第41話 音楽の女神アテナ①
――8月20日 東音楽堂
「僕ね、君が“音楽的に好きだ”」
アテナが告白して、忽ちサキはポカンと口を開ける。
「君からは君じゃない君の個性が光ってみえるんだ」
アテナは鍵盤に置いていた手を自分の胸へと運ぶ。
何を言われるか戸惑っていたサキだったが、静かに耳を傾ける。
「それは、模倣でも限りなく本物に近い模倣。僕は際限のない努力を君に感じるよ」
「凄いね、そう言ってくれて嬉しい‥‥けど実際に私のパフォーマンス‥‥アテナに見せたっけ?」
銀髪を揺らして、彼女は微笑んだ。
それから鍵盤に手を置いて流れるままに奏でた。
「ううん、見たことない‥‥だから楽しみなんだ“三つ巴決戦”」
奏でながら、呑気に放つアテナ。
サキは生き物を愛でるかの様に弾き語る彼女に魅せられると、固唾を知らぬ間に口に貯めていた。
「僕と君と、黒石アイが命を燃やすんだ‥‥これ以上ない程に僕はワクワクしているよ」
「でもドベは落選だよ、それでも‥‥アテナはワクワクできるの?」
サキは弾き語る彼女に一歩近づく。
近づくと、よりピアノの音が耳に澄み渡る。
「うん、もちろん」
「落選って‥‥アイドルから一歩遠ざかるって事だよね?アテナは――」
言い淀む彼女を横目に、アテナは動きを止める。
席を立つと彼女と目線を合わせた。
「僕は別にアイドル‥‥目指してないよ」
彼女の片目には、依然と確固たる自我を持っていた。サキはその一言にドクンと深く心臓に突き刺さった気がした。
「え‥‥?それってどういうこと?」
「言葉通りだよサキ‥‥」
動揺する、サキ。
調子を変えないアテナ。そしてサキは悟った、彼女とは相容れない存在なのではと。
「僕は楽しい事をしたいんだ‥‥閉じこもった空間で、ただピアノを弾くのなんて食傷だ――」
アテナは不意にサキの手を握る。
「でね‥‥今回の企画を知ったんだ‥‥とっっても面白そうで、楽しそうだった。だから今、ここにいる」
「‥‥じゃあアイドルとかって、あまり分からない?」
探るようにサキは質問する。
握られた手の冷たい体温を感じながら。
「うん、分からない‥‥興味も然程ないよ」
また一つ、サキの中で何かが揺れ動いた。
自分と同じ様に“アイドル”という存在に憧れて、そして目指している人間が集まる場だと思っていた。でもそれは間違いだと突きつけられる。
「曲‥‥とかも?」
あからさまにテンションが下がる彼女を不思議そうに覗くアテナは、再びピアノの向き合った。
「曲なら‥‥一度、聞けば全部解るよ」
滑らかに、慣れたように。いや元々、自分の身体の一部なのではないかと思うほどに軽やかにアテナは弾く。
弾いたのは課題曲「蝶蝶」だ。
今週は文字数めっちゃ少なくて、ごめんなさい!




