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第21話 ここから 後編


「あと、もう少しだ……」


サキは感慨深かくなっているのか、照らされた腕に感じる暑さをじっくりと感じる。


――ドンッ!!

ここで屋上の扉が勢いよく、開いた。


「うわっ!!な、なにっ!?」


サキは唐突な物音に思わず立ち上がる。


「なんですか……幽霊でも見たような顔をして」


イマとエミィが揃ってやってきた。

2人の手元にはカバンが見える。


6月26日月曜日、平日。いつも通りに学校はあるが

エミィとイマは早退。学校からはそれぞれ、オーディションの事は伝えて了承も既にもらっているのだ。


「まあアナタ達にもエミィの挨拶を差し上げても!エミィは別に構わないのだけど」


エミィが自慢のポニーテールを揺らして、声高らかに放つ

隣に立つイマとの身長は意外にもあって、イマが小さく見える。


「と言うことです、なので2人とも行ってきます」


彼女は、また淡々と述べて踵を返し始めた。


「あぁ〜待ってよイマ!」 「イマちゃん?」


2人が慌てて席を立つ。

サキはイマの柔らかな肌に触れると、その手は微かに震えていた。震えを感じるサキに彼女は振り返ると彼女の目線は地面を向いていた。


「……冗談……ですよ」


彼女はそうして肘をもう片方の腕で掴み寄せる。

そうしてカコが後からやってきて、一瞥。


「本当にサキとカコは凄いですね……」

「凄い?」


サキが聞き返す。

軽く、そしてゆっくりとイマに一歩近づく。


「アタシには出来ないんですよ、他人を無条件に笑顔にさせれるような仕草も言葉も……優しさも」


いつもよりも低い、そして小さな声だ。

サキとカコの2人を一瞥しては目が泳いでは地面を覗く。


「何言ってるのさイマちゃん、イマちゃんらしくないよ」


弱気な彼女に、カコは呼びかける。

エミィは腕を組みながら、時折スマホの画面を見て時間を気にする。


「いえ、なんでもないんです」


イマは、ほんのり2人に微笑んで見せて踵を返す。

エミィは彼女が進んだ事を確認すると口を噤んだまま、その場を後にした。


「ねっ!話して……前に私が私の弱音を話したみたいに、もっと詳しくイマの弱音も話して!」


サキが背中越しに必死に呼び止める。

そして肩に勢いよく手を置いて止まらない彼女を止める。


「サキ……アタシも頑張るので、祈っていてください」


一言そう放つと振り返らずにイマは去っていく。

最後の一言を聞いたサキは何も言えずに、そしてただ小さく手を握りしめる。


「どうしたのかな……イマちゃん、イマちゃんのあんなに緊張している姿とか初めてワタシ見た」


「不安そうだった……ね」


残された2人はベンチの上で時を過ごす。

弁当箱を開けるカコにサキは珍しく何も言わなかった。

カコもカコで何かを無闇に話題に出さなかった。


「こう言う時に、ちゃんと支えれれば良かったな……」


ポロッとサキは漏らす。

弁当を咀嚼するカコは「うん」と口を開かずに喉の奥で答えてみせた。


――――6月26日 18時頃 某高速道路

時はあっという間に進み今日の一次審査は終了した。

新岡イマ、篠宮エミィの一次審査もしたがって無事に終えることが出来た。


イマはエミィの車で送迎をしてもらっているのだが

車内は沈黙が長く続いてる。誰1人として口を開かない状態が数十分以上続いてる。


黒塗りの高級車は、シック。

それでいて宵闇の中で燦然と輝く月明かりも完璧に反射する。街明かりも全てを反射するけれど、車内からはその姿を見る事はできない。


「なんで……?」


長く続いた沈黙の中で問いかけたエミィ。

当然それは真隣で車窓をただ眺める彼女へ向けてだ。

彼女の表情は強張っている。怒りを孕んでいるのか貧乏揺りも激しかった。


「聞いてる?新岡イマ!」


イマはすぐに反応はしなかった。

背もたれに力なく寄りかかる訳でもなく、ただ直角のまま姿勢よく座る。その姿がエミィには不気味に思えた。


「聞いています……」


「なら直ぐに答えなさいよ、なんでアレにしたの?」


エミィはシートベルトを撫でた。

邪魔になった首筋の毛先を払って、夜の外を横目で流す


「……今回は残念でした、サキにもカコにも申し訳ないですね」


「違う、エミィが聞きたいのはどうして自信持って披露できる曲じゃなくて『シャイナガール』なんて選んだのって言ってるのよ」


エミィがいつも以上に語気を強めた。

イマは表情は変えなかった。


「好きだからです……あの曲が……」


「でも!アナタ……!」


言葉につっかえたエミィ。

静寂がまたひっそりと包み込もうとしていた。


――ポーン

『料金は――』


車が減速し徐行し始めると、無機質な自動音声が鳴り始めるが誰も気にも留めない。


そのまま、その瞬間にエミィが声を絞り出した


「“緊張して一言も声出なかったじゃない!!”」


「――です」


車がまた徐々にスピードを上げて走り出す。

車窓からはイマが見知った建物達が見え始める。


「ええ、そうです……」


淡々と力なく放つイマ。


「なに?諦めてるの?」


「そう捉えてもらっても構いません、合理的に考えてあの場で何も出来なかった人間が辿り着けるような場ではありません……ここまで来れたのは全て奇跡でしかないんです」


エミィは呆れたのかため息を漏らす。

そしてイマの横顔を一瞥し、ドサっと沈むように背中をつける。


「アンタ……って素直じゃないわね……」


「素直ですよ……」


「もっとあるでしょ?美鴨サキみたいに…………いえ、もうなんでもないわ、でもねアンタさ」


彼女が心の奥では消沈しているのは察すると

エミィは何かを言いかけて辞める。


代わりにイマの頬に指を突き立てて放った。


「っ、なんですか?」


「――そう簡単に物事を諦めるのは愚者がすることよ」


次回更新は7月1日水曜日20時!!

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