い出したらまた胸が痛くなるから
ある意味では今の環境には助かっている
だってここでは死ぬまで過去を振り返る余裕なんてないから
天井にまばらに光る何かが私たちの太陽
夜になるとその光は消えて朝になるとまた光出す
気候は変わらず、体感温度は思ったよりも高い
周りには巣穴のようにあちこちに穴がある
それが私たちの仕事場で帰る家でもある
遠くに見える重厚な扉はいつの日か生きていた地上が覗ける唯一の場所
地上で生きていた頃に聞いていた場所に私はいる
ここが魔法を使えない子供が送られる街
灰の街であると
街と呼ぶより巣穴、檻……ゴミ捨て場
人が住むには程遠い呼び名の方がしっくりくる
「なんで灰の街なんて名前なんだろう……」
呟いた言葉に誰かが返事を返してくれるなんて思っていないがここにいると独り言が多くなってしまう
考えすぎで頭が痛くなり始めた
幸い体感であと数時間は朝にはならないはずだ
もう一眠りつくとしよう
「ヴヴィーーー」
耳元で聞こえるいつもの音で体が起きる
自分の感覚に間違いがあったことに驚きながら瞼を擦る
ここでは低いサイレンのような音が朝を知らせる合図なのだ
なのだが……まだ朝の光がさしていない
「ヴヴィーーー」
「……何してるの?アナ」
「おはよう、レヴァ!!いつもの私の研究に付き合ってよ!」
普段流れるサイレンと同じ音質で私の目を覚ましてきたここでの唯一の友人であるアナスタシアが笑顔でこちらを見る
今年で12歳を迎えている私たちはここ、灰の街では最高年齢になっている
そんな縁があってなのかアナスタシアは私に気さくに話しかけてくれるとても良い友人なのだ
本人を目の前に言うことは絶対に無いのだが
まあ、かなり自己中なところはあるので腹が立つことは多々あるのだが
「まだ寝かせてよ、体がもたないよ?」
「だって昨日は魔石が多くて仕事終わらなくて魔道具の研究できなかったからさ……ね!?」
「ね、じゃないよ。みんなアナみたいに馬鹿体力馬鹿じゃ無いんだから」
「それほどでも〜!」
照れながら鼻を擦るアナスタシアにレヴァは呆れながら体を起こす
それを確認してからアナスタシアはすぐその場を立ち上がり小走りで巣穴を出る
光がない時間帯では自分の感覚を頼りに目的地に向かうことになるのでここで生活している人は目が悪い分耳と鼻が良い
アナスタシアは自分が歩いた時の音の反響で位置を確認できるらしい
レヴァはこの街にまだ2年しかいないのでそこまでの感覚は覚えることができなかった
けれどレヴァは迷うことなくアナスタシアが準備している研究室に向かう
眠たい目を擦りながら少し小走りでアナスタシアの方へ
***
「つまりここに魔力が通れば理論としては完璧なわけだよ」
「……そこ式ずれてない?」
「あ!ほんとだ」
平べったい石に擦ると白い線がかける石で正統魔法の道具化についての理論を語り合う
光が照らさない真っ暗闇で描いた文字が理解できるのかと言うと当然できないがここにある石は擦ると白く薄く光るのでギリギリわかる
アナスタシアはそんな光なくても読めると言っているが私の目はそんな暗闇に対応していないのだ
アナスタシアは鼻歌混じりで魔道具設計図を書いている
そんなアナスタシアの講義に私はおかしいと思った部分を質問する
それが私たちの娯楽
私たち『人間未満』決まった時間に決められた仕事を行う
私とアナスタシアは魔石の採掘
他の人達の仕事は知らない
地上階にいた頃に聞いたここの話では実験台が奴隷か……少なくとも人扱いは受けないというのは確かだ
毎日決まった時間に仕事が始まり、最低限の食事、時折はいる魔導隊の癇癪それらが終わって私たちの太陽がなくなると共に私たちは休息を取る
アナスタシアはその休息を利用して魔道具の開発を想像して書き留めている
「毎日楽しそうにするよね、疲れてないの?」
「疲れない!」
間髪入れずに答えるアナスタシアに思わず笑う
「私のお父さんが言ってたんだ、好きなことには普段使わない力を使うから疲れないんだって」
「……魔法が使える道具なんて作れるの?」
「作れるよ、それは間違いない」
いつもと違う真剣な声に正直すごいと思った
「そもそも、魔道具を作らないこの世界が異常だと思う。私が思うにこの世界は誰かの手によって操られているのかも、そう考えなきゃおかしいもん。誰でも使える便利な道具はきっと私以外の人も辿り着く答えだし……」
いつもの考え事が始まったところで机の上にある設計図を眺める
今考えているのは夢見が良くなるベッドというもので温度を適切に調整できる水の魔法を使った水ベッドを作ろうと言うものだ
他にも人を感知して光ってくれる灯火、誰でも空を飛べる靴、それが本当か判定してくれる眼鏡などetc
これらを行動に移すことはない
その道具も魔力もここにはないから
それでもこんな夢を語るのは現実逃避というわけではない、ただそれが楽しくて行っている
この時間は、とても好きだ
「つまり神様に反逆するために悪い神様が世界を滅ぼすのだよ!!」
「なんの話してるの?」
「ん?世界についてだね……私小説家にもなれるかも!」
「そだね、ほらここの式もっと省略できるよ」
「え!ほんとだ!!でもこれ無くしたら強度弱くなりそう……」
こうして私たちの少し早い朝が始まる
1時間ほど経ってからよく聞くサイレンが流れる
今日は少し長い1日になりそうだ




