第18話 パフェと邂逅
――6月24日 一次審査 終了後
サキは審査会場から帰宅する。
肩をブラブラと揺らしながら気持ち表情が柔らかい彼女。
周囲が表情重くして次々と会場を後にするのを尻目に静かに彼女は呼吸を整える。
「うん‥‥きっと、大丈夫、大丈夫‥‥」
サキはズボンのポケットからスマホをスッと取り出すと、いち早く連絡を取ったのは、イマ、カコ、エミィ全員が入っているグループチャットである。
『一次審査終わったよ!』既読3
メッセージを送ってすぐに既読が全員分付く。
『お疲れ様サキちゃん!手応えはどうだった?』
『うん!伸び伸びと予定通りに出来た気がする!』
『お疲れです、サキ。取り敢えずは気を休めてください。‥‥審査員にも十分に意表は突けたのではないでしょうか』
『うーん、どうだろう‥‥でも、一人私も魅入っちゃった子がいたんだよね、凄かったなぁ』
『取り敢えず美鴨サキ!待ってなさい!アナタが先に審査員を虜にしてもエミィが1番って事は変わらないわ!』
メッセージは見る見る連られていく。
全員が全員の文字からしっかりとサキは熱を感じる。
『うん!皆んなも頑張ってね!』
一度、サキはスマホを暗くさせ片手に。
自動ドアの前を一歩前に立つと、生暖かい風が彼女の髪を揺らすと、スッと首にその風を感じる。
「あっ!いたいたいた!」
会場から一歩前に出た、その時。サキに目掛けて自身の胸辺りぐらいしかない背丈の女の子がやって来た。
「ん?ええ?こんにちは!」
咄嗟に挨拶をしてしまうサキだが、それすらも彼女らしいのか、その子は「アハハハ!こんにちは!」と元気よく、その青髪を揺らす。
「美鴨サキちゃんだよね?」
その子は確かめるように名前を呼ぶとサキの手を取り、目の奥の奥まで輝かせた。その眼差しにサキすら一瞬、身を引いてしまうのだった。
「うち!とりっうみっあおいっ!ついさっき、一緒に一次審査してました!覚えてますか!?」
「あぁうんっ!覚えてるよ葵ちゃん!凄かったよ、ダンスも歌も!なんていうか〜元気な感じで見ていて、ワクワクしたんだ!」
サキはその純粋な姿と元気溌剌さに微笑みを浮かべる。
自身より背が低いのが原因なのか、彼女の愛嬌がそうさせているのか。
「サキさんの方こそ、凄かったです!なんですかアレ!」
葵はサキの隣へ行き、初対面にも関わらず腕に手を通して共に目的地なく歩んでいくのだが‥‥
「あ、え〜と創作ダンス‥‥とは違うけど、危険な偶像の元々ある振り付けを、たくさん持って来て貼っ付けてやってみたんだ〜」
それがあまりにも自然で、まるで昔からの友人或いは姉妹だったのではないかと思わせる。
「なっ!えっ‥‥おっかねぇ〜」
葵は低く唸った。
「え、おっかねぇ?」
「あ、すみません!言葉遣いが悪かったです!」
「ううん、悪くないよ!むしろ可愛い!どこかの方言?」
直ちに訂正する彼女の顔はひたすらに焦っていて、何かを隠し通そうとしているのは、何となくサキも察したのか思った通りにスルッと口にする。
「んええ!ホントですか?じ、実はうち秋田県出身で方言とか強めのじっちゃんと一緒に住んでてぇ〜」
「なるほどなるほど!イイじゃん!隠さない方がいいよ葵ちゃん、可愛いし!面白い話だし!」
先ほどまで、腕を通していた葵は適切な距離感まで離れているが、気まずさは不思議と感じないサキ。
ただ二人の歩幅は、1.5歩ほどのタイムラグがあった。
「秋田県から来たの?随分、長旅だったね!てか、本当に方言って憧れるよっ!千葉とか何にもないから尚更!アイドルちゃんとかポロッと出す方言とか、もう最高だし!」
そのタイムラグを自ら、進んで調整したのはサキであった。それは厚かましくもなく、白々しさも感じない絶妙なバランス感。
そんな体温感を葵は六月の生暖かい風と一緒に実感する
「そっか‥‥」
葵は嫌味も嫉妬も何も感じ得ない彼女との会話を、噛み締めるのか口角を上げて下唇を上唇で包み込む。
「そういや、葵ちゃんって私の一個下?もしかして私、先輩だったり!?」
「えっと、はい15歳です!新高校一年生です!」
サキはテンポ崩さず、葵の隣で会話をする。
その会話は何も深く詮索する訳でも何でもない、世間話。
「ヤバっ15歳かぁ〜、それで地元離れて来たって訳でしょ?私なら絶対できないかも‥‥」
「いえいえ、そんな‥‥うちはそんな大した事ないですよ、だって無理言ってここまで来たんですから」
葵は少し俯いた、自身の足元が一歩、また一歩と進んでいくのだが、前進している気には彼女はならなかった。
「家族に反対されてたの?」
「‥‥いえ、応援してくれました‥‥ただ、うち自身の気持ち的な問題ってだけです!」
周囲にはビル群が立ち並び、通行人も車も人知れず通り過ぎては、何事もなかったかのように、その場にはまた違う人々が通り過ぎていく。
ふとサキはその周囲を見渡して、気持ちが少し掬われた。
「あっ、ごめんなさい辛気臭いですよね〜、サキさんと出会ってまだ1日も経ってないのに、うち少し距離感間違えちゃいましたね!」
頭を抑えて、アハハと笑って見せた。
「そんな事ないよ、葵ちゃん話しやすい子だなって思うよ!私の周りの人達は、こんなに元気な子いないから新鮮な気持ちだし!」
二人は歩みを止めた。丁度、信号が赤になったからだ。
車の走行音が
人々の行き交う足音や会話が
カラスの鳴き声が
街頭ビジョンの音声
そんな雑音が一斉に二人の会話を遮ったような気がした。
先ほどまでは二人だけの世界のように聞こえたのに
それが間違いだったかのように‥‥
前進をやめてしまったからなのか、理由は分からない。
ただ、そんな歪みは本の一瞬でしか葵は感じなかった。
「ねね、葵ちゃん?」
「あっ、はい!サキさん!」
二人は互いに顔を見合わせた。
それからサキはどこか遠くの方を指さして、ニコッと笑うと「葵ちゃんにご褒美をあげるよ‥‥今日までよく頑張ったで賞に」彼女へ囁いた。
その囁きはこの街の喧騒においては誰一人として聞こえやしない。聞こえるのは、サキと葵の二人のみ。
葵は彼女が指さした方へ、自然と追っていた。
その先にあるのは――
「パフェ‥‥奢ってあげる!」
「え?」
葵は、驚愕していながらも自身の胸がギラギラと太陽に照らされたようにジンワリとそして瞬間的に広がる。
「私、先輩だし〜それに葵ちゃんはもう一緒にオーディションを頑張る仲間でもあるし!」
彼女はピース!と力強く葵の胸の前で手を出した。
「そ、そんな!本当にいいんですか?」
「いいよ、いいよ〜」
「だって、今日会ったばかりですし!オーディション仲間と言っても、ライバルなんですよ‥‥」
いつの間にか信号が青に変わっている。
サキは遠慮気味に身体を小さくさせている彼女の手を優しく引く。それは強引ではあるものの、彼女は目を潤わす。
「だからこそ!私は葵ちゃんを応援するし、褒めたい!夢を追うって素敵な事だけど、難しい事だって――」
少女2人はキラキラと反射するアスファルトを蹴飛ばす。
横断歩道の白線と黒を交互に踏む大勢の人々を追い越し、追い抜かれて、それでも暑さは消えてはいない。
「私は、知ってるからさ!」
パフェ屋は、キンキンに冷え切っている。
茹だる暑さから逃げ切った人々ならばずっとその場にいたいと思えるほどだ。
「あぁ〜じゃあ、私はチョコバナナイチゴパフェ!葵ちゃんはどうする?」
「あぁ、えっと〜えっと〜」
メニュー表を見て、どれにしようか悩み果てる葵。
「パフェなんて、今まで何回食べたのかってぐらい食べてないので〜どれがいいのか〜」
「んえっ!本当に?じゃあコレから私が好きなだけ食べさせてあげるよ!まず、パフェ初心者ならば、イチゴパフェを食べれば間違いなしだよ!!」
サキは胸を張った。
イマやカコに向けては絶対に出来ないし、させてくれないので余計に気合いが入っているサキ。
「ホントですか?サキさん、神様みたいですね!本当にありがとうございます!!」
彼女は財布を取り出すと力強く顔の横まで持って来た。
「そりゃ、私は!美鴨サキだからねっ!可愛い可愛い後輩ちゃんの幸せを作るのが先輩だ!!」
葵は口元を覆うと、感激したように拍手を続ける。
2人は注文を済ませると、店内の清涼を堪能する。
「どうしてサキさんは今回のオーディション受けようと思ったんですか?」
パフェ待ちのサキは嬉々としていて今にも歌い出しそうだ。そんな彼女をまじまじと見つめた葵は思い切って質問をしてみた。
「そっか葵ちゃんにはまだ言ってないね!アイドルは私の子供の頃からの夢で、それに私達の夢でもあるんだ!」
「私達の夢?」
彼女は足元が床に付かないので、落ち着かないのか足をパタパタとさせている。
「そう、私とイマとカコの‥‥」
「そうなんですね」
ここでパフェがやって来た。
「お待たせいたしました〜チョコバナナイチゴパフェとイチゴパフェになりまーす!」
来た途端、サキはスマホを持って写真をパシャパシャと撮り始めた。写真を撮り終えると、手を合わせ目を閉じて
「いただきます」と呟く。
その一連を葵は目をまんまるとさせて、次に自分自身も同じ動きを辿ってみた。
「あぁぁ〜美味しいぃ〜」
「んんっ!!うめっ‥‥」
2人がパフェを口に入れた瞬間、ほぼ同じタイミングで
まるで呼応するように、唸った。
そんな弾みに
『サキ、元気そうだね』
ここで見知った声がサキの耳元で聞こえる。
「うわっ!!!!」
唐突な事で声を上げてしまうと、口いっぱいに広がったパフェの幸せ空間が一瞬にして流れ落ちてしまった。
「な、何でいるのミライ姉ー!」
次回更新は来週金曜6月19日 20時!
ストック尽きちゃいました!!
プラスして新連載も準備しているので頭パンクしそう!
あと、葵ちゃんかわいいいい!
【PV伸びてます!ありがとう!】
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