第39話 蝶
――8月3日 金曜日 18時30分頃
金曜日、つまり候補生らの歌唱・ダンス評価が行われる。ファーデンから僅か3日目でありながらも候補生らは限られた時間を使い練習を重ねる
「歌唱・ダンス共に評価方法は主に技術・表現・正確性を私ら運営側は見る――」
ファーデンの中央に構えるドームにて300人の候補生達が再び、集結する。今回はゴールデンタイムの今、この瞬間でも地上波放送されている。
「対して視聴者票は見る人にとって価値観も評価方法も、千差万別。ただし、両方で求められるのは至極シンプルや」
樽前チエは例に漏れず、ステージ上で演説する。
カメラ目線もしっかりと決めて、それから候補生達をしっかり見渡す。
「惹きつける“魅力”と圧倒的な“個性”そして強烈で刺激的で、思わず叫んでしまう様なパフォーマンス!」
カメラは樽前チエをアップで映すと、その次に候補生達を強く引きに映し出す。
視聴者からの声はSNSを介して、実況コメントや感想コメントが流れるように呟かれていく。
【#Girls Storys! 始まった!】
【#Girls Storys! dadaちゃんを王にしたい‥‥】
【金曜評価って人気投票的な感じになるのでは?#Girls Storys! 】
【関係ないけどGirls Storys! が最近の生きがい 】
誰も、彼も。そして興味のない人々も、話題性に連れられる。ネットニュースやSNSも連日の生配信から出来事やイベントを抜粋した記事が話題を集め大きくさせる。
『“千年の一度の逸材”異例の三つ巴決戦勃発!』
『シノミヤグループの令嬢に迫る王子様系候補生』
『Girls Storys!にて注目必見の人物10選!!』
但し、候補生らは世間の評価や声などを知らない。
いち早く有力情報を入手した限られた者と、1000adoreと引き換えにスマートフォンの返却を受けた一部の候補生を除いて。
Girls Storys!は正に、学校や家庭、仕事の話題の中心に至るまでの社会現象真っしぐらの一大コンテンツとして世間に広まりつつある。
いいや、熱を帯び始めたのだ――
――――8月3日 金曜評価開始から1時間 20時30頃
地上波では金曜評価300人分全員が放送されるわけでは勿論なく、事前に順番が抽選で決められる。
放送時間も残り30分を切ったところ。
「んじゃ、次はぁ新岡イマさん」
「はい」
1人あたりの評価時間は5分ほど。順番が来ればダンスか歌唱の二択を宣言し、音源が流れると淡々と開始される。
「歌唱でお願いします‥‥」
コレが、ひたすらに続く。
ただ、それだけなのに話題の火は消えない。
「鱗粉舞う花に付いたそれは永遠のフィロソフィー」
理由は単純――ここまで全ての候補生が高水準のダンス。そして歌唱を披露しているから。
「考えても考えてもしょうがないけれど」
全国から約5万人の応募者から絞り込まられた300人の精鋭なだけあるのは皆、承知。
「真実はゆっくりと姿を現す」
故に、運営側も一般視聴者層も頭を悩ませるに値する。議論も、持論も交わし合える絶好の機会。
「花道にパタパタと舞う“蝶蝶”
私が見つけたその花一つに煌めく鱗粉」
だが、しかし地上波放送も残り僅か。終盤である。
新岡イマ、今日の28人目の評価者。
「夢見心地で過ごした正午頃 みんな駆け回る花道に、その姿を大人が眺めて――」
時折コマーシャルや繋ぎで別スタジオのタレントのトーク時間が設けられているものの。
「誰も傷付かない空間が生まれる」
やはり中弛みはするもの。
「だけど蝶蝶は遠くに消えてしまうの」
地上波で評価を披露できる、その“運”だけは彼女なりに喜ぶことはできた。画面の向こうで何千と、面識のない人や家族が自分の歌を聴いてると思うと緊張もあるけれど‥‥
「空はこんなにも広いのに 小さな体で何処へ行くの?」
一番に、自分が声を出して歌を歌えている。
その事が何よりも、この場では味方であった。
「花の上には鱗粉が」
下手上手いで優劣を付けるのも野暮な“歌”という行為、今はオーディションであるから仕方のない事。
「傷つけ合う私達に彩りをつけたこと
愛の形追い求めるように
杜撰なこの心を動かして」
新岡イマは恐怖や何かしらの不得を予期していたその事柄に対して一つの答えが浮かんだ――
「今この時が大切で」
その震える手でマイクを握りしめている事。
正面には自分に対して大袈裟な程に大きく、多いカメラで確かに大人達がコチラを捉えている事。
その瞬間、一つとっても貴重で大切に思えた。
今、自分がどんな表情で歌っているのかも見当つかないけれど――
“楽しい”と“緊張”のミックスをイマは知る。
――――8月5日 ファーデン 東多目的堂
「‥‥評価の前に、ある言葉を思い出したんです“一期一会”‥‥それは確かにアタシの信条でした」
金曜評価から一夜、そしてもう一夜明けた。
結果は番組の最後でドーム内のステージ。そこに設置されたモニターで大きく一覧として表示される。
「でもそれ以外にアタシは常に模索していたんです」
大評価500adore、中評価250、小評価100、無評価。
それを前提として映像で補足された次。
金曜評価を受けた総勢243人が目を白黒させる。
「どうすれば、自分以外になれるのだろうかと‥‥でも答えは単純明快でした」
新岡イマは多目的堂に集まった、4人に告げた。
「ただ‥‥“新岡イマ”であるべき。それでした」
今日は外は雨降り、土砂降り。
だからと気分が沈んでいる訳ではないのは彼女が、いつもよりも笑顔の回数が多い事で場の全員が理解していた。
「だって、あの時‥‥これ以上ないほどに人前が楽しいと思えたんですから」
誰も口を開こうとしない。
だから淡々と口を開け続けるイマ。
――新岡イマ 金曜評価にて“小評価”判定
運営講評:技術的に無理をしている箇所が見られたた。特に高音部分。ただその弱点を認識しているのか低音域でアレンジを加える工夫が見受けられました。そこはプラスとして作用します。表現力と正確性の観点からは水準には満たない物の努力を讃えたい。
一周目金曜評価判定に負けずに、今後も磨いていってほしい。
一般視聴者講評(抜粋):楽しそうに歌っているのが分かって歌が好きな子なんだなと純粋に思いました。
高音とか裏声が無理してる気がするけれど、なりふり構わず歌っていて見た目とのギャップが良かった。
――現在
イマは、自身の胸に手を置いて。
ゆっくりと呼吸を感じると小さく呟く。
「なので、最後まで泥臭く足掻いてみてもいいかもしれませんね……」




