第6話 篠宮邸にて 後編
「アレで、ひとっ飛びだよね!!」
――25分後 篠宮邸
「こ、こんにちは〜アナタが篠宮エミナちゃん?
私は美鴨サキだよ〜突然、お邪魔してゴメンネ!」
「新岡イマです、宜しくね……お姉さんのエミィからエミナちゃんの事はよく聞いていたわ……」
大豪邸の一室に圧倒されながら
一行は篠宮エミィの誘導のままに歩いて行った。
「うわぁ〜!エミィお姉様!
彼女達が“新入部員”さんなのね!」
絢爛な部屋に2人が入ると
エミナは来客人に目を輝き出して
興奮と喜びを剥き出しにした。
「ええ、まあ新入部員よ……“大大親友”……よ
なんか今日、たまたま予定があってね」
少し照れ臭そうに、また棒読みに言い放つ
エミィであった。
――
「あの!サキさんはアイドルさん
どなたがお好きなんですか?」
エミナはワクワクと高級感の漂うソファに
足を浮かせて、左右に揺らしていた。
その隣にエミナと同等かそれ以上に
テンションが上がっていたのは美鴨サキである。
「えと〜私はずっと前から
立花藍ちゃんが好きでね!」
「えっ!立花藍ちゃんと言えば……『危険な偶像』で、あの“仮面の天才”黒羽三葉さんの第一人者でもあり正に伝説の第一人者じゃないですか、って事はサキちゃんは――――――――――」
エミナは高速に、饒舌に言葉を並べ出すと
「そうそう!『危険な偶像』は私のお姉ちゃんがライブに連れ出してくれた事がキッカケなんだけど
その時見た、ライブって今DVDはネットオークションでプレミアム価格になっていてね!――――」
その更に高速でサキは饒舌に言葉を並べ出す。
彼女達、サキとエミナが
そこまでテンション上がっているのは
2人揃って理由は
“アイドルについて話し合える仲間“が
増えたからだ。
その会話のやり取りを、遠くから眺めていた
篠宮エミィ、新岡イマ。
「あの子、相当な通ですね……」
「まあ年がら年中、アイドルの事しか
考えていない様な子だから」
エミィがティーポットから注いだ紅茶。
その香りがイマの鼻に入ってくる。
「輪に……入りたい」
そう呟くイマ。
だが、そんな事よりも
自身が如何に違和感なく2人の
トークに混ざれるかの方法を考えていた。
「申し訳ないわね……ただ
どうしてもアナタと話しておきたくて」
「いえ……ご心配なく……後ほど、ゆっくりと
エミナさんと、お話させてもらいます。
逆に申し訳ないです、急にサキが言い出して」
「あ、あぁ……それは問題ないわ
エミナも会いたがってたし
直ぐにでも会いたいと言う具合ですし……
本当にありがとう2人とも」
優雅にエミィは紅茶を口に運ぶ。
その所作はまるで、何処かの国の王女その物。
エミィは若干の躊躇いを見せつつも
「……アナタ方に謝罪をしたのは
本心って事をキチンと伝えておきたくて」
「ええ、理解しています」
イマがティーカップに指をかけて
口元に持ってきた。
「同じく『Girls Storys』に挑むものとして
エミィはただ、自分の価値観、アイドル像にそぐわなかったアナタ方を叱咤してしまったわ」
「ただ、考えは変わったんですよね……
サキの一言があって」
静かにティーカップを受け皿に乗せ
穏やかに言葉を紡ぐイマであった。
「ええ……傷をつけてしまった事には変わりない事です……本当にごめんなさい……」
今一度、イマに謝罪を誠心誠意する。
数秒の沈黙を続けると
エミィは話に熱中している妹のエミナとサキを
じっと、一瞥する。
「エミナは私がアイドルを目指す目的そのもの……
あの時アナタ方に言い放った言葉を彼女が聞いたら
酷く失望するでしょう……ホントに情けないわ」
イマは感じていた。篠宮エミィには
自分達とは違う理由で『Girls Storys』を
受ける力強い意志を持っていると。
されど価値観の違い。
食い違いはあれど
エミィ側の、ましてや互いの意気消沈や
罪滅ぼしは当然、イマ達は望んではいなかった。
――ただ、正攻法としての見返しや謝罪のみが事態を、綺麗に収めてくれる事を願っていたのだ。
「はあ、辛気臭いですね」
イマが忽ち、目を細め、ため息を吐く。
「謝罪は既に全員に済んだ筈ですよ……
アタシも含めて2人は怨嗟する人間ではないので
安心してください、エミィさん」
それは単なるマイナスな物ではなく
気持ちの切り替えとしての行動である事
エミィは雰囲気で感じ取った。
「……カコについては安心して下さい
彼女は誰より繊細ですが
誰より伸び代のある方ですし……優しい人です」
エミィは見据えた。イマの冷静たる所以を。
「後は、サキの言う通り
どう接していくか、変化していくかですよ」
「ええ……」
それは彼女の言葉の節々から感じる
“現状”というリアルを常に俯瞰で見る事が
出来る、目利きのノウハウがあるからだと。
「これも“一期一会”です。
停滞している暇があれば、せめて前を向ける
言葉を吐いてみてください……」
気持ち少し、穏やかな物腰の彼女に
エミィは確かな安堵を覚えると、一言。
「そ、それ……なら、エミィ…………と……」
篠宮エミィは喉に出掛けた、言葉を飲み込んだ。
――何故なら
「エミィお姉様〜おやつの時間にしましょう!」
「美味しいの下さ〜い」
妹のエミナと美鴨サキがやってきたからだ
「え、ええ、そうしましょうか……」
出かかった言葉は喉の奥に吸い寄せられていき
放つ機会を失ってしまったのだが
彼女の心には、確かな一つの提案があった。
――その時
「……アタシは
『一期一会、その瞬間の人々を大切にする』
そんなアイドルを目指します」
イマが突飛に言葉を並べる。
サキ、エミナは急な宣言に口を開けた。
「これが、新岡イマのステップ1の答えです。
同時にアタシはステップ2の自分探しも
達成したとして……」
サキが、意味を咀嚼する間に
次々と投入されていく
彼女は至って真剣に、そして淡々と
告げると、ポケットからスマホを取り出し
天井高く、自身の手いっぱいに掲げると
「『Girls Storys』に挑戦いたします……」
――高らかに宣言をした。
「へ……ほぇ〜!?」
サキが気にせず大声を出した。
続けてエミナも歓喜を挙げた。
「す、素敵です新岡イマさん……やはり!
お姉様と同じく『Girls Storys』に挑むのですね」
「当然です……何せエミィさんの
“親友”ですから」
エミィはドキッとしながらも
「ええ、そうよね!」と咄嗟に二つ返事。
するとサキがイマに近寄り
耳打ちする様に尋ねる
「ねぇねえ、イマ〜急になんで?」
「別に対した訳ではないです……
ただ、自然とピースが埋まっていったので」
「本当は前々から考え付いてたんじゃないの〜……それにカコがいない時に“終わった!”
って言うのもおかしな話だよ〜」
サキは少し憂いた表情。
彼女にとっていつもの3人が同じ場に集まって
ゆっくり、じっくりと0次審査が
進む物だと思っていたから余計に。
「単純な話、サキもカコも……
既にステップ2の回答は思い知ってますよ
つまり、それほど難しい話ではないと言う事です」
イマが何事もなかった様に
その場に座ると、ティーカップを持ち
一口、ゆっくり紅茶を飲み込んだ。
「後は、気づけるか、思い出せるかの問題です」
「んんー、そんな事、言ってもね〜」
――――――櫟木カコ自宅 喫茶店「ウッドッペ」
カランコロンとドアベルが場に渡る。
木製造りで落ち着いた雰囲気と匂いが店の売りだ。
「ただいま……」
店内には客は誰1人、おらず。
カウンターにはマスターである櫟木カコの父親が
大きく構えており、グラスを拭いていた。
「おかえり、カコ……」
父親は帰ってくる娘を横目に見ると
低音の柔らかな声で伝える。
「浮かない顔だな……」
肩幅があり、身長も高い父親。
普段は寡黙でありながら店を経営する。
その年輪を重ねた瞳で人の心を観察する。
「どうだ……父さんのコーヒー呑むか?」
カコは、うん、と頷いて。
カウンター席に何も言わずに座った。
それからは父親が、慣れた手付きで丁寧に
コーヒーを淹れていく。
その間の両者の会話も無しに
ただ場は店内BGMのサックスの落ち着いた音色が
印象的なジャズミュージックが席巻する。
「ほれ……お待ちどう様」
カコの俯むいた視線にコーヒーが導入される。
そのコーヒーの香りが、温度が頬を揺らす。
「ありがと……お父さん」
カップを手に取ると
息を吹きかけて冷ますこともせずに
そのままの温度で、一度、口を満たす。
「1週間前だったかな……カコが涙跡を付けて
家に帰ってきた時、俺は正直、驚いた……
心配もした……」
カコの父親が後片付けをしながら
まるで映画のワンシーンの様に語り始めた。
「でも、お父さんは……
その時、何も言わなかったね」
「あぁ何も言わない方が、いいのだろうと
そう、判断したからな……でも今日は違うな」
カコはコーヒーの水面に移った自分の顔に
視線を落とした。
「俺は人生の神様でも、設計者でもないが……
これだけは言える、抱え込むのはよくないってな」
その瞬間、カコの何かが――殻が割れた様に
涙を流し始めた
その1雫がコーヒーの中にポチャッと落ちると
続けて2つ、3つと落ちていった。
「ワタシ……ワタシ、何も向いてないのかな……
許せないのは、悔しいのはワタシが未熟だから?」
父親は、カコの隣の席に座り
何も言わずに背中を摩った。
「……もう、このまま……
皆んなに置いて行かれちゃうのかな……
ワタシって…………必要なのかな……」
店内に親子2人。
店内BGMに混じりなから聞こえる。
葛藤に、後悔……そして不安。
それらが合わさった、鼻啜りと嗚咽。
――今はただ、泣きじゃくる。
次回更新は明日20時!
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