第1話「突然の退去命令」④
明けましておめでとうございます。
本年初投稿です。
前回の投稿からずいぶん間を置いてしまった気もしなくもないのですが、それでも読みに来てくださった方がいれば、本当に感謝しかありません。
今年はもう少しペースを戻していきたいと思っておりますので、どうか見守っていただければと思いますm(__)m
それでは、本編どうぞ(^_^)/~~
「ミライさん!?」
思わず立ち上がるメルに、当のミライは困ったような笑顔を見せる。
「はい…驚くのも無理は無いかと思いますが、どこから説明すればいいのか…」
「言ったろう、立会人だよ」
視線を投げかけられたローウェンがミライからその先を引き取った。
「隔離区画に接してる建物だ。そもそもの扱いとしてギルド抜きにはできん。その辺りの無理を通す要員として、俺の息のかかった奴を呼んだってわけだ」
「えっと…、つまりミライさんはローウェンさんと知り合いで、帳簿の誤魔化しとかそういうのを手伝ってたってことですか?」
「うーん、改めて人から言われるとこんなに後ろめたくなるものなんですね…」
困惑しつつ自身の理解を口にしたメルにミライは痛いところを突かれたように両手で顔を覆う。
「私がギルドの職員になった時の上司がローウェンさんだったんです。冒険しか知らなかった私を一から鍛えてくれて…」
「そういうわけだな。随分と手間をかけさせられたが、甲斐あってか今では副局長だ。で、その立場を使って多少恩師の都合のいいように帳簿を書き換えたりしてもらっている」
「…はい、まあ、誠に遺憾ですが…」
口惜しげに視線を逸らすミライだったが、それから気を取り直したようにメルとローウェン双方を見渡す卓の上座へと腰を下ろした。
「そういうわけで、この建物の特殊な事情も理解しています。今回は恩師からの依頼ということもあり、個人的に立会人の役目を引き受けさせてもらいました」
「なるほど了解です。とはいえ、第三者を入れるのは悪くないと思うんですが、ギルドの人間まで引っ張り出してくる必要はあったんですかね?」
「なに、今回の件を公式の記録に残しておきたくてな。懸かっているのは俺たちが所有する建物の権利だ。万が一にもお前たちが達成できるとは思ってないが、万全を期すのは悪いことではないだろう」
軽く手を挙げたエイリークの質問にローウェンが答える。
「それに、万が一お前たちが任務を達成できた時に、正式な任務としてギルドに登録しておけば俺たちが踏み倒す恐れもない。お前たちにとっても都合がいいだろう」
「おっしゃる通りだと、思います」
「よし。納得も得られたようだから、早速本題にーーー」
「待ってください、ローウェンさん」
「なんだ、これからって時に…」
不機嫌そうに鼻を鳴らすローウェンに申し訳なさそうに応じつつミライはメルへ向き直る。
「…メルさん。そうではないかとは思っていましたが、やはり彼らと繋がりがあったんですね…」
「えっと、はい…すみません。でも、やっぱりっていうのは…?」
「なんとなくそんな気がしていたんです。例のメルさんが隔離区画で襲われたあたりから。あの時のメルさんを巡る彼らの対応は、もともとの実績を踏まえても早かった。それと、救出部隊として突入した時も。悟られないよう距離を取っているようだったけど、積み重ねた戦闘経験は嘘は吐かない。ごくたまに見せていた咄嗟の連携は正直見事でした」
「…ま、手を抜ける状況じゃなかったしね」
ぽつりと漏らしたクリスの方を一度見やってから、ミライはメルたちの方に向き直る。
「幸いこのことに気づいているのは私と、隔離区画で彼らを担当しているリズさんくらいだと思います…現状では、ですが」
リズというのは確か、メルたちが隔離区画で現場検証を行った際に話をしたあの女性職員だろう、と心の中で結論するメル。
「しかし今回のように、どんな秘密もいずれはどこからか漏れるものです。そして仮にこのことがギルドに知られた場合、ある程度の処分が下されることになると思います」
「だろうな。ギルドは冒険者と札付きが交流するのを禁じていたはずだ。犯罪者とすき好んで付き合う者は同じ犯罪者だろう、という理屈でな」
「それは…でもーーー」
「彼らを一般的な札付きと同列に扱うかどうかについて、一考の余地があることは理解しています。しかしギルドがそんな事情を汲むはずもない。札付きという立場である以上処分からは逃れられません。そうなれば、このまま冒険者を続けられるかどうかもわからなくなりますよ」
「…っ」
「この期に及んでくどいと思われるのはわかっていますが、今を逃すと機会を失いそうなので言わせてください。ローウェンさんからの話を受けるのを止め、彼ら札付きとの関係を終わりにするという選択肢を選ぶことはできませんか?」
「受けるのを止めるってーーー」
「おい、ミライ。何を今更なことを…」
「すいません、ローウェンさん。しかしこれは本当は昨日のうちに話しておきたかったことなんです。順番こそ前後してしまいましたが、まだ、間に合うと思うんです」
いつにも増して真剣なミライの顔。その様子に覚えがあって、メルは昨日の彼の様子を思い出した。ずっと何か言いたげだったまま、ローウェンの乱入で面談自体が打ち切られてしまったのだが、既にメルとレイたちとの関係を知っていたのであれば十分に納得のいく話だった。
「メルさん」
ミライからの真摯な問いに、メルは自然とこれまでの自分の考えを反芻していた。
再開して間もなく、レイが札付きだと知ったとき。
隔離区画でほかの札付きたちに襲われ、そこをギルドに助けられたとき。
ーーーそして、仲間だったはずの少年をいともたやすく切り捨てられる狂気と相対したとき。
ここに至るまで、レイたちとの関係を続けるかどうかの選択を迫られる場面は何度もあった。
それを突きつけられるたびレイたちと共にありたいという思いは強くなっていて、だからこそ、一緒にいることを選択したのだと思う。
だったら、今の自分はどうなのかと考えたときーーー
そう思ってふと、奥で立たされているレイたちを見る。
「ーーー」
するとあちらもメルのことを見ていたようで、目が合った拍子に軽く眉を動かしーーー、やがて微かな退屈の空気と共に肩を竦めた。
まるで、今のこの状況が取るに足らないことだとでも言うように。
取るに足らないーーー
「ーーーそうだよね」
「メルさん?」
独り言ちたメルにミライが声をかけるが、それに軽く首を振って応じ、改めて向き直る。
「…ミライさんが私たちのことをすごく考えてくれているのは、すごくわかります。本当に、感謝しきれないくらい。でも、ごめんなさい。私、欲張りなので」
そもそもレイたちと会える場所がある今が例外的なのだ。もし今回のことでこの場所が使えなくなってしまったとしても、その時はまた別の方法を考えればいい。
そして同時に、今ある例外を手放す理由にもならない。
「やっぱり、レイとクリスとの関係はやめません。今回のローウェンさんのお話も受けさせてもらいたいです」
「ーーー、…メルさん、しかしーーー」
まっすぐに自身を見てくるメルの言葉にミライは一瞬言葉に詰まり、それからすぐに言い募ろうとするが、
「ーーーよし、ここまでだミライ」
「っ……ローウェン、さん」
「嬢ちゃんの気持ちはもう確かめられたろう。俺も暇なわけじゃない。これ以上の時間は割けん」
ミライを遮り、さらに低い声で言葉を重ねるローウェン。その内容こそ厳しいが、あくまで説いて聞かせるような調子に自然とミライも口を閉じる。
「それにだ、どのみちお前の心配は杞憂になるぞ。俺からの任務を見れば、検討するまでもなく諦めることになるだろうからな」
「おい、ローウェン…」
「冗談だ。真に受けるな」
咎めるようなルドルフの視線を適当に流しつつ一同を見渡すローウェンは一つ頷きーーー
「…うん、いいようだな。では、とっとと本題に移るとするか」
「あ…はいっ」
急に話の水を向けられ肩を跳ねさせるメルに対し、ローウェンは改めて目の前に並ぶ冒険者たちへと向き直る。
その顔にはようやく本題に入れるとばかりの不適な笑みが浮かんでおり、相対したメルたちの背筋も否応なく正される。
彼らのそんな様子にローウェンは呆れた様子で体を引いた。
「ちとビビらせ過ぎたか。話を聞く前からそんなんでどうするつもりだ。まあいいか。おい、依頼書をミライに」
ローウェンが声を掛けると部下の一人が進み出て筒上に巻かれた紙束をミライに差し出した。
ミライはそれを受け取ると、それを一度卓に下してメル、ローウェンの方を見た。
「では、ここからは切り替えて、これより、オットー・ローウェン氏所有の本物件に対する立ち入りの権利を賭けた任務交渉を始めます。双方、準備はいいですね?」
「はいーー」
「うむ」
メルとローウェン、二人の同意が出たことを確かめ、ミライは手にした依頼書を開いた。
「では、ローウェン氏から提示される任務を伝えますーーー。
1つ、痛み止めの薬瓶を2ダース納品。
難易度は初級~中級相当。
材料の調達から調合、製造までを自力で行い納品すること。
報酬は1瓶につき銅貨3枚とする。
2つ、ラナク村北部、ティエント山内の山狩り。
難易度は中級相当。
古い城塞の廃墟に住み着いた害獣の駆除。時期は今秋中頃を目処とする。
こちらについては別途依頼を出しているためそちらへの参加者との合同とする。
報酬は駆除一匹に付き銀貨4枚とする。
そして3つ目。これはーーー」
そこまで言いかけて、ミライは不意に言葉を止める。それから物言いたげにローウェンを見るが、視線を向けられた当人はあくまで続けるよう顎をしゃくるのみだった。
「失礼。…3つ目は
ーーー竜の討伐及び、素材の回収です」




