第2話 夢の為に0次審査
「あ、え……サキ、本気?」
母が水を止めて1番に言い出した。
「え、うん」
サキは、さも当然の様に二つ返事。
ミライが天を仰ぎ、ため息を吐き始めた。
「まだ諦めてなかったんだね……サキは」
ミライがゆっくりと空気を多めに吐き出した。
「当然だよ!」
「アンタもう、そう言う夢見るのは辞めなさいよ〜」
母が再度、水を出して作業を始めた。
その調子は呆れた様に
本気で夢を追うことを止めるみたいに。
「ミライもアイドルなりたかったんでしょ?言ってたよね、将来はアイドルなるんダァーって」
「言ってたよ……でも小学生とかの時よ?」
CMが開けて、番組のスタジオが映し出される。
自然とサキとミライは無言になる。
タイミングよく
皿洗いも終わったのか、蛇口の水も閉まると
リビングはテレビの音声と微かな生活音のみ。
《さあ続きまして先日、大々的に発表されたガールズアイドルオーディションで話題!超人気絶好調の『三美神』です!》
司会アナウンサーが三美神の登場を煽り出すと、3人が画面いっぱいに映し出される。
「どうも私達、三美神です」
《いやあ先日は衝撃的な発表でしたね!三美神は今回のオーディションどの様に受け止めてますか?》
「はい勿論!レイレイは期待していますし兎に角、楽しみです……沢山の方々の参加待ってます!」
花田麗亜が足を小刻みに踏む。
表情からもオーディションへの想いが期待感で沢山なのが伝わる。
「応募は実は発表した瞬間から開始したんですが、締め切りは、来月5月末までなのでお早めに!
今から私もとてもとても楽しみです!」
続けてミライの推しの安喜シュネ。
彼女はさり気無く、
オーディション応募を視聴者に宣伝する。
「今、応募しようと考えてるアナタも
応募も考えていないアナタも……ぜひ!
一度、考えてみてはいかがですか?」
最後にサキの推し、小栗華。
彼女の顔にカメラが寄り
一層その真剣な表情が印象的だ。
「暖かな時間と未来への希望、私達は何よりも夢を追い求める人々を応援しています!」
その真剣な表情とは打って変わって
不意に上品に笑顔を放った。
《はい!ありがとうございます!では
今夜は話題の最新曲『Light!Light!First!』を披露してもらいます!》
此処で、もう一度CMが差し込まれる。
終始、サキとミライは一言も喋らなかった。
「はぁ、サキもいつになったら現実を見るのかしらねえ〜ミライだって、アイドルなりたいって言っててもちゃんと現実見て、就職したでしょ?」
母がソファにドサっと座り
ため息混じりに話し出した。
母としてはサキの将来がとても不安に思えるようだ
「お母さん……私はね、現実はしっかり見れてたんだよ……だけどね」
ミライが手に持っていたスマホを机に
静かに置く。また彼女は何もない天井を仰ぐ。
「それでも叶えたいのが夢……なんだよね……」
サキは、そんなミライを横目で見ながら
然程、興味のないCMを眺めていた。
「んー……言いたい事は分かるけどねぇ」
母は頬に手を置いて、目を細めた。
「私がどうして、就職したと思うサキ」
「ん……え?」
サキは突然に問われて、一瞬戸惑った。
だがミライのその眼差しを見れば
適当に受け流す事はできなかった。
「お金が必要……だから?」
「どうしてお金が必要?」
「ええ〜ご飯食べたりとか買い物だとか生活費とか〜後は推し活の為でしょ?」
サキは顎に手を添えながら
クネクネと頭を揺らしながら答えると
ミライは微笑んだ。
「そう生活の為……大体の人が夢を諦めるか、妥協して、こうやって過ごしていくの」
ミライの諦観的なその意見に
サキは少し不服そうに口を尖らせた。
「実は夢を叶えれる人間には2種いる……1つは日々の営みを十分に出来て、かつ才能も努力も出来る人間」
ミライは人差し指を立てて持論を展開。
「当然この人間はお金も多少あって、才能もある……オマケに努力も出来る訳だから普通にアドバンテージは相当な物だよね」
母は何の事かさっぱりと言う顔で
一応は耳に通していた。
サキはCMが終わるまでは聞いてるやるかと
胸の前に腕を組んで聞く耳を立てていた。
「二つ目は……?」
「2つ、それはね……夢しか見えない、ただその事柄に対して全部を賭けて努力を続けれる人間」
手をピースのポーズにしたまま
「このタイプは本当に不器用だけれど、夢に貪欲で夢にしか価値がないと想ってる……」
ミライはサキに述べ続ける。
「サキはどっち?或いは……お姉ちゃんと同じように夢を叶えれない、人間側?」
此処で、CMが明け番組が拍手と共に始まる。
テレビ画面には照明を暗くしたステージ上に
三美神が振り始めのシルエットのまま静止。
「私は……」
テレビからイントロが流れ出し
「私は……」
三美神のパフォーマンスが始まった。
サキはテレビに釘付けになりながら
確かに思考を巡らせ唸っていた。
その姉からの問いかけに。
「――私は断然……2番だよ」
その末に
パフォーマンスを見ながら呟くサキ。
「そう……そう言えるなら頑張りなよ
お姉ちゃんみたいに夢を終わらせるなよ……」
「え……それってつまり……応援してくれるってこと?」
ミライはもう答えなかった。
ただ、それを察してサキはテレビに注視。
母は目を丸くしながら2人の会話を聞いていた。
だが、直ぐに否定ができなかった。
口を開けては、閉じる。
母は何も言えず、3人はテレビから流れる
三美神の曲を静かに、静かに聞いていた。
――次の日
サキは今日はしっかりと朝目覚め
身支度を済ませて、朝食を食べる事ができた。
「お母さん〜行ってきまーす」
「あっ、待ってサキ……」
玄関前、靴を履くサキに母が呼び止める。
「ん?ナニ〜なんか忘れ物?お使い?」
エプロン姿の母。
いつもと変わらない母だったが
何か心にモヤを抱えているのを察するサキ。
「サキ……昨日は、何かと言っちゃたけど……」
「昨日?まあ……母さんはダメ!って言いそうだったから全然、気にしてないよ!」
「違うのサキ……」
母はサキの手に御守りを握りしめさせた。
「え?」
「お母さんね、サキにもミライにも正しく、しっかりと生きていて欲しいの……だからアイドルの様な狭い世界じゃない場で頑張って欲しかった……」
母がくれた、その御守りは
赤色で“一願成就”の文字が。
「そっか」
サキは踵を浮かし
御守りを大事に手に握りしめた。
「でもね、そんなお母さんの不安すら
全部、吹き飛ばすぐらいにやってやるから!」
――笑顔。
「私、ちゃんと証明するから!」
太陽の様な、その笑顔を振り撒き
彼女は自信を持って言い放った。
――都内 某所 サンセット事務所 本社
「時代はアイドル戦国時代……全国各地、津々浦々で地上も地下も半地下も多種多様――」
社長室の権威ある部屋模様。
重厚感のある皮の茶ソファに
大理石のテーブル。
壁に背中をつける棚には事務所所属のグループ達が受賞してきた豪華絢爛なトロフィーや盾がガラス越しに飾られていた。
「“インターネットアイドル”や“Vtuber”所謂ネット活動を主とした活動者も近年、爆発的に増加傾向……今や生身を出さずとも偶像になれる時代か」
ソファに背中付けて、足を組む女性が呟く。
「ただ……」
彼女はサンセット事務所社長の“立花藍”
目を閉じ腕を組み、何やら硬く憂いていた。
「若干の飽和状態は否めない……ですか?」
「半分その通りだよ……そしてその半分はエンタメ全体に言えるけれど“常に若干の飽和”だから正解も不正解もないってこと」
その迎えでノートパソコンを開き
カタカタと音を立てる、話し相手の秘書がいた。
「ただ、いつの時代も需要はある。
それが偶像なのも実際さ……」
立花社長は机に置いてあった書類を手に取って
高級そうな光沢感のある腕時計に目を通す。
「今回のオーディションはアイドル文化その物を占う様な物だから……複雑な気持ちだよ」
「社運も賭けた一大行事でもありますからね……
さあ立花社長、これからテレビ局で
インタビューがあるので行きますよ」
秘書が立ち上がり
ノートパソコンと書類を抱えて社長を促す。
「えぇ……そうだ、今日の会議って
三美神の3人も来るんでしたっけ?」
立花も静かに立ち上がり
書類を抱えると、スーツを整えた。
「あ、はい……ただ安喜さんと花田さんは
テレビ収録で少し遅刻するとの事です」
立花は社長室の扉前で立ち止まり
背後にいる秘書の方を向いた。
「あぁ、なるほど……分かりました
実は3人にはグループの今後に関して一つ頼み事をね」




