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照れてんじゃねえよ


「ちょ、まじ空気読めって普通に無理だから!」

「何が無理なもんですかあああ絶対に協力しても来ますからねええ」

「顔こえーよ」


ぎゃああ。城での舞踏会から、一週間後。随分と賑やかな声が、姫華の住む屋敷に響いた。

きっかけは、街にばら撒かれた号外である。


「王子が嫁取りするらしいのよお‼︎」

「いや嫁取りって言い方やば」

「何呑気に言ってんのよ⁉︎ この紙をよく見なさい‼︎ 審査は事前準備されたガラスの靴に足のサイズが合うかだって‼︎ どうしよう合わなかったら‼︎」

「やすりで踵削れば」

「髪の毛いじりながら適当なこと言わないでよお‼︎」


あーあ。姫華の内心は、ついにきたか。の、一言である。ガラスの靴、心当たりしかない。大きなため息を吐くと、いろめき立つ姉たちを白い目で見た。

しかし当然、運命というのは待ってくれないものである。遠くから聞こえてくる仰々しい音に気がつくと、姫華は小走りで納屋の中に隠れた。


「いーのかい姫華、姉さん方の協力しないでさ」

「ドワーー‼︎」

「いや声でっか」


納屋の中に響き渡る姫華の声の原因は、ごっちゃんその人であった。慌てて振り向けば、牧草から上半身を生やしている。その頭の上には見覚えのあるキンクマハムスターが乗っかっており、相棒のように振る舞っていた。


「ごっちゃんまじで空気読めし! 普通の登場してみろよ一回くらいはさ」

「普通の登場したら宗教勧誘のババアだと勘違いしてましたよねえ⁉︎」


姫華は目を逸らした。


「いや一回話聞こ。あれ、どっかで聞いたことあるセリフ……まあいいや、一応このままひねくれシンデレラ演じられると、姫華がこの世界の特異点にしかならんからさ〜」

ごっちゃんはそういうと、「一応俺も仕事なんでね」と付け加える。仕事を引き合いに出されると、どうしようもない。姫華は仕方なく牧草の上に腰掛ける。

「お、ようやく聞く気になりますかい」

「だから何度も言うけど姫華は結婚したくないわけ。したくないのに結婚して他人の婚期奪うのは違うっしょ」

「平成ギャル、さすが一本筋通ってんなオイ」


関心したように拍手をするごっちゃんに、姫華はふんすとどや顔をした。

王子の来訪を告げる音楽は、やがてこの屋敷の前で止まってしまった。いよいよ時間がない。決断の時は差し迫っているのだ。

おそらく、時間稼ぎは」姉二人が上手いことやるだろう。姫華は“不本意だ”という態度を崩さず、足を組み直す。

それを了承と取ったのだろう。ごっちゃんはおほんと咳払いを一つすると、早速【報告書】と書かれた紙を懐から取り出した。


「んー。まああのあとね、一応俺なりに調べてみたわけよ。王子のこと」

「あんだよ、確定申告できんのかよ。話はそれからだよ」

「だからお前の好感度の基準おかしいんだって。あーもう、つまりね、まあ、王子にも色々事情があるみたいよ? ほら、王族って庶民が思うより窮屈っしょ?」

「それはそう」

「ね? つまりさ、今回のこの大規模な舞踏会も、どうやら理由があったみたいなのよねん」


ホーン。姫華は気のない返事をした。

しかし王子が嫌いというわけでは決してない。

ただ、面倒臭い結婚をするのはごめんだというのが、シンプルな理由だった。

ごっちゃんは、もしかしたらそれを知った上でこの話をしたのかもしれない。報告書と記載された真相。それは、王子による小さな反抗期だった。


「あ〜〜⁉︎」

「だからね、いい年こいてお見合い結婚はやだったんだって。つまり嫁取りは最初から、あの舞踏会で始まってたんだよ。だーからこの話を聞きつけた貴族のお嬢さん方がいろめきだってたってこと」

「お見合い結婚って王族の義務じゃねえのかよ〜‼︎」

「あーそれ偏見ですから。王族だって自由恋愛を謳歌していいはずだろ?」

「そこは謝るけどさああ、でもだからって女呼びつけて選ぶってスタンスが気に食わないんだけど。オーディションかよ」

「よく考えてみ? 王族が庶民と同じ考えでいられると思うか‼︎ 正気なら白タイツ履くのがかっこいいとか思わねえだろ!」

「王子は白いタイツ履いてねーよお前も偏見じゃねえか!」


二人の言い合いは小気味よく交わされたが、こうなるとキリがないこともわかってきた。お互い肩で呼吸をして息を整える。

姫華は黙りこくる。ほんの数秒程度の逡巡は、一つの気づきを与えるには十分な時間だった。


「あ、待って? つうことは王子も結婚に必死ってこと? だってあれだよね、親の用意した結婚相手は嫌なんだよね? てことはシンプルに同盟組めるくね?」

「同盟?」

「契約結婚的な?」

「おいおいおいおい急にラノベ見たくなるじゃねーか見たくねえよ俺そんな結婚」

「三十路で結婚できずメンヘラダメ男に殺される以外で怖いもんあんの?」

「俺そのレスバトル勝てる見込みないね?」


もしかしたら、それは一つの光明なのかもしれない。姫華が目を輝かせ、やる気スイッチをしっかりと押し込んだその時、納屋へと近づく足音が聞こえた。


「おぅっっっっ」

「あら、あんたこんなところにいたの。ちょっと王子待たせてないで、早くきなさい」

「それワンチャンパスよろしですか?」

「よろしいわけないでしょ。ほら行くわよ」

「あああああ結構力強いいい」


継母によってはがいじめにされた姫華が、ずるずると納屋の外へと連れて行かれる。姫華の中で、面倒臭いが前面に出ている以上、ノリを合わせて仲良くお見合いなんて到底できる気がしない。

何よりも、姫華が投げつけたガラスの靴を頼りに、猟犬の如く鋭い嗅覚でこの家までたどり着いたというのだから恐ろしい。

その事実は、メンヘラ男との恋愛経験を持つ姫華を震撼させた。シンプルに。


「シンプルに無理なんだけどおおおお」

「すみませんこの子シャイガールで‼︎」


継母が勢いよく姫華を放り投げた。高貴な王子の前で、まるで河川工事に使われる土嚢の如し扱いを受けるとは思わなかった。

内心、「王子の覚えをめでたくしたいんじゃないのか。これは確実に別の方向での覚えをめでたくしている」と、姫華は転がりながら思った。


「うわあああ‼︎」

「むむ、っちょっと失礼いたしまする‼︎」


うつ伏せに静止した姫華の足を前に、冗談のような作画の従者が唐突にモノクルを光らせる。

一体何が起きたのか未だ理解していない王子よりも、従者の方が切り替えは早いらしい。姫華が起き上がるよりも先に、ガラスの靴を従者の手ではかされる。

ドレスの裾くらいなら持ち上げても良いかなと思っていた姫華は、思わず絶句した。


「流れ変わってんじゃん⁉︎」

「いやそれお前がいうんかい!」

「はっ!」


姫華の声に、薮から顔を出したゴッちゃんのツッコミがすかさず飛んできた。しかし身のこなしの速さは実に目を見張るものがあり、ゴッちゃんは王子が背後を振り向く前に姿を藪の中へ戻す。


「い、今の声は……天啓?」

「頭ん中どうなってんだよお前まじで」

「小鳥の囀りですわ、王子」

「囀ってレベルじゃなかったよねえママぴ⁉︎」


一体どうなってやがる。姫華の内心は、まさしくこれであった。手錠をかけられる犯人の気持ちが少しだけわかった気がする。姫華の場合、手錠の代わりにガラスの靴。お縄につくのではなく、王子様からの求婚コースだが。


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