第19話 キュートアグレシッブ!
唐突な事で声を上げてしまうと、口いっぱいに広がったパフェの幸せ空間が一瞬にして流れ落ちてしまった。
「な、何でいるのミライ姉ー!」
白のブラウスと黒のパンツ、頭にはカンカン帽子。
シンプルながらお洒落でクールな着こなし、大人な雰囲気が香るそんなサキの姉だ。
ミライは腰に手を添えて、呆れた声で放つ。
「なんでって‥‥サキを車で送るためですけど?丁度、アンタがこの店に入ってくるのを見たのよ」
「あっ、そっかそっか、ありがとミライ姉!」
テーブル席の空席をガラッと引いてミライは頬杖をつくと、サキと葵を交互に覗く。
「あら、お友達?」
パフェを食べ幸福顔のサキ。
「っうん!一次審査で同じ組だった葵ちゃんね!」
自身の事を尋ねられて鳥海葵、本人は手堅く頭を下げると自己紹介を告げる。
「始めまして、鳥海葵です!サキさんとはついさっき知り合ったばかりですが、神様みたいな人で、素敵ですね!」
「ふーん、葵ちゃんね‥‥可愛い顔してんじゃん、私サキの姉のミライ、宜しくね」
葵にはニコッとして応えると、サキの方を見るとジトっとした湿度の高い目線を送る。
「神様?何したの‥‥サキ?こんな可愛い子を誑かしたらダメじゃない」
「ふぇ?葵ちゃんにパフェ奢ってるだけだよ先輩はやっぱり後輩ちゃんに何かを奢るのは当然でしょ?」
「はぁ‥‥生意気に先輩面しちゃって、まあいいけど早く食べちゃって帰るわよ」
「はぁーい」
姉妹の会話を遮らないように、人知れずパフェを口に入れては感動する葵。“甘さに溺れる”その意味を理解した最中であった。
「葵ちゃんも良かったら送ってくけど、家どこかな?」
頬を落としていた葵は、いつの間にかパフェを全て食べ終えていたらしい。そんな矢先に尋ねられると、口元をテーブルに備わっていたティッシュで、サッと引き取る。
「あっ、えっと、うち秋田県が実家で今回は泊まりがけで来たんです!」
「おお、凄いじゃんサキなら絶対出来ない‥‥それじゃあ、泊まってるホテルまで連れてってあげるよ?」
「ホントですか?大丈夫ですか‥‥?うちみたいな今日出会ったばかりの部外者に‥‥」
ミライは被っていたカンカン帽子を葵に被せた。
そして微笑みかけて告げた。
「着実にアイドルとして、タレントとして歩み続けてる女の子に、必要以上に苦労は強いりたくないの‥‥」
そのままミライは席から立ち上がり――
「早く行くよ、サキ」
「あっ、うん!車で待ってて!」
その後、ミライは葵を一瞥。
「その帽子、あげるよ葵ちゃん」
帽子で半分影が出来ている葵の瞳はキラキラと反射する。
葵が上目遣いでミライを見て、微笑むと
「ありがとうございます!」
有無を言わずに手指を広げて振り、その場を離れていく。
そんな彼女の背に目線を合わせ呆然とする、葵。
「お姉さん、素敵な人ですね‥‥」
「え?そう?」
2人は、その後パフェ屋を後にすると姉ミライの車へ乗車する。葵は都内のカプセルホテルまで送ることになった。
後部座席に2人。談笑をしながら一時を過ごす。
「ほぇ〜葵ちゃんインターネットで活動してたんだね」
「そうなんです、親友と一緒に‥‥まあ、でも本当に素人ですよ、歌ってみた!とか踊ってみた!とかって」
苦虫を噛み潰したような、そんな表情と苦笑いだ。
「え、そんな事ないよ行動力すごい!それに、今日見たら全然、歌もダンスもオーディションに通用するぐらい魅力的だった!」
「そう言って頂き、ありがとうございます‥‥」
歯切れ悪くいうと、頭を左右に軽く振る。
カンカン帽子も同じくブレていくが、その重さは大したことないのを知る葵。
葵はポケットからスマホを取り出して、その小さな顔の横に持ってきてアピールをする。
「そうだ、サキさん烏滸がましいと思うんですが、連絡先交換してくれませんか?」
「もちろん、もちろん!」
サキも尽かさず、スマホを取り出すと、2人は連絡先を交換することができた。終始、2人はニコニコとしていて、どんな時もメッセージを送り合える事を祝福する。
車内は多少の揺れが付きもの。
ただ、その振動も心地よく思える夕方頃であった。
――――6月25日 サキの部屋
彼女の自室は、散らかっていると言われれば散らかっていて、そうではないと言われればそうでもない。
壁には大切そうに飾る、ライブポスターやTシャツ。
棚には様々なアイドルのアクリルスタンドとプロマイドを百均などで買える、透明なコレクションケースに保管している。
「食べる?なんか今、流行ってるチョコ」
「いりません」
サキは自室で寛くと、丸机を肘置きにして菓子を貪る。
それを無表情、顔色ひとつ変えずにノータイムで答えるイマが対面している。
「意外と美味しいよ!一回、全部溶かしきったチョコを、またそのまま冷やして固めてんだって」
「ただの、チョコじゃないですか‥‥それ、本当に美味しいんですか?」
「うん、なんなパサッとしてるんだけど砂みたいにボソボソするというかザラついてるの」
それを聞いたイマは、ゴミを見るような目でサキを覗く。けれど、そんなのを跳ね飛ばすようにチョコを飾る。
ボシャ、バシャと彼女の口内から不気味でとてもチョコを食べると思えない音が聞こえるので、イマはゾワっと腕に冷たい神経が通るのを感じてしまった。
「それよりカコ大丈夫かなあ〜ちゃんと出来るかな?」
「あの子なら、大丈夫ですよ‥‥繊細ですけど、誰よりも伸び代があって強い人ですから」
イマは、正座をしていてその姿勢は綺麗に直角。
その状態が何分も続いている。
「そ、そうだよね」
部屋の時計がチクッ、タクッと鳴るたびにサキは胸の内がソワソワしていて居ても経ってもいられなかった。
「カコは、アナタが審査の日‥‥何よりも、祈っていましたよ。“大丈夫、大丈夫”なんて唱えながら」
「え?そうなの!」
「アタシも心配ですが、それよりも期待が大きいです」
イマはいつも通り、淡々としながら語る。
その語り口はいつにもまして感情が籠ってるように感じたサキ。彼女はニヤリとしつつ足の先でイマの膝を突いた。
「なんですか‥‥?」
「そう言って、誰よりも私達のことを思ってくれてるのがイマでしょ?隠さないでいいんだからなあ〜このこの〜」
また何度も足先で突く茶化しを続ける。
するとイマの眉がピクピクと動くと、そのサキの足先を両手で鷲掴みする。
「やめてください、くすぐったいです」
「え?くすぐったいの!?膝が?えぇ〜新しい一面だ!」
そのイマの鷲掴みの威力はそれほど強くないので直ぐに解放されたサキは足を引っ込める。
「話を戻しますが、あの子がアナタにしてやってきたように、今度はアナタが祈ってあげてくださいよ」
強めの咳払いをした後、話を戻すイマ。
ほんのり、頬が赤くなっているのはサキは気付かない。
「うん、祈るよ‥‥カコが、皆んなが‥‥一次を越えれますようにって‥‥」
窓から日光が差し込んできてサキを照らした。
その日光は暖かいのではなく、暑いと思えるほどに温度が固まっていたのだが、彼女は気にせず
――祈り続けるのだった。
――――同時刻 都内某所
審査室は、まさに凍えていた。
その者が前に出た瞬間、負けを確信したような
または、自分じゃ超えることの出来ない強敵だと理解して
圧倒され、打ちのめされていくような。
そんな静まり返り、ついには唾を呑む音が部屋に響き渡
「どうもどうも、ありがとうございました!流石は、“千年に一度の逸材”黒石アイさんだ‥‥」
審査員の1人が立ち上がり、拍手を送る。
パン、パンと単発の拍手は波紋のように広がっていき、審査員そして最終的には応募者にも強要される渦を巻いた。
「さあさあ、審査もまだ始まったばかりですからここまでにして‥‥続けてNo.278櫟木カコさん」
カコは一度天井を見つめて、それから審査員、他の応募者を一瞥してから返事を行った。
「はい!」
返事はハッキリと出来たが、それどころじゃなかった。
自身の前の番号の圧倒的な華とパフォーマンスを目に審査室の空気はNo.277黒石アイ一色になっているのは、理解せざるえない。
せっかく、オシャレをして可愛い花柄のスカートを履いてきたというのに両手で強く握りしめてシワになってしまっている。
身体も強張り、立ち上がって動いても
まるでブリキのロボットかのようにぎこちない。
――それでも
「278番!櫟木カコです!よろしくお願いします」
それでも、叶えたい夢を
一度終わった夢をまた終わらせない為に。
「ワタシを見てください‥‥」
カコは呼吸を整えて、一言発する。
審査員は喉を鳴らし、非礼を詫びるように姿勢を整える
それは文字通り冷え切り、そして熱狂し終えた室内を強制的にリセットさせるものだった。
「歌います‥‥聞いてください」
それから胸ポケットにかけていたボストン眼鏡を装着。
準備は整った、後は自分自身を曝け出すだけ。
そう脳内で語って、深く呼吸をする。
「『キュートアグレシッブ!』」
次回更新は来週金曜6月19日 20時!
カコ頑張れ!!
彼女が選曲した「キュートアグレシッブ!」 はYouTubeにて公開中!
【PV伸びてます!ありがとう!】
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