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第23話 スキル&アプローチ 後編

サキは、頭を激しく抱えると縮こむ。


――――7月1日 新岡イマ 実家

「あぁ〜!もう嫌ダァァ!!」


そこは木造建築の古民家。そして新岡イマの自宅だ。

静かさと侘び寂びを感じる空間は正に勉強が捗るに違いないだろう。


「サキ、うるさい」


「嫌だ〜!!」


夏の日差しが窓辺に寄りかかるサキを照らす。

頭を抱えるその仕草に思わず笑うカコもいた。


机には3人それぞれノート、教科書、参考書が並べられていた。サキのスペースには無造作に散らばるシャーペンと消しカスが騒がしい。



イマは、サキの対面になる様に座っている。

なので余計に勉強嫌いな彼女にはプレッシャーを感じてしまうだろう。


「いいから……アナタが後回しにしたツケがここで来たんですから、否が応でも勉強してください」


丸で幼い子供が親に駄々を捏ねるようにジタバタを繰り返すサキ。


「ほらほら夏休みの補習嫌だもんね!赤点回避するだけだよ?サキちゃん頑張ろ!」


そんな無様な姿に耐えきれなくなったのか、カコはジタバタする彼女を両手で軽く抑える。


「そうですカコの言うとおり、高得点を取ると考えるよりかは赤点回避に全力を尽くしましょう」


「っ、っ〜あぁぁ〜」


2人にせがまれサキは本腰を入れようと大勢を整えていく。裸の足が網戸越しから吹いてきた夏風がスッとくすぐる。


「それに……一次審査の次は二次審査ですよ?」


トドメを刺すようにイマ。


「ここで、耐えるべき事はテストです。ここで怠ったら、その先に待っている景色は見れないですよ?」


そんな事を説く彼女のTシャツにプリントされた、変なウサギのキャラクター。それを見つめるサキ。

ヤケにピンクで、だけど不思議とカワイイ。


「……それで、聞いてます?サキ?」


上の空ではなかった。ただ彼女はイマを直視できなかった。そのTシャツを虚ろに見る。


「1次審査‥‥イマ、何も話してくれないよね」


2人の問答の隙で勉強を1人しきりしていたカコがハッと顔を上げた。さながら、“禁断の質問”を聞いてしまったのだろうか。


そんな具合でカコを一瞥。

それからまた、正面を向き直したサキ。



「‥‥‥‥今は勉強会です、そんな事は後で――」


言いかけて、澱んだ。

その瞬間また夏風が部屋に大きく入り込んだ。

彼女達の髪と、ノートと教科書の紙が


――揺れていく。


「イマちゃん‥‥‥‥?」

危険を察知したのか、言い淀んだ彼女の顔を覗くカコ


彼女は固まっていた、石のように。

ただ、眼だけは強く震えているみたいだ。


「ね、ねぇ取り敢えず今日は勉強しよ2人とも!」


イマの現状の表情を理解した彼女は、話題から遠ざけようと必死に繰り返す。防衛本能的に働いた、その言動は何より2人には届くことはなかった。


「ねぇ、なにかあったか話してよ」


「話しません」


「なんで?」


「話すべきではないと思うからです……」


「え、‥‥‥‥それって何、いつもみたいに恥ずかしいからとかなの、ねえ?」


2人の会話を見守るだけのカコ。


「話したく、ないんです‥‥って」


「可笑しいよ、それ‥‥‥‥一緒に目指しているのに、秘密にする事なんてなくない?」


ギュッとカコはその辺に転がる丸型のクッションを手に取る。そして身に寄せる。その弾力がヤケに重く感じるがその理由が何なのか、カコは固唾を飲み込んで考える。


「アナタはアナタのことだけを考えてください、アタシの事は今はいいんです‥‥だから今は勉強に集中してください」


捲し立てるように、焦るように

イマはサキに語気を強めて放った。


決して、大声ではない。感情的でもなかったのだが

その一言で2人は察する“これ以上、触れるべきではない”と。


「……」


沈黙が流れた。 とても静かだ。

いつかの日照りも影へと移りゆく。

ほんの小さな、風が吹くけれど誰も気にしない。


3人は何も声に出すことはなかった。

最中、イマが無言のまま自身の学習に取り組み始めた。他の2人はそれに釣られた様に参考書や問題集と睨めっこをし始める。


あんなに駄々を捏ねていたサキでさえ

そうする事しか出来ない状況に集中するしかなかった



――時間はあっという間に過ぎ、テスト当日。

サキはノイズを抱えながらも、死に物狂いで勉強をこなしてきた。赤点回避のために、何をするべきか。


それをイマに徹底的に叩き込まれ、そして鞭を打ち続けてきた。“あの時”の空気感や緊迫感は胸に感じつつ、繰り返し、繰り返す。



テスト期間中はダンス練習も歌唱練習も自主的に縛っているサキの事情は誰も知らなかった。

ただ、必死に繰り返す、そして繰り返す。


「終わった〜……」


自分のクラスで、机を抱き枕みたいに抱擁するサキ。

2人とはクラスが違うので、テスト終了直後では励ましも何もなかった。


教室内は騒がしい。

あの問題、どう解いた?テストお疲れ様!

そんな声が四方八方から流れ出る。


「多分、いけた‥‥っしょ」


自信気に呟いた。誰も聞いちゃいないし

誰にも聞かせようとも思っていなかった。

ただ、空気を吐くように当たり前に呟いた。


――――ピンポンパーンポーン


『校長先生から生徒の呼び出しです。呼ばれた生徒は校長室へ速やかにお越しください』


生徒達が生み出す雑音に負けじと

それは廊下に、教室に鳴り響く。


『2年A組 櫟木カコさん』


「へ?カコ?」


呼び出された生徒の名前に反応するサキ。

眠気ボケの彼女は何故、カコが呼ばれているのか

全くボンヤリしていた。


『2年B組 新岡イマ、同じくB組 篠宮エミィ』


ガタンと椅子から滑り落ちるサキ。


「へぇ‥‥?」


彼女は雑音を掻き分けて放送を注意深く聞く。


『2年C組 美鴨サキさん――以上の生徒は校長室へ速やかにお越しください』


「なんか‥‥やらかし‥‥た?私達‥‥!」


テストでの疲労と眠気そして衝撃によって彼女の身体は瞬時には動いてはくれなかった。


ふとサキは教室を見渡す。

他の生徒達は彼女を見て、苦笑いする。

また、茶化す物もいた。


「ええ〜身に覚えない!」


そう言いながら教室を勢いよく、出ていく。

廊下にはカコもイマもエミィも見当たらない。

先に行ってしまったのかと、焦るサキ。


「私、なんもやってません!!」


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