第24話 Zero to First Stages!! 前編
――7月7日 校長室
「っ!失礼します!」
美鴨サキは、チョコレート板な校長室の扉前へ。
コンコンとノックをしてから扉を開けてみる。
不安に感じるのか唇を口で包み込んでから入室する。
「遅い、早く来てくださいサキ‥‥」
部屋には校長と、その書斎の前に3人が並び立つ。
新岡イマは淡々とサキへ呼びかける。
「サキちゃん!こっちこっち」
櫟木カコは、柔らかい口調で放つ。
カコの隣に空白ができると手招く。
「ごめんなさい、遅れました!」
溌剌と発言し、駆け足で書斎前へ。
エミィが軽く咳払いをすると腕を胸の前で組む。
「いやはや、申し訳ないね期末テスト終了後で一息したいと言うのにねぇ」
校長は、その顎から生える長く白い髭を撫でる。
部屋の空気は澄んでいた。
遮光カーテンの隙間から漏れ出る光。
その光が校長の背中を射す。
「単刀直入で言おうか、我が校宛に、そして君たち4人宛にメールが届いたのだよ」
4人が忙しなく目を合わせる。
「そ、それって!!」
サキが浮足立つのか、一歩後ろへ下がる。
「うーんと‥‥一文を読ませてもらう」
書斎のノートパソコンを開いて、校長が深呼吸。
『サンセット事務所 Girls Storys! 運営事務局と申します。このたび、貴校在校生の美鴨サキ、新岡イマ、櫟木カコ、篠宮エミィが弊社主催のガールズアイドルオーディションの――』
4人は目を丸くする。
『ニ次審査へ進出されましたことをご報告申し上げます――』
察して信じられないと口を覆うカコ。
言葉の最後まで聞く、エミィとイマ。
そして、放心するサキ。
酷く実感も湧かない、それよりも疲れが溜まっているのか瞼が震えた。呼吸も小刻みになっているのが分かる。
だけどホンノリ、口角を上げている事すら自分でも分からないほどに。嬉しい、良かったという安堵感が徐々に、溜まっていくのがサキは感じる。
「んー実にマーベラスだ、我が校から晴れ晴れしい報告が届くとは、オーディションの件については色々と以前から聞いていたが、うん本当に大した物だよ」
開いた口が塞がらないサキ。そんな彼女の肩に顔を伏せるカコ。また、それを穏やかに見守るエミィ。
「校長先生ありがとうございます‥‥それでは、アタシは少し用事があるので」
「お、おお、そうかい……応援しているよ」
イマが深くお辞儀をすると、返答を待たず踵を返す。
背中はヤケに伸び切っており校長は眉を上げる。
それから、その長い髭を綺麗に真っ直ぐ伸ばし続ける
「え、イマ?」「イマ……ちゃん?」
彼女の一連の行動があまりにも自然的かつ事務的である事にサキ、カコが呼び掛ける。だが虚しくもチョコレート板な扉はガチャンと音を鳴らす
「ま、まあ色々と学業とか忙しいと思うけど、我が校の人間は全員応援しますよ、そうだ学校便りに――」
校長の話が何も入ってこなかった。
ただ最近、彼女としっかりと対話が出来ていない事にサキの脳はジャックされていた。
「――って事で、いいかな?美鴨さん?」
「へぇ?え、あ、はい!」
校長の目先が自身に向けられても、頭はボンヤリとしていた。丸で他人事のような気分で、ジッと書斎のノートパソコンの角を見ていた。
「運営メールに書いてる通り、親御さんにもしっかりとこの事を伝えて本番に備えてください、何か私達にサポート出来る事があれば――」
何を考えているのか、纏まらない。
だから、口の中で舌を噛む。
何をして何をしたら良かったのか分からない。
だから、拳を強く握って目を閉じる。
「“ここからが”本当の、始まりです――」
声にできない想いが喉にイガイガと刺さる。
「んじゃあ、皆さん頑張ってくださいね」
校長の話が終わったのか、カコが手を握って
サキを扉まで誘導していく。
握る手が少し痛いぐらい力が入ってる。
「カコ?」
エミィは何も言わないし、顔にも出していない。
だからカコは一瞥して伏目になる。
「こっち、来て……」
――――キーンコーンカーンコーン
今日一日中、テストだったので後は帰るだけ。
それを讃える鐘が鳴る。
「で、でも……」
噤む。
彼女があまりにも、悔しそうに涙を溢しているから
黙る。
彼女があまりにも、嬉しそうに頬に涙を流してるから
階段を登る2人。
連れて行かれながらサキはフラッシュバックの様に
映像を、あの時の、あの時間を断片的に流し出す。
『“アイドルに絶対になりたいってさ”』
1つずつ、1秒ずつ
『そりゃ、ありますよ……ただアタシには向いていない事は、サキでも単純明快ですよね』
そして一粒ずつ、一雫ずつ
『わ、ワタシもね、本気でアイドル目指してたんだ……隠れてオーディションとかも受けたりしたし
いっぱいダンスの練習とか頑張った……』
サキは流して行く、流して行く。
何の為に、どうしてか分からないけれど
2人は泣いていた。
階段を駆け上がる、その瞬間に落ちた涙すらも
彼女達には聞こえない。
――ガチャ!!
いつもの屋上は空高く、息がしやすい。
7月が夏だと思い知らされる日照だ。
勢いよく2人が身を出す。その瞬間でも手を繋ぐ。
「……2人揃って、何なんですか?」
屋上の奥の柵にイマが寄りかかっていた。
カコは息を整える隙を縫って放つ。
「イマと話がしたい!」
サキが静止する。
風が吹き曝すままに3人自慢の髪も、今だけの制服も靡いていくけれど、気にしてはいけない。
「話をしたい……?」
難問を突きつけられたみたいに、口にする。
何も言わないカコは自身の涙を乱暴に拭き取り
彼女へと近づく。
「イマちゃんは本当に、シャイだもんね」
「……カコ、貴女もサキに感化されたんですか?アタシの事なんて、気にしなくていいんですって」
サキも呼応して近づく。
「“アタシの事なんて”?何言ってるのイマちゃん!」
詰め寄るカコ。
靴の足先と足先が当たる距離感だ。
「あの時!あの大雨の時に、誓ったでしょ!!」
熱弁する、そして涙で滲む目。
イマは彼女の胸を見るばかり。
『だからこそ大好きな2人と、この3人で!
アイドルを目指して歌もダンスもぜーんぶ頑張って!色んな人に笑顔を届けたい……美鴨サキっ!』
「忘れたとは言わせない!でしょ、サキ?」
ムギュとイマの頬を抱えて、強引に目を合わせるサキ
「当たり前の当たり前、イマ!どうして、イマは素直に喜ばないの!!一次審査で何があったの!!」
正面を向いても、イマには生気が宿ってない目。
『だからこそ自分には無い物を持っている
2人に倣って成長し、一期一会、その瞬間の人々を大切にしていきたい……新岡イマ』
何も言わない時間が続く。
屋上に3人の影に、根気よく詰め寄る2人の図。
「ワタシ、イマが完璧なんて完璧に想った事、一度もないからね……」
「な、何を言ってるんですか?」
目線を逸らす事なくカコが放つ。
動揺が見えるイマ。
それまで軽く臍の前で組んでいた手が解かれた。
『だからこそ……2人に支えられながらも
ワタシがワタシであるように自然体に、挫折した
この夢を絶対に叶えたい、櫟木カコ!!』
サキがクスッと笑う。
「私も!イマは真面目過ぎてロボットみたいだし。頑固だし!本音を話す時なんて稀だし!」
イマが頬を赤くする。
拳を作って、顔を隠すように振り返る。
「うんうん!変にコッペパン好きだし、変にアイドル好きだし!歌が少し苦手で、それでも頑張ってるし何よりも努力を怠らない……」
カラスが羽を伸ばして煩く鳴いている。
徐々に茜に染まる空には雲一つ漂ってる。
あたかも、それだけを残しているみたいに
「だけど、私はそんなイマが大好きだよ!」
ダブルピースを披露して、白い歯を見せる。
「ワタシも、そんな貴女が大好き」
胸に手を乗せて、目を閉じて言葉を紡ぐ。
やがて、一つの雲は三つに分裂する。
けれど個々は遠くへ行かずに互いに寄り添うように。
2人を背にしたイマは、そんな雲模様を目にしていた
「やっぱり……」そう呟いて、2人に顔を見せる。
そのショートカットの髪が
鋭いクールな目つきが、硬い表情だった彼女が
ゆっくりと解かれていく。
「……アタシも、そんな2人が……大好きです」
顔は斜めを向いていて、両手は後ろに組んでいた。
いつか、きっと3人は分かっていた。
こうして、笑い合える日常が尊いのだと。
「うん、ええ……やはり、言うべきですね」
そして、イマは硬く石のように噤む口を開いた。
息がスッと入った第一声を2人は聞き入る。
――――トワイライトが輝き出す放課後の屋上
そこに飛び交う、驚嘆の声。
「ええ!!」「そ、そうだった……んだ」
「2人には、水を差したくなかったので逸早く、校長室を後にしましたが――ハァ……」
イマは溜息を吐いた。
それは何処か呆れが含まれていた。
「笑ってしまいますよね……0次審査だとか、練習メニューやら、計画を立てていた張本人がこの様な結果なのですからね」
「で、でも喜んでいいんじゃない?だって二次審査行けたんだしょ?」
その事実を受けながら、サキは指摘していた。
窄めた口をイマは横目に。
「ええ、素直に嬉しいです」
ここで小さくサキがカコに耳打ちする。
「え、嬉しそうに見える?」
「見えなーい」
「ただ、ですよ……不可解です。一次審査にてアタシは全く自分をアピール出来ずに無様に終わったんですよ?理解ができません」
思案する様に顎を触るカコ。
彼女はイマの隣で、柵に寄りかかってみている。
そんなカコのスカート裾がイマの太腿に触れる。
「うーん、何でだろう……」
「謎です。理解できないです。それに納得も整理も全くできないです。一次審査終わりは、2人には決して口には出したくない事だったので尚更、傷が深いです」
淡々と連ら連らと、また述べる。
唸る2人を目の前にサキは発光する。
「悩んでいても、分からないしさ!結局は二次行けたんだし!これをもっと喜ぶべきだよ!!」
発光は眩しい。ただ、目が慣れてしまえば案外、直視は出来るもの。イマとカコが互いを見合うと微笑む。
「さあ、取り敢えずテストも終わったし〜!!
二次も突破できたし最高&解放だ!!」
それからサキを先頭に屋上を出る。
後の2人は、手を繋いでいた。
その方が安心するからと、イマから声掛けがあった。
――――二次審査開始まで残り 26日!!
次回!25話にて0次〜1次審査編 完結します。
再来週からいよいよ2次審査です、ありがとう。
本当にここまで読んで下さってありがと。
毎週2回更新の水・金20時更新ですので目を離さず!!
YouTubeにて作中内楽曲も聞かれるので、そちらもお見逃しなく。




