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第3話 決意の表明

――美鴨サキらが通う高校 屋上


「んで、思い付いたんだ……」


いつも通り

美鴨サキ、新岡イマ、櫟木カコが昼食に集まる。

イマとカコは屋上の出入り口に設置されている

ベンチに座り、イマは売店のコッペパンを。

カコは自作の弁当を食べていた。


「何をですか……」


コッペパンを口に入れて、目を細めるイマ。


「2人を応募させる方法だよ!」


サキはベンチの前で手を広げる。

そして大きく息を吸い込んで制服の袖を捲る。


「な、何をしようとしてるのサキちゃん」


カコは弁当箱を自身の腿に乗せたままに

サキの行動一つ一つに注目していた。


「私ね昨日、色々と考えていたんだ

夢ってどうすれば叶えれるのかな〜とか

何をしたら良いのかって」


サキもサキで真剣であるのは

笑顔の回数が少ないことで伝わっていた。


「私だって出来る事はしたい……

私だって輝きたい……その原動力ってやっぱり――」


サキはスカートのポケットから

母から貰ったお守りを出して、ギュッと

握り返すと、目を閉じて、過去を思い出す。


――――――――12年前


「ミライ姉〜コレからどこ行くの?」


「ライブだよ、ライブ!サキ、脳に刻み込んで

彼女達は伝説を巻き起こすから……」


美鴨サキ、齢5歳。

人生で初めてのアイドルのライブは

彼女の人生や価値観を

大きく揺さぶったのだった。


当時、見に行ったアイドルの1人は

後のサンセット事務所を立ち上げ社長に就任した。


サキは、その日の記憶を頼りに夢を見た。


「ミライ姉!見てみて!」

「おお、すごい……ステップ少しできてるよ?」

「ホント?立花ちゃんみたい?」

「もちろん!私も実は

この振り付け練習してて――」


姉のミライと好きな事に対して話し合う時間。

テレビやライブに観に行くその時間……

その、ひと時が増えるたびに

彼女は自由に歌い舞い続けた。


それは、幾度もライブやアーカイブを見て

見よう見まねで何とか形だけを為した

不完全な物ではあったが。


「イマちゃん!カコちゃん!みてみて!!」


そんな彼女の見真似の不完全な表現を作り出すのも

当時の彼女には一生懸命だった。


生のライブやアーカイブを見るほどに

目に映るアイドルが綺麗に、鮮明に映し出され

余計に彼女を沼に引き摺り込むのだから。




――――――現在

サキはパッと目を開き、今度はスマホを取り出す。


「憧れのアイドルのお陰だって思ってた。

だけど実は身近の応援してくれる人や危な気だよ!って私を想って伝えてくれる人達のお陰なんだ」


サキは、少しの恥じらいと

真っ白な歯を見せて、2人に微笑み掛けた。


「そんな人達を少しでも笑顔に……幸せにしたい。」


2人はそんな彼女の言葉を

一つ一つ、咀嚼して深く飲み込んだ。


「……お母さんにもミライ姉にも

イマやカコにも、アイドルになりたいって

言ってきたけどさ」


サキはそのまま、スマホを操作して言い続けた。


「じゃあ実際に夢語れるぐらいに

何かしてるかって最近まで私、言えなかった……」


サキのスマホからイントロが流れた。

その音量は最大限なのだが

学校の喧騒が風や木々の音々で

お世辞には聞きやすいとは言えなかった。


「だから、証明するね

私の本気を――決意の表明を!」




――――10年前

「ミライ姉!三ヶ月後のライブ当たったよ!

ミライ姉の分もチケット取ったから一緒に行こ」


「あ、う、うん……あぁ、やっぱりごめん

期末テストで勉強しないとだから……」


ミライは中学に上がり、サキは小学に。

同時に2人が歌やダンスの見せ合いをする時間も自然消滅


「んーと、喉に力を込めずに……

お腹から声を出す?どゆこと?」


だが、サキの情熱や熱量は消えるどころか増す一方

同じ趣味で共通な好きな物を語らい合える

親友も同時に出来ていたからだ。


「ですから、声を張り上げないんですよ」

「へ?でも小さくなるよ声」

「うーん、サキちゃん。フェリーズの

天使杏子ちゃんみたいな感じじゃない?」


結果的には、これも自然消滅する事となったが

サキは1人で細々と練習(マネ)をしていた。


彼女はひたすらに、真似た。

ひたすらに歌い舞い続けた。


コツを掴み、技術を学び走り続けていた。

誰彼に披露せずとも

大切な人達との一本の時間を繋ぎ止める様に


――サキが中学1年になって半年後。


「へえ!立花藍ちゃん社長になるの?」

「そう、前から芸能界引退の噂はあったけど

まさか事務所も立ち上げるなんてね〜」

「ミライ姉、立花ちゃん推しだったよね!」


当時、“芸能界の天下を取った”と謳われた

3人組アイドルユニット『危険な偶像』のメンバー

立花藍の突然のグループ脱退と事務所立ち上げ。


そしてユニットの事実上の解散が世間を騒がせた。


その頃にでもなると

サキの中でも変化が訪れていた。


「あっ……立花ちゃんの事務所から発表会?

 え……アイドルグループ……!」


――それは『三美神』の誕生だった。


彼女は、あの時と同じような……

いいや、あの日に勝った電撃のような衝撃を浴びた


「え……何コレ……なにこれ…………」


『三美神』は至高だった。


容姿端麗の頂点を突き詰めた圧倒的なヴィジュアル

威風堂々の圧倒的な存在感とカリスマ性。


それら2つの要素の説得力を見劣りせずに

補強し倍増させる歌唱力とパフォーマンス。


誰もがアイドルの新時代が到来したと沸いた。


「スゴすぎる……よ……」


そんな世間の評価は美鴨サキ自身

唇を噛み締めるほどに実感していた。


今まで完成度や完璧性を鑑みずに

ただただ真っ直ぐに、楽しく

アイドルに憧れ見真似していた彼女にとって

初めて、無力感が心の芯から冷え広まった。


「こんなの、私には真似できない……

いや真似とかの次元じゃないよ……」


彼女は魅せられ、ファンとして

三美神を尊敬し応援する事となった。


「私には…………到底……“憧れ”は“憧れ”のままでいいよ」


ただし、決して三美神のパフォーマンスを

真似ることはなかった。



だが……彼女は歩みを止めなかった。


――――――――現在


三美神を好きである事、憧れ続ける事。

そしてアイドルという存在を愛し続けること。

彼女にとって、夢を見ると言うこと。


それら全ては、あの衝撃(ライブ)

忘れずに、誰かと分かち合う為の方法であった。



「吹いた風は……私達の背中を押してー」


屋上で流れる、その音源。

三美神の曲『トワイライト』


音源と重なる様に、歌唱と振り付けをこなしていくサキ。


――この歌と舞は彼女が今まで培った

見真似の集大成である――


「夕焼けが、カゲを伸ばす」


身振り、手振り……表情。

声の出し方、音の取り方。


それらをダイレクトに受け取る親友2人。


イマは、その場で静かに凝視する。

カコは、手を口に覆って目を潤わす。


2人に、こうして歌や踊りを見せるのは数年ぶり。


空気が震える様な力のある歌声と

風を切る様な静と動のメリハリ。


2人はまるで自分自身が

“夕焼けを全力で駆け走っている”

そんな錯覚をする程に身体が熱くなる。


その全ては“模倣(コピペ)”であるものの

身に付けたそれは――紛れもない彼女の努力の結晶。



スマホからの音源は次第に消え

サキも息を少々、切らして

お得意の笑顔を振りまいた。


「どう?イマ、カコ!」


暫く、沈黙が訪れた。

サキは汗を額から流して、ニヒヒ!っと笑いながら

それを拭うと、手を広げて風を感じていた。


「……」「……」


胸に手を置いて愕然としている、カコ。

膝に抱えていた弁当箱はベンチの隅に。


最初に動いたのはイマだ。

先程までのサキのパフォーマンスを見て

何を感じたのか……彼女はベンチから

立ち上がり拍手を送った。


パチパチ。 

一定のそのリズムは彼女にとってサキに送る

最大限の労いかのように穏やかに。


「うん……うん!サキちゃん、伝わったよ」


続いて、カコも立ち上がり拍手に加わった。

音の重なりが、その2人を見る表情が

美鴨サキの心を優しく包み込んでいく様だ。


風を感じた昼下がりの高校の屋上。

夢を追う確かな証明は3人の気持ちを揺さぶった。


「サキちゃんはさ……ずっと昔にワタシ達にアイドルを教えてくれたよね」


カコが目尻に一雫の涙を流しながら

ゆっくりとサキに近づく。


「アナタのお陰で、こうやってワタシ達が親友で有り続けていれる……それは同じ好きな物があるからだよね――」


するとカコはサキを優しく抱きしめた。


「でも、アイドルで繋がってるワタシ達がいつか……

消えてなくなってしまうのが……怖かったの」


サキは自然とカコの抱擁を受け止めると

彼女の震えた声や背中を柔かな手の平で摩る。


「昔みたいに夢謳っても、いつか……そんな夢は崩れてしまうかもしれないから…………」


イマが少し遅れて、2人の側に近寄る。


「サキはいつも、歌唱やダンスの振り付けについて私達に尋ねては、披露していましたからね」


何処か申し訳なそうな表情のイマ。

いつもの淡々とした声色というより若干の

贖罪を感じさせる様な物だ。


「その熱量が余計にカコの不安を

   増幅してしまったのでしょう……」


「アハハ……なんか、ごめんね」


サキは首元にカコの頭を乗せながら

剽軽に軽く笑って見せた。


「ううん、謝るのはワタシ達だよ」


カコは、やっとサキを解放すると

目を伏せながら放った。


「そうですね……カコ」


「ん?どういうこと?」


何を言われるのか

一切その真意を掴めていなく目が点になるサキ。


「ワタシ達も完全にアイドル諦めた訳じゃなかった……

でも気持ち的に、現実的に見れば不可能だって

心の内にその感情を隠す様になったの」


微風が吹くと、彼女達の制服が……髪が靡く。


「極力、大きな亀裂や挫折を生み出さない様に」


言葉を紡ぐ、今までの自分達の心持ちを。


人々は自然と身の丈にあった事柄に対して

うなづいてしまう物だ。

イマやカコの感情は至極当然の事と言える。


「そう……だったんだ」


サキは握った拳を緩めて事実を噛み締める。


「って事は、前からカコとイマって口裏合わせみたいなことしてたってこと!!」


「……まあ、捉え方によれば確かに否めないです……だからこそ。ごめんなさいサキ」


「そ、そうだね……イマちゃん……

 ごめんねサキちゃん」


イマとカコはその場で綺麗に頭を下げた。


「え!あっ、えと、そんな、なんか!

真剣な謝罪とか求めてないよ〜怒ってないし!」


「ううん……謝らせて……欲しいサキちゃん」


2人は、そのまま頭を下げて数秒間

全力で謝罪をしていた。


「ちょ!ヘェ〜っと……」


急な謝罪と、慣れない謝罪される側の立場に

例え何十年も付き添ってきた相手だろうと

彼女は後退りをしてしまった。


「そ、そうだ……応募の件だけど〜」


気まずそうにサキは話を切り替えた。


「勿論――」


パチンと切り替えるように

イマが手を叩く。


「あの本気のパフォーマンス……

情熱的で素敵な物を見せられてしまったんです

アナタに賭けますよ……」


イマがいつもの淡々とした口調に戻り

決意を固めた。


「ホントに!?」


「ええ……ただし0次審査はしっかり

こなしますからね……アタシもカコも、サキも」


イマはカコを一瞥すると

自分為だけの微笑みを浮かべてみせた。


サキは嬉々としてハイジャンプを見せて

次にカコの手を掴んで


「カコちゃんは!?」


「ンフフ、ワタシも挑戦するよ……」


優しく暖かく答えるカコは

飛び跳ねるサキに小さく

「ありがと、サキちゃん」とつぶやいた。

誰の耳にも届かない声である。


「ワタシも絶対に叶えたい……夢だし……

なんと言ってもサキちゃんがワタシ達に証明してくれたんだからね」


カコは胸に手を置き、また決意を固めた。


「めっちゃ今、嬉しいよ!だってだって!

この3人で、また本気で目指すんだよ!」


サキはイマ、カコの手を繋ぎ

声高らかに自信満々に答えて見せた。


「どこまでだって行ける気がするよ!」


そんなイマとカコ……2人は

どこか吹っ切た様にフッと優しく笑いあった。



――ただ、1人の少女が屋上の扉を少し開けて覗き

そんな晴れやかな屋上の三人を睨みつけた


「……要観察ね……

 そんな簡単じゃないわよ……アイドルは……」



次回更新は明日20時!


下記のYouTubeチャンネルにて作中楽曲が実際に聴けます!


https://www.youtube.com/@%E7%A7%8B%E6%B5%A6%E3%83%A6%E3%82%A4

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擬似メディアミックス展開中! YouTubeチャンネル 下記のYouTubeチャンネルにて 作中楽曲が実際に聴けます! YouTubeチャンネルはこちら
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