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時空の闇 (ふたつの星シリーズ スピンオフ)  作者: 慧ノ砥 緒研音


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第5話 白銀の剣


 乾いた音と共に、美しい陶器のような人工皮膚にひびが入る。剥がれ落ちた皮膚の下から覗いたのは、温かな血肉などではない、冷たく無機質な銀色の金属骨格だった。


 ヘカテー・クトニアの顔面は、もはやかつての親友の面影を完全に失っていた。ひび割れた隙間からは精緻な電子部品が点滅し、紫色の人工眼球レンズが、カレンをギロリと睨みつける。


 だが、カレンは一切の容赦をしなかった。艶やかな黒いエナメルのバニーガール姿のまま、両手に握った未来型ブラスターの銃口を向け、紫電の光弾を雨あられと撃ち込み続ける。

 激しい閃光がVIPルームを照らし出し、ヘカテーは丸い大きな柱の影に隠れた。弾幕は柱をつつみ込み、完全に動きを封じ込めた。


 その隙に、カレンはブラスターの射撃をしながら、自らの頭に装着していたウサギの耳――バニーカチューシャへと手を伸ばした。

 カチューシャを引き外した瞬間、ただの飾りに見えたそれは眩い紫の光を放ち始めた。細かなパーツが空中で展開し、巨大な紫のクリスタルとなって膨大な魔力の奔流を生み出す。


 カレンの目の前に、幾何学的な模様を描く黄金の魔法陣が浮かび上がった。

 彼女がその光の輪の中心へ迷いなく腕を差し込むと、古代のルーン文字が刀身に刻まれた、神々しい光を放つ一振りの剣が引き抜かれた。


 カレンは両手で剣を高く掲げると、大理石の床へ向けて渾身の力で突き立てた。


 ――ガァァァンッ!!


 剣先から白と金の稲妻が爆発的に広がり、床面を這うように駆け巡る。凄まじい雷光が空間の分子を書き換え、部屋全体を光の渦が包み込んだ。


 そして、その眩い光の柱の中から、一人の女性が静かに立ち上がった。

 魔力の鎖から完全に解放されたソフィア。彼女の身体は、真紅とピンクの燐光を放つ流線型のサイバーアーマーに包まれていた。左目には戦況を解析するホログラムのレンズが輝き、全身から圧倒的なエネルギーのオーラが立ち昇っている。


 絶体絶命の危機を脱し、本来の力を取り戻したソフィア。彼女は、力強く自分を助け出してくれたカレンへ視線を向けると、フッと余裕のある笑みを浮かべた。

「ありがと……カレン」


 次の瞬間、VIPルームの奥に鎮座していた重厚なガラス扉が勢いよく開け放たれた。

 立ち込めるスモークの中から姿を現したのは、黒いレザーのスーツに身を包み、首に太いゴールドのチェーンを提げた屈強な男たちの群れだった。全員が異様な黒いマスクで顔を覆っており、足並みを揃えて無言のまま迫り来るその姿は、まるで死神の軍勢のようだった。


 だが、その圧倒的な威圧感を前にしても、艶やかな黒いバニーガール衣装に身を包んだカレンの表情に焦りはなかった。

 彼女は背後から迫る黒服の群れを一瞥すると、肩越しに振り返って愛らしく声を張り上げた。


「ソフィア大丈夫? 追加オーダーが入ったわ! こっちは私に任せて!」


 魔力の鎖から解放され、真紅とピンクの燐光を放つサイバーアーマーを纏ったソフィアは、鋭い視線を前方の敵から外すことなく、力強く応える。


「大丈夫! カレン! そっちのお客様はお願い!」


 姉の頼もしい声を聞き届けると、カレンはフッと口角を上げ、迫り来る黒服たちへブラスターを撃ち放つ。

 その背中の後ろで、彼女のしなやかな手が密かに動く。カレンはバニーガールスタイルの腰にある白い綿毛の尻尾を外すと扉に向かって投げ放った。

 黒大理石の床にネオンの光を浴びながら、白い綿毛の球体は真っ直ぐに黒服たちの足元へと転がっていく。男たちがその小さな異物に気づき、歩みを止めた瞬間だった。


 激しい爆発音が退廃した空間を揺るがし、紅蓮の炎が猛烈な勢いで吹き荒れた。

 爆炎と黒煙が男たちを一瞬にして飲み込み、VIPルームの回廊は灼熱の炎に包まれる。

 黒服の男達も、真の姿が露わになった。

 焼け焦げた人工皮膚の下から銀色のメカニカルな精密な機器が姿を現す。


 カレンは、VIPルームの入り口で微動だにせず立っていた。

 彼女の纏う黒いコルセットに、突如として黄金の光のラインが幾何学的な模様を描いて浮かび上がる。古代のオーバーテクノロジーによる分子再構築のシールドが、彼女の身体を熱波と衝撃から完全に守り抜いていたのだ。闇夜に浮かぶ月の女神のように美しく、そして冷徹な輝きだった。


 ※ ※ ※


 一方、VIPルーム奥。丸い柱の影から煙を切り裂いて現れたのは、バイオレットの長髪をなびかせた異形の姿だった。剥がれ落ちた顔の半分を紫色のサイバネティクスが露出し、背中には鋭い紫水晶(アメジスト)の機械翼が広がっている。

 女が手にした禍々しい紫の結晶杖から、バチバチと紫電がほとばしる。次の瞬間、杖の先端から古代のルーン文字が刻まれた巨大な光刃が展開し、空間そのものを切り裂くような処刑の剣へと姿を変えた。


 圧倒的な絶望の化身を前にしても、ソフィアのピンクのホログラムバイザーの奥で光る瞳も、決して揺らぐことはなかった。

 彼女は静かに振り返り、真の姿を現した深淵の闇へと正面から対峙する。


 静寂を切り裂くように、ソフィアの胸元で古代の機構が脈打った。

 彼女が背中に手を伸ばすと、空間そのものが共鳴し、眩い白銀の光刃を持ったエナジーソードが顕現(けんげん)する。

 リュミエール王国に代々伝わる、暁光(ぎょうこう)の剣……

 真紅とピンクの燐光を放つサイバーアーマーに包まれた彼女の瞳には、一切の迷いはない。ソフィアは決意を込めて光の剣を構え、迫り来る闇へとその切っ先を向けた。


 ※ ※ ※


 一方、バニーガールスタイルからパワードスーツにトランスフォームしたカレン。天空にそびえる摩天楼のVIPルームでは、壮絶な死闘が繰り広げられていた。

 艶やかなパワードスーツのマントを翻(ひるがえ)し、彼女は押し寄せる黒服型アンドロイドが握る刀を、耿月(こうげつ)の剣で叩き斬る。剣を握りながら鋭いハイキックで男の顎を撃ち抜ったかと思うと、流れるような身のこなしで敵の刀を紙一重でかわす。


 窓の外には、紫色のネオンが煌めくメガロポリスの夜景が広がっていた。

 カレンは迫る大柄な男の腕を掴むと、その勢いを利用して背負い投げを放つ。カレンのパワードスーツの胸部のレーダーメーターが金色に瞬く。轟音と共に分厚い強化ガラスが粉々に砕け散り、アンドロイドの黒服は無数のガラス片と共に、煌めく夜の深淵へと真っ逆さまに落下していった。

 割れた窓から吹き込む夜風がカレンの金糸の髪を揺らすが、彼女は冷徹な視線を残る敵へと向ける。


※ ※ ※


 場所は変わり、荘厳なステンドグラスが輝く古代の大聖堂。

 ついにソフィアと、紫水晶の機械翼を持つ異形の魔女、ヘカテー・クトニアが激突した。

 ヘカテーが振るう禍々しい紫電の光刃と、ソフィアの白銀の光刃が交差する。


「はああああっ!」

 二人の剣がぶつかり合った瞬間、鼓膜を破るような斬撃音が轟き、圧倒的なエネルギーの余波が堂内を吹き荒れた。

 紫と白銀、二つの相反する光の奔流が火花を散らしながら激しく拮抗する。互いの信念と星の命運を懸けた、瞬きすら許されない死闘が、今まさに幕を開けたのだった。



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― 新着の感想 ―
圧倒的な映像美と疾走感に満ちた一話でした。人工皮膚が砕け、その下から銀色の金属骨格が露わになる冒頭から、一気に物語へ引き込まれます。特に印象的だったのは、カレンのバニーガール衣装そのものが武装として機…
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