第6話 篠宮邸にて 前編
篠宮家は3代にも続く大手ホテル
『シノミヤグループ』のオーナー、一族。
所謂、エミィは令嬢である。
「んへ!!お金持ちってこと!!」
サキが声を大にして放って、直ぐに
口を手で自分の口を押さえた。
「まあ、そうね……」
「だから、高級そうな車から来たんだ〜」
サキはエミィの頷きを得て、納得した。
イマはというと表情一つ変えずに
肘を机に付け両手を組んだまま。
「何故、その様な一族の人間がアタシ達が通う
一般的な県立高校に通ってるんですか?」
エミィは鋭いイマを一瞥し、唾を飲み込む。
「そうね、まあ、単に親の教育方針なだけよ
“市民の生活や営みを知ってこそ需要と供給は真に分かる”なんて言ってたかしら」
嫌味ではない、皮肉でも。
それは純粋で確かな物であった。
「今から10年前かしらアイドルという存在を
知ったのは……7歳の頃よ」
――――――――約10年前。
当時、エミィは年長児。
「エミィお姉様〜!お姉様〜!
この絵本読んでー!」
篠宮エミナ(5)とはその時から
その前から仲良かった。
仕事で忙しい両親との時間を埋める様に
2人で一緒に遊んだり、勉強する時間
そんな時間が楽しくて、大好きだった。
――“それは”ある日、エミィが適当にテレビを付けて
2人で魅入った音楽番組がキッカケだ……
「これって……どんな人?」
「さあ、分からないわ……」
初めて目にした音楽番組。
その時に見たのは“綾瀬ツムギ”という昭和を代表するアイドル歌手のプレイバック番組であった。
テレビは基本的に固定でニュースばかりで
両親しか興味があらず、子供の2人には尚更。
リモコンを許可されたのは最近で、
エミィが7歳の誕生日を迎えてからのこと
その反動からかTVショーと言うのに
興味を持ち始めたエミィであった。
「お父様……テレビの中に行ってみたい……」
両親は突然な事に驚きながらも、耳を傾けた。
父は知り合いの伝手を辿ってテレビ番組の収録現場に特別に許可を得て姉妹を連れて行く。
「いいかい、収録中は静かにだ……
皆んなプロ。バラエティでも何でも
視聴者の需要に応える為に全力さ」
父親の、その言葉は今でもエミィの頭の中で
鮮明に反響している。
実際、その時の番組収録はエミィにもエミナにも
強烈な印象を植え付けた。
司会アナウンサーやタレント、芸人にアイドル。
それぞれ別々にプロとしての行動であり
番組を楽しく面白くする為なのは子供目線でも分かる。
そんなプロフェッショナルを感じる程にキラキラと
眩しく思えたのだ。
番組収録の後、2人は息を揃えて
「ああいう、仕事をしたい!」と父親に打ち明ける
またしても父親は困惑しつつ、その場では肯定も否定もせずに終わり、それから
――9年が経った。
エミィは中学3年。
これまで何事もなく過ごしてきた。
ただ、しっかりとした将来を考えれず
両親の家業を手伝う人生になるのかと考えていた。
別にそれが悪い気はしないし
光栄なことでもある事はエミィは理解していた。
ただ、何か物足りなさと
“此処じゃない”そんな気持ちが
彼女の中で蠢いていた。
「お姉様、お姉様!知ってた?
日本には、私達の中学校にない部活があるの!」
ある日、エミナが目を輝かせて言い出した。
エミナとの日々は、あの日から怖いほどに
変わっていなかった。
「まあ……当然、あるでしょうね」
唯一の理解者のエミィに甘えるエミナ。
同じく唯一の理解者のエミナに支えられるエミィ。
9年前のあの時から2人は揃って隠れたドルオタであった物の、両親は寛容であった。
「ほらほら、見て!」
彼女が見せたのはスマホの画面で
そこに表示されていたのは“アイドル研究部”と
学校の教室札に書かれていた、
ただ、それはアニメの一場面を切り取った物だ。
「あぁ……そうね……」
エミナの純粋無垢さは、一級品だ。
実際そんな部活など稀であり
キラキラした物ではない。
「私も、別の学校だったらこういう活動とか……
同じ好きな事を話し合える人がいたのかなあ
高校だったらあるかなあ……」
エミナは元々、芸能界志望であったのだが
親は「それはもっと先になってから考えよう。」
そんな封じをして先送りにしていた。
「もう、既にいるでしょう?」
「え?」
「エミィが“アイドル研究部”第一号でしょ?」
エミィとエミナは9年前、
“綾瀬ツムギ”の推し活をしていた。
その勢いは凄まじく、半年で推しアイドルの
グッズ、出演テレビやライブDVD。
CD、アルバム、写真集。
「で、でも……」
その時までに販売された種類を全て
買い集めてコレクションするほどだ。
「部活って最低3人か5人いないと
成り立たないのが……多いんだって……」
コレクション等は確かにエミナの行動力と
産まれながらの富のお陰であった。
「なら、エミィが見つけてあげる……」
「え?エミィお姉様……が?」
現在、エミナは多種多様な色々なアイドルを
リサーチしては推して、を繰り返し
部屋はごった返しになっていた。
「そう、必ず……“新入部員”を……それでいい?」
彼女はエミナの肩に手を置いて
ソファの隣にドスンと座る。
「ホント!?」
「えぇ……中学や高校に、それが無くても
エミィ達がこうやって、作ればいいのよ」
エミナは両手を顔に当てると同時にエミィの寛大さ
または温かな優しさを実感する。
――――――現在
少しの場の成り行きと
エミナの想いが重なり、現在に至る。
「……なるほど、それがエミィさんの
キッカケですか」
イマがポーズをやっと崩して、相槌をした。
「エミィちゃんの妹ちゃん、かなりの子だ!
こりゃあ、話し合いそうー」
「他にも色々とあるけれど……大雑把にね」
エミィは抱え込んでいたものを放出したからか
気持ち少し楽になっていた。
「それで、約束は守れたんですか?
話からして1年、2年経ちますよね?」
口を噤んだまま、動揺を隠せずに
エミィは肩をビクッとさせていた。
「え!うそ、まだエミナちゃんに誰も?」
サキが彼女の反応に違和感を覚え、尋ねると
エミィは、深く固まったまま、頭を縦に下げた。
「まだ……エミナには誰にも……会わせていない
し……エミナには本当の事も話せていないの……」
イマは呆れた吐息が彼女の目に映る。
「差し詰めアイドル研究部なんてのも
アタシ達の高校に存在しないという事は
妹さんには伝わってなさそうですね」
「え、ええ……」
彼女は更に声を落とし、罪悪感がのしかかる。
「はあ、エミィさん……薄々感じていましたが
アナタって不器用な人ですよね」
イマが追い討ちをかける様にグサッと刺した。
尽かさず、言葉を詰まらせながら
「そ、そんなのエミィだって……分かってるわよ……
ただエミィだって自分なりに探したわ……
でも案外、話が分かる人って少ないのよね」
「じゃあさ!!」
サキが元気に、その場に立ち上がると
2人は反射で見上げる。
「今から、会いに行こう!エミナちゃんに!」
エミィが、目を見開きながら
頭の中で言葉の意味を何度も噛み砕いた。
「え、……へえ?」
サキは公園の近くに止まっている
目立つ真っ黒な車を指差して
「アレで、ひとっ飛びだよね!!」
――25分後 篠宮邸
次回更新は明日20時!
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