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第20話 ここから 前編

「歌います‥‥聞いてください」


それから胸ポケットにかけていたボストン眼鏡を装着。

準備は整った、後は自分自身を曝け出すだけ。

そう脳内で語って、深く呼吸をする。


「『キュートアグレシッブ!』」


キュートアグレシッブ!危険な偶像によるセカンドシングル。攻撃性溢れる歌詞に、同じく攻撃性に満ちたロック調が聞く人々の喉、そして心を突き刺す。


「努力も根性ないアタシ!誰から構わず、嘘方便

勘違いする事は少ないけれど本音にぶつかる事はある」


危険な偶像のメンバー立花藍、そして黒羽三葉による等身大で描かれた“自然体”そして“強烈な自己主張”の詩は当時インディーアイドルとして頭角を表した彼女達に圧倒的な爆発力を生み出した。


この曲で信者を倍増させたと言っても過言ではない。

――――言わば本曲は『暴力的な聖歌』


櫟木カコ、その弱々しいとも捉えられるビジュアルから出たその刺々しい詩は、それはもう詩ではなく、魂による本音であると認識してしまう。



「アレレ、コレレってどこにあるの」



審査員の眼光は、目の前に立つカコを捉える。

先ほどの圧倒的なパフォーマンスを魅せた黒石アイの余韻が完全に消え去ったと言われれば、実はそうでもない。


「アタシのホントの居場所って?」


ただ正面の少女の力強く、魂から訴える声に――

耳を、目を心を背ける事は出来ない。


ここまでカコは、まだ身震いしている。

ダンスはまだ魅せない。そして楽曲、音源は従ってゼロ。

裸のアカペラは体を休ます事はない。


「アタシのホントの、居処って?」


サビ前の獣が唸るかのようなボイスボーカル。

審査員はそれに身構え、その先の本編に意識を向ける


――ただ、ここでカコが魅せたのは。余韻だった。

サビに一気に入らず、一拍いやニ拍、三拍と……

その間に彼女は深呼吸をして、審査員そして背面に控える応募者達に笑顔を見せていた。


その笑顔は、遠慮気味。

本来の彼女を一瞬だったが見せる。

笑みは他の応募者一人一人に向けられると、全員が黒目を大きくするのだった。


審査員の一部はサビ前で終了なのかと受け止め、コクリと頷いたり、手元にある審査票とカコの応募書類を見つめ直す審査員もいた。


「キュートアグレシッブ!!」


――それは不意打ちだった。

あの余韻と余白は狙いだったのだろうか。

大きな助走をつけるように、彼女はスキップを踏み出す。次に大きなドスッと音を出してそれを強制ストップ。


「フラッシュモブ、期待してスキップをキャンセルして!こんなアタシだけど忘れてやらないぜ!」


あまりにも、見た目の想像と似つかない暴力的な歌い方と本来の楽曲振り付けの忠実性。


その彼女の姿に誰もが眉を寄せ、唾を飲み込む。


「別にいいぜ!こんなアタシだけど!ベロを出して笑ってくれ」


ただの不意打ちを狙った物ではない、ギャップを誘っていたわけでもない。破天荒というわけでもない。

そう、感覚的に審査員の誰もが感じる


「許さなくて、別に結構なんだぜ?」


そのムーブはまるで、“感情の動きその物”

序盤の静止しつつ、曲に合った暴力的なボイスボーカルは審査員の芯を捉えた叫び。


サビ前の余白は黒石アイという圧倒的な人間を前にした後に控える応募者の心の緊張を解く。

きっと、それが彼女なりの配慮の形。


「……ハァハァ……い、以上です……」


そして、サビの全てを叩き込むような応酬は

“それでも自分自身を見てくれ”という訴え。


現に室内の全員が、彼女に釘付けだった。


カコの呼吸は酷く乱れる。なんとか落ち着こうと深呼吸を繰り返しても一向に落ち着かない。

千鳥足なんて物じゃない程にふらつく彼女。


「大丈夫……歩ける?」「あ、呼吸ちゃんとしてみて」

「私の肩、貸してあげるよ櫟木さん」


そんな彼女に一目散に駆け付けたのは、カコ以降の出番を控えた応募者達だった。

審査員の1人も気づいた時には椅子を引いていたが、その助け合う姿を見て引っ込めた。


「あ、ありがとう……ございます」


1人、1人の瞳をしっかりと見て、感謝を述べる。

カコは三人の見知らぬ応募者達に介護されながら自席へ。

ここでやっと彼女は呼吸を落ち着き直すことが出来た。


――――6月26日 学校 屋上

いつもの屋上にはサキ、カコのみ。

ベンチに飾らず腰を下ろすカコに、サキは飛びつく。


「カコ〜!!改めてお疲れさま〜!本当に頑張ったね!めちゃくちゃに祈ってたよ!」


「ありがと〜サキちゃんも頑張ったね!」


2人は互いの体温を感じながら、6月の肌に張り付くような夏日を感じる。サキはカコの隣に座り直すと、夏制服から大幅にはみ出た腕を太陽に照らしてみる。


「あと、もう少しだ……」


サキは感慨深かくなっているのか、照らされた腕に感じる暑さをじっくりと感じる。


――ドンッ!!

ここで屋上の扉が勢いよく、開いた。


「うわっ!!な、なにっ!?」

今週から週2しようと思います!

水・金の20時投稿です!1話のボリュームを少し抑えて一話一話を手軽に読めるようにしました!

次回更新は26日金曜日20時です!

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