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     第1話「突然の退去命令」⑤

1ヶ月以上かけてしまいました…。でもなんとか書き上げられたのは超かぐや姫のお陰だったりします。よかったですよね、サマーウォーズ的な熱さがありました。当てられたおかげで投稿が乗ってた頃の無茶もできましたし。

といわけで、最新話の方もよろしくお願いしまし(>人<;)


「馬鹿な、竜の討伐だと? あんたハナから俺たちにここを出入りさせる気がないな!?」


 拳を叩きつけながら立ち上がるエイリーク。

 思わずといった風にフォルテは立ち上がりローウェンを見る。

 しかし、それも当然だと、その場の誰もが同じ思いを抱いていた。

 竜種の中で最も小型である飛竜ですら、精鋭で構成された専門部隊が複数であたる相手だ。ましてや純粋な竜が相手となれば、メルたちが対応できる任務のレベルをはるかに超えている。


「だから、はじめからそう言ってたろうが。承知で受けていたと思っていたんだがな」


「ああそうだったな! けど本当に額面通り言ってたとは驚きだよ!」


「エイリークさんの言う通りです…。この話はいくらなんでも…!」

「ちょっとあからさま過ぎるよネ」


 怒りを滲ませるエイリークに続き、フォルテ、ニーナからも厳しい言葉が続く。

 徐々に大きくなる周囲の人間たちからの非難の視線に、ローウェンは煩わしさから避けるようにミライの方を見た。


「お前たちの読みが甘かっただけの話ではあるが…おいミライ、依頼書はそれで終わりじゃないだろう。とりあえず全て読んでやれ」


「っ…、はい、そうですね、失礼しました」


 場の空気に呑まれていたらしいミライは我に返った様子で再び依頼書へと目を落とした。


「ーーー竜の討伐及び、素材、"竜角"の回収。


任務成功の可否は素材の提出をもって認定する。

難易度は上級以上。

報酬 聖金貨4枚。

期限は任務受諾から3ヶ月の間とする。


ーーーと、記載内容はこれで以上になりますが…」


 部屋を見回すミライの言葉に、一拍を置いて口火を切ったのはいまだ怒りの収まらない様子のエイリークだった。


「聖金貨4枚。 仕切り直したから多少期待はしたが、取引を差し引いても割には合わないな」


「これは市場の相場だ。それに一匹丸々手に入ったら角以外も含めて大儲けできるだろうが」


「話にならん! おいメル、無茶苦茶だぞこの依頼。俺たちに勝たせる気があるとは思えん!」


「…そんなつもりはないが、まあ、そう思ったのなら今の段階で諦めるのも手だな」


 メルの方を覗き込みながら強く訴えるエイリーク。

 その様子を視界に収めつつもローウェンはあくまで冷静にメルを見た。


「それで、結局どうする。お仲間はこう言ってるが、最終的な決定権はお前にあるんだろう? ガキんちょ」


「…っ、はい」


 挑発的な呼び方にムッとしながらも、込み上げてくる不満は飲み込んでメルは仲間たちへと目を向ける。

 エイリークは不承不承といった風に席に着き、シーリンはメルに従うというように目を閉じる。

 ニーナ、フォルテもまた、それぞれに言いたいことがありそうではあったがひとまずメルに判断を任せるようだった。

 

 そして、レイとクリスはーーー。


「ーーーー」


 二人とも、メルの答えを待つようにじっとこちらの様子を窺っていた。


 つまり、あとはメル自身が結論を出すだけということでーーー


「ーーーローウェンさん」


「腹は決まったか」


「はい。今回のお話、受けさせていただきます」


 澱みのないメルの答えに驚いたのか、僅かに身を引いたローウェンだったが、それもすぐに搔き消し悦しそうに頬を緩める。


「…いい返事だ。ではさっそく細かい話を詰めていくぞ」



          ☆



 ローウェンらとの会合から1週間。メルたちは課せられた任務を達成するべく、ギルド・シティにほど近い林の中を進んでいた。


「ーーーん、あったあった。この辺まだまだありそうだよ」


「ほんとだ、ありがとうフォルテ」


 生い茂る木々を押しのけて進んでいたフォルテに呼ばれ、その脇から覗き込んだメルは目に入った景色に顔をほころばせた。


 メルのパーティにフォルテたちを加えた一行は、まず始めに受諾した痛み止めの薬瓶の納品を果たすため、薬の原料の採集に赴いていた。

 危険度、難易度ともに高くない採集任務は駆け出し冒険者向けの任務として著名であり、メルたちにとっても身近な任務の一つである。

 それもあって準備から出立までは順調に進んでいたのだが…


「さて、と…。ここら辺の取り終わってようやく半分くらいか? なかなか先は長いな」


「ん~、仕方ないよネ~。数が数だし」


 背負っていた籠を下ろして腰をさするエイリークにニーナは慰めるように声をかける。

 それぞれが手にした籠の中はようやく半分ほどが黄色味がかった若い細枝で埋まっていた。


「そもそも数が多い。薬を2ダースってちょっとした行商並みだぞ…」


 溜め息を吐くエイリークの視線の先には太い幹から無数の細い枝を伸ばすヤナギがあり、その足元ではメルとフォルテが額を突き合わせながら条件に合った若枝を選んでその根元に鉈の刃を当てている。


 今回の任務で納品する薬は『セイリュウコウ』と言い、世間一般で広く流通している消炎薬、ーーー熱や炎症を抑える薬だ。

 主な材料としてヤナギの樹皮を用いるため、メルたちはギルド・シティを離れ、自生に適した地域を巡っていた。


「でも、街を出て1日半くらい? ペース的には悪くないんじゃナイ?」


「はい、ギルド・シティが柳の好む川沿いに立地していて幸運でした。このまま下流へ探索を続けていけば明日中には必要な数が揃うはずです」


「そりゃ朗報だ。これも、ご丁寧に依頼主様が薬のレシピまで細かく指定してくれたおかげだな?」


 追いついてきたシーリンに応じたエイリークは、その背後に現れた新たな人物へ声をかける。


「…自分の立場から言えることは何も。旦那様から任されたのはあくまであなた方の監視ですので」


「監視ネ~…」


 淡白なその青年の答えにニーナは肩を竦めながらエイリークたちの方を見やった。

 その飽きれと面倒さをはらんだ視線に同意を抱きつつ、エイリークはこうなった経緯でもあるローウェンとの話し合いの場面を反芻する。



          ☆



「ーーーそれじゃ、作る薬はこのレシピのものでいいんですね?」


「そうだ。こちらとしても求めていない薬を納品されても困るからな」


「それは確かに…シーリン、どう?」


「問題ありません。材料はどれも手に入りやすいものばかりですから、道具さえあれば我々でも十分に作流ことができるはずです」


 ローウェンから受け取った紙を見たシーリンはメルに向かって頷きかえす。

 

「道具についてはギルドで用意できます。必要な物を教えてもらえたらーーー」


「ーーいや、ギルドの調薬サービスは今回はダメだ」


「「!!」」


 ミライの言葉は先回りしたローウェンによって制されてしまう。


「ローウェンさん、それはーーー」


「悪いなミライ。だが今回は冒険者としてのこいつら自身の力量を計る目的もある。自力でどこまでやれるのか、その辺りを判断するためにギルドという要素は無しで行きたい。ーー期待しているぞ」


「え…っと…頑張ります」


 急に任務の難易度が上がり困惑しつつも答えるメル。


「よし、次に二つ目の任務についてだが、これについてはギルドにも依頼として出しているものになっているーーー」


「ちょちょちょっと、1個目のハナシこれでオシマイ!? 全然みんな納得した感じじゃなかったケド!?」


「気のせいだ。な! よし、話を続けるぞ」


「マージか…」


 壮絶に突っ込むニーナの言葉もメルたちの返事を待たない確認で押し通され、結局話は元の場所へ着地してしまう。


「今言った通り、山狩りについては通常の討伐任務として既にギルドへ発注している。よって人数が集まり次第決行する予定だ。…まあ、昨日出したばかりでまだ人は集まっていないはずだがな。デール、募集の締め切りは一ヶ月後だったか」


「はい、ひと月で提出しています。加えて、任務の決行は準備も含めてさらにその2週間後、といったところでしょうか」


 すぐそばに控えていた部下の言葉に頷いて応じてから、再度メルたちへと向き直る。


「とういうわけだ。こっちははじめからギルドが絡んでいるから、通常の任務と同じつもりで受けてもらえればいい。代わりに日程はこちらの指定に従ってもらう必要がある。それは忘れんようにな」


「は、はい。…でも、他に人もいるならそんなに大変じゃなさそうですね。ちょっと安心しました。討伐隊を組むくらいですから、数とかは多いのかもしれないですけど」


「そうだな。特にここのところは周辺のゴロツキ共が流れ込んで徒党を組み始めてるからな。ワシらの拠点の付近で変に組織だつ前に掃討しておきたいという事情もある」


「…ちょっと待ってください。え、ゴロツキ? 魔物…とかじゃなくて…?」


「正確には野盗だがな。半年前頃から依頼書にある砦に住み着いて、ちょくちょく近くの村落や街道を使う人間に手を出すようになった。全く、迷惑な話だ」


 腹立たしげに腕を組むローウェンだったが、メルたちからすればそれどころではない。


「それ、全然依頼書の内容と違うじゃないですかっ!! 酷すぎます!! 撤回を求めます!!」


「ローウェン。別に彼女たちの肩を持つわけではないが、流石にそれはやり方が汚いんじゃないか?」

「そうです。ギルドとしても野党を害獣と言い換えるのは看過できません」


 椅子を蹴って立ち上がったメルをはじめ、ルドルフ、ミライからの指摘にもローウェンは片目を瞑るのみで動じる気配はない。


「ふむ、撤回は別に構わないが、じゃあ、この場所のことは諦めるんだな?」


「〜〜〜!!!」


 結局は究極の二択となる選択を迫られることになり、肩を怒らせながらも席につく。

 また、ルドルフらがため息を吐きながら引き下がるのを見てとって、ローウェンは何事もなかったように話の続きを始めた。


「そういうわけだ。しっかり対人用の準備を整えておくように」


「…………はい」


 渋々従ったメルに対して満足げに頷いたローウェンは、これで話は終わりだとばかりに席を立とうとしたが、その途中で何かを思い出したように動きを止める。


「ああ、忘れるとこだった。今後の話の伝達役兼監視役としてそこのデールを置いていく。任務にも漏れなくついて行かせるからくれぐれも人倫にもとる行為はするなよ」


「へっ!?」

「…旦那様?」


 放たれた言葉はメルたちだけでなく、当の青年自身にも驚きの声を上げさせた。


「聞いていませんが」


「そうだったな。今伝えた」


「ーーー」


「宿の手配も済ませてある。しっかり役目を果たせよ!」


「ーーーーーー」


 デールの渋い視線も意に介することなくそのままメルの方を振り返り、


「言った通り、違法な方法での任務達成を許さないための措置だ。とはいえ監視だけじゃ勿体ないから、期間中はパーティメンバーとして使ってくれて構わんぞ。ギルドの任務はさせてこなかったから爵位(ランク)は最低順位だが、実力は中級冒険者程度はある。死なない程度にこき使ってやれ」


 それじゃあな、と席を立ったローウェンは部下を連れて迷うことなく店を出ていってしまった。

 後に残されたメルたち、そしてデールはしばしの間呆然と互いに視線を交わらせていたが、そん中で店主のルドルフがのそりと腰を上げた。


「…俺の問題ながら、馴染みが迷惑をかけた。まだ諸々手続きもあるだろう。コーヒーを淹れるから一旦全員席につくといい。…お前たちも、な」


 ルドルフは所在無げに立っていたレイとクリスにも声をかけ、その言葉を契機に再び店の時間も動きだしたのだった。



          ⭐︎



 ほんの1週間程前のまだ新しい記憶を反芻し、それから改めてデールの顔を見たエイリークは感慨深げに口を開いた。


「ーーーまあ、なんだ。お前も大概苦労してそうだな」


「…ええ、まあ」


 脈絡のないその言葉に虚をつかれたように僅かに目を開いたデールは、表情の乏しい口元を微かに緩ませながら小さくそう言ちた。

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