第27話 ヒロインの合格残り
――――8月1日 13時 ファーデン ドーム
今オーディションのジャッジマンとメンター。
樽前チエが総勢300人の目の前で演説をしている。
『まず改めて自己紹介や、私は主に裏方やら何やらをやらせてもらってたんやけど今回、縁あって私が選ばれました――厳しくみるんで宜しくな』
メインカメラは彼女を捉えつつ、他複数個のカメラはそれぞれ候補者達を映していく。
緊張・不安・躍起。その他の感情や昂りを表情や仕草から全てを映像に残そうと必死だ。
『んで、今日は初日っちゅうことやしオリエンテーションって事になってるんで、評価だとかはせえへん。せやから肩の荷を下ろしても別に構わへんで』
ドーム内を俯瞰すれば、中央にギュッと人口密度が多く300人だけでは端から端まで存分にスペースが有り余ってしまう。
『って、長ったらしく説明すんのもアレやろうから今回は最低限の事だけ。まず、君達が真っ直ぐ門を通って気付いたん思うんやけど――』
樽前チエはマイクをギュッと握りしめて、そのステージから候補生全員を見渡す。300人もいるので、その数の多さと個性さを噛み締める。
『左右に2つ“寮棟”が見えたやろ?寮は1人1人に部屋がランダムに当てられてんから、後々スタッフから貰う部屋鍵持って各自、取り敢えず待機や』
――――美鴨サキ サイド 13時38分
「んーと西棟の12号室……」
サキは荷物を忙しくなく運びながら、部屋鍵を片手で持っている。寮廊下にてそこに書かれた該当番号室を探し回りながら彷徨う。
彼女と同様な動きをする候補生も廊下に散る。
サキ程ではないが皆、不慣れ。
「あっ!」
やっと、自身に割り当てられた部屋に辿り着く事ができたサキ。間髪入れずに鍵穴に鍵を差し込む。
「よぉーし!」
ガチャリと開いた扉は、ベージュ色で柔らかな印象。
扉の先には、まず玄関扉がある。
「お邪魔しまーす……って、私の部屋か」
サキは靴を丁寧に脱ぐと
慣れない個室に、たどたどしく入室。
だが内心サキは、ワクワクとドキドキで満ち溢れているので不安は多少あれど満面の笑みだ。
「え?え?えっ!!いいのっ!?こんなん、一人暮らしじゃん!サイコーじゃん!」
部屋は1LDKの1人部屋には十分過ぎる程の様式だ。
キッチンへ赴くと食器や調理器具は完備。
洗面台・バスルームも同じく。
寝室ではフカフカのベッド。
リビングではソファと机がポツンと。
「高級ホテルじゃん!!」
サキは寝室に荷物をドサっと置き去りにして、リビングの中央でワタワタと悶えていた。
「あっ、そうだ!皆んなの部屋はどうなんだろ」
そう、思い立った瞬間、サキはスマホを貪るように探すのだがズボンのポケットにもカバンの中を探しても行方不明。
「あっ……そうか」
とうとう焦りを覚えた所、一つの事実を思い出した。
それはついさっき樽前チエの演説の頃に遡る。
『なお……皆さんのスマートフォン等は一度全てコチラの方で預からせてもらいますんで、スタッフの指示の元、保管箱の中に入れておいてや』
この発言が他の候補者から猛烈な批判と衝撃があったのをサキは今になって思い出した。
「あぁぁ!!こんな時にスマホないとかっ!!ファーデン来てから皆んなに会えてないや」
サキはソファに力なく倒れ込む。
そして玄関扉の方へ向いて、また樽前チエの演説を振り返る。
『一旦、自室に全員が入った事をスタッフが確認したら各自放送アナウンスがあるまで待機や。万が一、部屋から理由なく退出した物は即刻、脱落や』
サキは、目を閉じた。
これから自分はどこまで行けるのかなと。
果たして本当にアイドルデビューができるのかな。
そんな突如として初歩的な不安と今後が暗闇故の弱音が溢れ出てしまった。
「……大丈夫、だよね?」
母から貰ったお守りだけ、ポケットに入っていた。
それを天高く掲げてからギュッと胸の前に持ってくる。
「ん、13時50分‥‥か」
ふと部屋にデジタル時計が部屋の高い所に設置されているのに気がつくと、現在時刻を初めてここで知る。
「てか、暇〜暇〜イマとかカコなら何して待機してんだろ……ンフッ案外、私がいない事に寂しくて涙目なんじゃないかなあー」
――ピンポーンパーンポーン
どこからかに放送設備が内蔵されているのか、部屋中にその放送チャイムが鳴り響く。
『あ〜あー聞こえるかなあ〜?樽前チエだ。全候補生が自室に入室したことを確認した。今日からの1ヶ月そこが君達の生活圏内や』
サキはソファから上体を叩き起こして耳を澄ます。
『さあ、とうとう始まるで?ファーデンでの二次審査や!今日は各々ファーデン内を探索するなり部屋で静養にするんも、候補生同士で交流も自由!!』
部屋の白さが視界を鮮明にさせ、新築の香りがサキの好奇心と一緒にくすぐる。
ポケットにお守りをスッと入れ込んで呟く。
「いいね〜待ってろよっ‥‥」
胸の高鳴りを悟るなり、立ち上がると腕や、アキレス腱をしっかりとゆっくりと伸びほぐしていく。
『ただし――注意して欲しいのが、ファーデン内には数多の撮影カメラが設置されてる。後々、素材は使用されたり〜カライブ配信される予定やから――』
フローリングを靴下でススッと進むサキ。
リビングの窓越しから見えるのは芝とドームが遠くで待ち構えてるかの様だ。
ずっとずっと先の壁なんてここからじゃ見えない。
だけど悠然と外を眺めてる自分に漠然としていたサキ。静かに唾が喉を通ると、音が鳴った。
響き渡る放送にサキは意識を向けている。
ただ、ずっとそんな不思議な感覚で溺れてるみたい。
『てな感じで、候補生皆々諸君!検討を祈るで!!』
――ピンポーンパーンポーン
部屋からは誰の声もしなくなって数秒。
呼吸を確かにしながら、サキは部屋を出る。
「よぉーし〜自由だ!どこにいるんだろ皆んなは!」
部屋をしっかりと施錠。すると彼女は独り言大きくし、あっちこっちと指差し確認。
その時、1人の少女が隣室からガチャリと扉を閉めて姿を現した。
「あっ……」
黒と黒のサングラスとマスクはしていなかったが、佇まいと服装からサキは理解する。
そう先ほど、自分に冷たくあしらった少女だ。
「なに……?ジロジロ見ないで鬱陶しい…‥」
「えっと、そんなつもりじゃないんだ!」
その子はジロリとその鋭い三白眼をサキに突き刺す。
常に怒ってる様なそんな形相に少し身を引いてしまったが、何とか穏便にすませようと慌てて対応。
「お、お互いに頑張ろうね!えっと、名前は‥‥」
「うるさい。鬱陶しいから‥‥」
その少女が自分の肩にドッとわざとらしく当て去っていく。去り際にはその三白眼でジロリとサキを覗かせた。
「あぁ〜‥‥行っちゃった‥‥そんな、私悪かった?」
頭を小さく悩ませてると、彼女が出てった先から甲高い歓声が聞こえてきた。
『ホントにいたっ!ホントっ可愛すぎるっ!』
何事かと、好奇心で駆け足で向かうサキ。
背中が見えたのは、長く整った艶のある黒髪が左右に揺れるついさっきの少女。
『きゃー!ねねっ、見てみて‥‥あの千年に一度の逸材の――』
他の候補生達の横を、前が少女が通ると歓声が。
余裕綽々と進む彼女は背中越しにも伝わる自己主張の強く、そして艶やかさ。
『“黒石アイ”だよ!!』
その漏れ出る歓声から聞こえる、彼女のプロフィールをサキが聞き入れるなり、動いていた足元がピクリと動かなくなっていた。
「黒石‥‥アイ‥‥‥?」




