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     第2話「課題1:調薬と納品」①


「ーーーうん、いい感じに集まったね」


「確認しましたが、今日予定していた以上の収穫です。このペースであれば当初の日程通りの行程で必要数も集まるでしょう」


 並んだ籠に詰めこまれた枝を見て、満足げに腰に手を当てるメルとそのすぐそばに控えるシーリン。

 それからすぐに振り返ると、集まっていた仲間たちの方に向き直った。


「みんな、ありがとうございました! 今日はこれでおしまいにして野営の準備に移ろうと思います」


 メルのその宣言に一同の空気は弛緩し、互いの労をねぎらい合う。

 そんな中でフォルテとミツキが近づいてきた。肩にはフォルテの相棒である魔猫、フラットが乗っており、主の手のひらに気持ちよさそうに頭を擦り付けている。


「そう言うと思って、ミツキとフラットに野営向きの場所を見つけてきてもらっておいたよ」


 どうやら状況を見て既に動いてくれていたらしいフォルテは、得意そうに微笑みながらそう口を開いたのだった。



          ☆



 それから一行は目的の木々が生えていた川辺を離れて一刻ほどの後。ミツキたちが見つけてきてくれた、程近い丘陵地にある岩壁まで移動し、その日の終わりに向けた支度に移っていた。…正確には、夜に向けての準備と並行して、残っていた大事な仕事に取り掛かっていた。


「はぁ~、だいぶ慣れてきたけど…私この作業苦手~」


「仕方がありません、メル。これは枝に水分が残っているうちにやってしまうのが一番いいんですから」


「わかってるんだけどさ~…」


 両手に持ったナイフと枝を一度体から離して溜め息を吐くメル。

 そんな彼女を慰めながら、隣に座るフォルテのパーティメンバーの少女、ベラは手にした枝の表皮にナイフで縦方向の薄い切り込みを入れていく。そのまま樹皮と茎の間に刃を差し込むと、慣れた手つきでめくるように樹皮を剥がしていった。


「逆にベラちゃんは手際いいよネ」


「私は、一応魔術師なので。薬作りは比較的身近な作業の一つなんです」


 感心した様子のニーナにベラは少し照れ臭そうに応じる。


「ほら、メルもこの子と同期なんでショ? これくらいできないとどんどん先越されちゃうよー」


「ぶーーー」


 ニーナはベラの薄く均一なベラのものと、厚さ、形共々やや拙いメルのものをそれぞれ持ち上げながら交互に見て、メルが頬を膨らました。


 ここまでの彼女らの姿を見て分かる通り、メルをはじめとする主だった面々は今、枝の樹皮を芯から剥がすという作業をひたすら進めていた。

 今回作るセイリュウコウ、消炎のために用いられるこの薬は、ヤナギの樹皮が主とした原料となる。そのため、不要となる芯から樹皮を取り出す必要があり、今まさに、今日集めた分の処理を黙々と行っているところだった。


 実は、時刻としては生い茂った木々の向こうでようやく沈み始めた日が見える頃合で、そんな比較的早い時間から採集を止めたのはまだ明るいうちにこの作業を可能な限り進めておく必要があったから、という事情がある。


 ともあれ、そんなやりとりをしていると、木々をかき分ける音ともエイリークとフォルテの姿が現れた。

 彼らは付近への警戒用結界の設置と水汲みを担当しており、両手に下げた水筒からして目的を終えて戻ってきたのだろう。


「ずいぶん楽しそうにやってるな」


「おかえりー。危なそうなとことかなかった?」


「大丈夫そうだ。まあ街道も近いからな。ーーーほいこれ。水な」


「はい、いただきます」


 火の面倒を見ているデールに水筒の束を渡したエイリークは次いでシーリンの方を見る。


「そっちの作業もぼちぼち終わりでいいんじゃないか。もうだいぶ日も陰ってきてる」


「そうですね。では今やっている分で終わりにしましょう。メル様とエイリークは明日の予定を相談したいので片付けが終わったら私のところに来てもらえますか?」


「はーい」

「はいよ」


 息は合っているものの締まりはない二人の返事を合図に、この日のもひとまずの終わりを迎えた。



          ☆



「ーーーで、明日の予定だっけ?」


「はい。こちらの地図を見ていただきたいのですがーー」


 片付けを済ませ、近目の前に座ったメルとエイリークに対し、シーリンはこの一帯が描かれた地図を広げて見せた。


「現状、事前に知らされていたヤナギの生育地域を5箇所巡り、目標本数の8割程度まで集めることができています。そして今私たちがいるのはこの辺り」


 シーリンの細い指がこれまでに回った場所を順繰りになぞっていき、最終的に河沿いから少し離れた丘陵地帯で一度止まる。


「ここから河沿いに半日ほど南下すると街があります。この街にある橋がこの辺りで最も近い。明日の午後までに河を渡って対岸へ行きたいと考えています」


「ってことは、これ以上もう南には行かない?」


「はい。そのままギルド・シティを目指して北上していけば、生育域をあと4つほど経由できます」


 そう言いながらシーリンの示した地図には、河を挟んだ対岸側の街道に沿って3か所の生育息を示す印がある。


「確かに、ここまでに集められた量を考えれば、数としては十分か」


「そう考えています。各生育域で採集をしながら進んでいけば、おおよそ二日後にはギルド・シティ付近まで戻ってこれます」


「ーーーそうしたら大橋を渡って任務完了、ってところだね」


「フォルテ」


「や、片付けも終わっちゃったからね。途中から聞いてたんだ」


 そう言ってフォルテ、ベラ、ミツキの三人もメルたちの輪へと加わってくる。


「とりあえず任務の達成は問題なさそうで安心したよ」


「フォルテたちが手伝ってくれたからだよ。私たちだけじゃ必要な量を集めて、運んでってするためにたぶん何度も街と森を行き来しないといけなかったと思うし」 


 ローウェンから求められた量の薬を作るのに必要なヤナギの枝はおおよそ背負いかごだけでも5つにも上る。メル、エイリーク、シーリンにニーナとデールを加えても、かごを背負っただけでそれ以上の荷物は持てなくなってしまう。

 その点、魔猫であるフラットを含めたフォルテたちが加わってくれたおかげで十分に余裕のある装備で採集に臨むことができた。


「そんなに大げさにしなくても大丈夫だよ。ボクたちだってきちんと報酬をもらって協力するんだしね」


「それはそうかもだけど…」


 今回の任務への協力自体はフォルテらから打診されたものだったが、さすがにタダでというわけにはいかないとして、最終的にローウェンから支払われる報酬の半分を渡すというところに落ち着いている。(当初はフォルテらに報酬を受け取る意思はなかった。)

 材料の採集に目途がついたことで、それに続く課題が自然と頭をもたげる。


「ひとまず必要な量の素材が集まる見通しは立ちましたね。その加工も道中と、帰ってからやっていくのですから、これで概ねやるべきことは終わらせられそうですわね」


 調薬の技能を持つベラが順々に指を立てながら作成の工程をなぞっていき、安心した様子でその手を握る。

 とーーー


「ーーーいえ、まだ大事な工程が残っていますよね」


「お…おう、お前も聞いてたのかよ…」


 唐突な声と共に入ってきたデールに気づかぬ間に彼が背後に来ていたエイリークがわずかに肩を跳ねさせる。


「調薬はどうするんですか? 場所も道具も、ちょっとした物であればあるいは皆さんも持っているのかもしれませんが、今回のように数と品質を求められるような条件では対応しきれないと思うんですが」


「あ、それならーーー」


 メルはそういえば彼に伝えていなかったと思い出す。


「実はちょっと心当たりがあるんです。戻ったら、一緒に行きましょう」



          ☆



 採集の小遠征を終えて一週間。薬の素材を含め諸々の準備を終えたメルたち一行はギルド・シティの中心街にやってきていた。

 通りに向けて開いた店々からの活気に溢れた喧騒の中を進んでいた一行はやがて、その並びにある店の一つで足を止めた。


「ここは…」


 小さく口を開いたデールの横を抜けてメルが店の戸を叩く。

 するとすぐに扉が開き、中から白い薬師割烹を着た壮年の女性が現れた。


「来たね! 待ってたよメル」


「はい! 今日はよろしくお願いします、フーさん!」


 元気に頭を下げるメルを見て気前よく笑ったその女性は、それからメルの後ろに並ぶ面々へと向き直る。


「知らない顔もあるし、簡単に自己紹介をしておくよ。アタシはフゥリン。いつもは旦那と一緒にここで薬屋をやってるんだけど、今日はこの子からの依頼で薬の作り方を教える老師(せんせい)もやらせてもらう。よろしくね!」 


 張りと元気に満ちた声でそう名乗ったのだった。


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