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第26話 二次審査 開幕

――――8月1日 二次審査 開幕


『あ、あ……聞こえるかい、聞こえるかい?

やあ、300人の偶像候補達よ――私は樽前チエだ』


バスの発車時刻はそれぞれ違うが

モニターにて映された映像は同じ。


『ンハッ、台本そのまま読んでんけどコレでええんかな?堅苦しいったらありゃしないわ、まあええわ』


モニターの女性が吹き出すとサラッと流す。

口角を上げると、皺が中央に寄っていく。


『言うても、身構えんでえぇよ……何せ君達の中で、こんなオバはん誰や誰や思っとるやろうから』


モニター画面に映る女性は流暢に関西弁を操る。

長い黒髪が艶光る。どこか剽軽的な印象を抱く者も少なくないだろう。


『単刀直入に言うたる、私の役割は君達のメンターと、そしてその心を抉るジャッジマンや』


声は相変わらず、剽軽。

だが言っていることは何処かトゲがある。


『んで、まあ詳しいことは“ファーデン”で直接、話そうや、それで質問やら何でも受け付けたる』



――――美鴨サキ サイド


「よしっ……」

美鴨サキは、母から貰ったお守りを握りしめると唾を飲み込み。それから呟いた。


今回のオーディションの為だけに建てられた

巨大総合施設“ファーデン”

広さは驚異の東京ドーム2個分を誇る。


その門の前にて美鴨サキ含む30人の少女達が佇む。

壮大か?否、息を呑むほどに壮大だ。

門そして、周囲を囲む塀は自分達を見下ろす。


他の少女達がゆっくりと門を潜る中、1人そうして門前で佇むのでバスで待機していたカメラマンが尽かさずその場で機材のピントを彼女に合わせる。


「行くぞお‥‥!」


今、美鴨サキが前進する。

その一歩は彼女にとっては小さな一歩だが

彼女の未来にとっては偉大なる一歩だ。


サキの眼前に、堂々と聳える大型ドーム。

そして中央と左右に枝分かれする歩道に順々と壮絶な戦いを予期する少女達が並び歩く。


サキはその列に加わる。


「えと、こんにちは〜」


最後尾を歩く、少女に話しかける。

その少女は黒のサングラスに黒マスクをしていてコクリと頷くだけだった。


「名前聞いていい?私、美鴨サキ!」


めげずにサキが声をかける。


「……なに、馴れ合いに来たわけじゃないから話しかけないで、鬱陶しい‥‥」


その少女はジッとサキに告げる。

次にサキに向けて手で払うと構わず前進する。


「あ、ご、ごめんね!」


少女の背中が呆気なく遠ざかる。

サキは咄嗟に謝罪の言葉が出た。



“ファーデン”そこは戦場。それは前々から理解していた事だが、いざ敷地内に留まるだけで、息をする事さえ忘れそうなサキだった。


「まあ、こんな事もあるよね!」


ポツリ呟く、サキ。切り替えて一歩、また一歩。

その左右に佇立する寮棟。

そこから複数個の建物が鎮座するのでファーデンの密度は広さによらずに濃い。


道なりの外は芝が広がっていて、気持ちよさそうだ。そう、何となしに思ったサキ。


「‥‥‥‥ひろーい」


凡そ30人程の少女達は誰に導かれる訳でもなく

ただ自然と一直線上に鎮座するドームへと向かっていた。感嘆の声を漏らす者も、ただ頷く者。


それぞれ1人1人をカメラは捉えていく。


――ブーン

ドームの出入り口にある三つの回転ドアの内一つ。

そこに少女が一人、吸い込まれるように入っていく。続くように他の少女達もズカズカとドーム内へと。


「え、入っていいのかな?」


呟くサキ。だがしかし、誰も反応しない。

周りを見渡してもカメラマン1人しかいない。

そのカメラマンも何も言わずにカメラを回すだけ。


「よし……」

意を決して、回転ドアへスッと押してドーム内へ。

サキにとって回転ドアは初めての体験。


ドラマや映画、大人の世界の存在だとばかり思っていたので内心、大人の階段を一つ登ったとサムズアップ


――――ファーデン ドーム内 

コンコースを道なりに進むと、そこは開放的空間。

そこには既に到着していた候補生達が集っていた。


ドームはこの為だけに作られただけに音響設備も照明設備もメインステージも既に充実している。

おまけに、空調も換気も見張る物があり涼しい。


「え、うへぇ!!すごっ、広っデカ!!」


思わず、大きな声が出てしまうサキ。


「何これ、何これ!!」


だが、その反応をする者達はサキだけじゃなかった。

他の候補者達もポツリポツリと呟くのだ。


その壮大さ、広大さ。

そして狂気さえも憶える運営の覚悟を。


「……こんなとこでライブとか出来たら、すごいんだろうなあ……」


しみじみするサキにカメラが強く寄る。

彼女は、カメラを意識する事すら出来ないほどに猛烈に感動していた。


「あぁぁ!!サキさん!!」


「ん?え?あぁぁぁー!!」


彼女に声をかけたのは小柄で青髪。

そしてパワフルさが溢れる少女。


「どうもご無沙汰です!鳥・海・葵です!!」


「葵ちゃーんっ、改めて合格おめでとう!!メールめちゃくちゃ送ってごめんねっ!!」

 

「大丈夫ですよ、サキさん!!今朝のボイスメッセージのお陰様でこの通り元気貰えましたから!!」


2人は久々の再会の歓びを分かち合う。

「あっ、そうだ――3人はついてるのかな……」

サキが葵の小さな手と自分の手を重ねてパッと思い出しのか放った。


「ん?サキさんのお知り合いさんですか?」


「うんうん!!」


笑顔で答えると、爪先立ちし、さほど高さがないのに全体を見渡す。結果は3人を発見出来ずに口の中で舌をコロコロ転かす。


「こう見ると人数すごいですよね!300人ですよ?うち、この中でやってけるんですかね〜」


葵が靴先をクルクルと地面に擦って不安事を軽々しく放ってみた。


「葵ちゃんなら、いけるいける!!でもまあ……」


ここで葵に耳打ちするサキ。


「気をつけた方がいいよ、案外皆んなツンツンしているからさ‥‥私なんかさっき、鬱陶しい!って言われて払われたからね!」


「ええっ、本当ですか……おっかねぇ……」


『我は堕天と熾天の王なり!!!!!!』


2人がこしょこしょ話していた時、遠くから雄叫びが聞こえる。


「な、なにさっきのンハハ……」


サキが小さく笑うと葵がツボに入ったのかお腹を抑えてクスクス笑っていた。


「ほんとに、色んな人いますね!」

「ねっ、まあ埋もれないように頑張ろね葵ちゃん」


――――篠宮エミィ サイド 同時刻

『我は堕天と熾天の王なり!!!!!!』


エミィは耳を塞いでいた。

そして同時に強く、そして強く嫌悪する。

その正体は眼前に片膝をついて手を差し出す奴が、粘着質者だからだ。



「どうかな、篠宮エミィ……」


「うるさい、うるさい!アッチ行って!」 


「いいや、この享紺唯は何処にも行かないよ」


エミィはジトっと奴を見る。


「えっ、ちょ!アナタ!!」


すると、大胆に享紺は動く。

自身の差し出した手を強引にもエミィの片手を奪い


「君となら、オレは輝ける君もオレとなら輝ける……だから、オレと協同マリッジしないか?」


―― 享紺はその手の甲に口を近づけた。


「ちょっ!!やっ、やめなさいってば!!」


顔が急激に暑くなるのをエミィは感じた。

すると強く引っ張られた、その手を思わずパチンと弾いてしまった。


「な、なんなの……アナタ……」


――――時は遡って 数刻前 新岡イマ サイド

ドーム内に一足先に着いていたイマ。

彼女もまた、何処かの令嬢と同じく付き纏われていた


「名は、なんて言うんだ?」


バスの時から長らく、この調子。

イマは心に誓っていた。

“絶対にその者”と関わらないと。


「お主だぞ?お主っ、まさか聞こえないとは言わせないぞ!」


暫く暇になっていたのでドーム内を探索していたのだが、後ろを着いて歩く音だけが絶えず聞こえている事にイマは多少のストレスを感じていた。


「ふん、そうかお主、我が見えないのだな??まあ、そうだろうなあ〜気高き種族は下等種族である人間になど存在の認知なんてディフィカルト!!」


イマの歩きが一度止まった。

ただ、また歩き出す。

“その者”が、その事に気付くと戦法を変えてみる。


「ンフッ!お主、同胞などおらんだろ?まあそうだろうなあローンウルフを気取り、あまつさえ厳選されし人間であると誤解ミスアンダスタンディングス


「静かにして……」


「おおおおっと!!まさかお主、我が見えると言うのか?なるほど、良いだろう、名を名乗れ」


イマは大きな大きな溜息を吐いた。

どうしようもないほどに“その者”と対話をしないといけない事に、目をぐるりと回した。


「新岡……イマ」


「フンフン、新岡イマか……贅沢な名だな、今日からお前は……そうだな“ヴェルサンディ”だ」


「そっちの方が贅沢な名前です……それ、北欧神話の女神の名前ですよね‥‥」


“その者”がビクッと跳ね上がると、ジワった口角を上げニヤッと存在しない眼鏡の縁をあげる仕草をする。


その正面では条件反射的に反応してしまった自分を悔いるように目を閉じるイマ。


「っ、で、ですから、アタシは新岡イマです!母から貰った大切な名前なので、もう何も言わないで下さい……」


隠すように、逃げるようにイマが“その者”から足早に去っていく。絶対に関わらないと心で決めていたのに結果的に言葉を交わしてしまった。


その事にイマは何となく、心が熱くなった。


『我は堕天と熾天の王なり!!!!!!』


「は……?」


イマの目の前に、また“その者”がニュッと現れた。


「ふん、当然だろ?お主の名を教示したのだ。同じく我の身分ぐらい明かすのが筋だろう?夜噛ツバサ。よく覚えておくと良いさ……」


――――数刻後 櫟木カコ サイド

カコのバス組がファーデンへ訪れる最後の組。

従ってドームに集まったのも最後。


広大なドーム内にて、カコは俯く。

それから早く誰かを探し出して近くにいたいと焦る想いが遅れてやってきた。


「サキちゃん‥‥イマちゃん‥‥エミィちゃん‥‥」


手荷物の重さが煩わしい。

早く、その辺に荷物を置きたい。

だけど落ち着かない。近くに誰かいないと。

いつもの皆んながいないと‥‥


『ちょっ!!やっ、やめなさいってば!!』


すると右奥に、見知った顔と。

そして声が聞こえてきた。


カコは駆けた。


「エミィちゃん!」


そして、その異様な光景を目にした。

1人の例えるなら童話に出てくるような王子様みたいな綺麗で、スタイリッシュな男‥‥いや女性。


その人が、エミィに片膝ついて彼女の手の甲に――


「なっ、何やってるの‥‥!!」


カコが思わず前へ出た。

エミィと、その女性を囲うようにして野次馬のように見ていた他の候補者達はザワザワと鳴いている。


「っ、……す、少し助けてカコ!」


荷物をその場にドサっと置くとカコは慌ててエミィの近くに寄る。その際に女性の方のスラリとした掌が見えたのだが、親指の付け根の辺りがほんのり赤い。


「大丈夫?何があったのエミィちゃん――」


「なんだ、その子は……篠宮エミィ‥‥オレと言う相棒ハズバンドがいるというのに」


女性は、凛々しく。そしてスラッとしている。

中性的な見た目であり、その甘いマスクが強く反射しているようでカコは目を細めた。


「まあ良い、いずれ‥‥篠宮エミィ‥‥君はオレのとこに戻ってくるのだから」


そう言い放つと黄色い声援を浴びながら彼女は去っていく。


「なんなの、あの人……」


エミィは少しだけ目が潤んでいた。


「大丈夫‥‥?エミィちゃん」


「ええ、ありがと」


だが、その目の潤みが勘違いだったのではないかとカコは考え直してみる。そのアイメイクがそう見えたのかも知らない。


だって、あの篠宮エミィだから‥‥。


「ねぇ、他の皆んなは見た?」


「いいえ見てないけれど、何せ奴に付き纏われていたから‥‥」


「そっか」


カコが自分の手と手を重ねた。

そうすると落ち着くかもしれないから。

でも、そんな事はエミィには言えない。


――ガチャン!!

ドーム内の全ての照明が一気に切れた。

候補生達の驚きの声が入り乱れる。


そしてメインステージとなる、最奥だけが

スポットライトを浴びた。


そこには、“まだ”誰もいなかった。

暫くすると機械音が「ウウー」と聞こえる。


その音と呼応するようにスポットライトを浴びた

空のスペースの床が浮かび出す。

俗にいう、せり上がりだ。


「いやいやいやいやいや、ごめんな〜」


そこから現れたのは

バス内のモニターで現れた女性だ。


「ホンマに悪いなぁ〜こんな大役務めるような人間やないのになあ、あぁホンマに悪いわぁ」


流暢に関西弁を操る。

その女性は――


「どうも先ほど、振りで……樽前チエだ、どうぞよろしゅうお願いしますわ……」


候補生は唖然としているのか、反応が薄い。

樽前は少しの沈黙を置いて、場の空気をしっかり感じて吐息を吐きながら、高らかに洗顔する。


「さあ〜、2次審査 開幕や!!」

少し長めになってしまいました!!

二次審査始まりました!!

次回も宜しくお願いします!


毎週水・金20時更新!

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