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第17話 一次審査

――6月24日 都内某所 一次審査会場


「では、歌やダンスをワンコーラスやってみてください」


5人の審査員と5人の応募者がその場にはいた。

審査員は白のローテーブルに、その正面にパイプ椅子だけが用意されていると場の全員が腰をそれぞれ据える。


「ではまず、No.210鳥海葵さん」


「はいっ!」


淡々と審査員の1人が告げると背が低く青髪の

可愛らしい女の子がその場から立ち上がる


「鳥っ海っ!葵です!三美神様の『light!light!First!』やりますっ!」


彼女は健気に自己紹介等を伝えると、審査員一人一人の目と目を必死に合わせて笑顔になる。

それから音源も何もない中、彼女はアカペラで歌い踊る。


その場にいた応募者の1人である美鴨サキはそんな彼女に喉を震わせる。興奮なのか自分自身も彼女のリズムを密かに共に取っていた。


「私達は精一杯に生きるんだ〜カーテンの光に照らされて今日も1日を始めますか!!」


精一杯にその小さな身体を動かしていく。

振り付けは完璧に入っていて、プラスして彼女の個性なのかステップの中で丸で水溜りを弾き飛ばすような、そんな軽快さと豪快さが見え隠れしていた。


「ユーモア大事っ!!」


サビに入るとサキは一層、応募者の立場であるに関わらず身を乗り出していた。まるで全く新しい表現を見つけたような、その人だけの個性を浴びるように彼女は胸の中が疼いていて堪らなかった。


「ランラン!ラーラー!ランラン!ラーラー!」


彼女の歌声は、年相応の可愛らしさがある。

どれほど練習してたのだろうピッチも安定していて

審査員らも音やダンスに食い入るようにして見ていた。


「以上っ、鳥海葵でしたっ!!」


審査員らは彼女の技術披露や性格を理解し手元の紙に


・ダンス技術

・歌唱

・性格や個性、等々


書き出していく。

ただ、審査員強張った目力強く唸っている。


それは否めない、サキは先ほどの鳥海葵のパフォーマンスを見た後なのに。と分厚い空気感を潰すようにしてグッと自身の手首を抑えた。


「では‥‥次No.211 稲岡柚子さん」


サキは着実に自分の番号が迫っているのに改めて

呼吸が浅くなって心音が自身に響くのか

目元に力を入れてギュッと目を閉じる。


「大丈夫‥‥大丈夫‥‥‥‥」

サキは心の中で毎秒、毎秒その言葉を繰り返すと

皆を思い出す。家族と、そして



――――一週間前ほど。カラオケ「アルカトラズ」にて


「サキ、もし当日になって不安が破裂しそうになったら何をするべきか分かりますか?」


いつもの幼馴染三人組が個室には集まっていて。

カコもイマも、心配そうにサキを見つめていた。


「え、えっと‥‥」


サキは飲み物を喉に通す。

その味を遠くに感じるほどに思考が回ったのか、はたまた鈍っているのかは彼女は分からなかった。


「いっつも、側にいるでしょ?サキちゃん」


カコが隣に座ってギュッと手を握ってくれた。

体温は高くて、カコの衣服から香るその匂いは

どこか安心感がある。


「アナタがアタシ達の前で一次審査の弱音や不安を吐露したんです‥‥精一杯にアタシ達を頼ってくださいよ」


イマはサキとは対面に座っていたが

カコのその手の平の体温に気を取られている間に

淡々としていて、でも頼り甲斐がある彼女が


「カコもアタシも不安ですが‥‥離れていても心にいてくれる二人がいる。それが前を向ける理由になるんですよ」


自身とくっつくように腰を据えた。

不意に触れた彼女の髪先が首筋にくすぐったい。


もう、2人は何も言わなかったし

サキも2人の存在を感じたままに照れ隠しのように

自然に笑みが溢れてしまった。


――――現在


「では、No.213美鴨サキさん」


胸の音が、雑音が消え去った時には

自分を呼ぶ審査員の声を鮮明に聞き取った。


何も、もう困ることはない。

不安でもいいし弱音を吐いてもいい。


「美鴨サキです!!」


彼女の胸や頭にはいつも側にいてくれる存在がいる。

その存在にゆっくりと触れるように

またはいつもの調子で笑うように美鴨サキは


“その場に太陽のような笑顔を照らす。”


「私は、危険な偶像の『Specials Storys』を披露させてもらいます!」

 


無駄な言葉はなし。ただこの場はパフォーマンスとしての技術や自分を魅せる場なのだから。

全てはパフォーマンスで事足りる。


審査員の鋼鉄な目線は一瞬、曲名を明かした後に審査員同士で何かを確認しあう動きが見られた。

だが、数秒もすれば誰もがサキに注視するフェーズに入る


サキには審査員しか見えない。

背にした同志やライバルとも言える彼女たちの反応は

分からない、だから自分の世界へと存分に入り込めた。


「歌おうよ、みんなで踊ろうよ、皆んなで笑おうよ、」


音源も何も用意されていないし

音源は不要であると事前に知らされていた。

この、一次審査の推測を彼女はふと脳内で呼んだ。


『普通または従来のオーディションの場合、音源持参を推奨されますが、今回は運営そして個人の音源持参は不必要と案内メールで書かれていますが何故か分かりますか?』


『えっ?なんだろ‥‥‥‥全部の実力を見たいから、音源とか無しで見たいんじゃないの?』


『そうです、つまり一次審査は偽りや誤魔化しなどない

 正真正銘の個人を見るためのステージなんですよ』


イマとのやり取りは、強く彼女に脳内で響いた。



「みんなで歌おうよ!」


音源も伴奏も何もない。

だからこそ、個人の呼吸音も椅子や机の軋み音も聞こえる。故に集中力も没入感も全て演者にのしかかる。


サキのダンス力や歌唱は完コピ。


つまり一寸の狂いもないし、再現性も高い。

アーカイブなどで見たまんまをコピーしているからこそ

ライブ感もあるのだが、むしろそれが個性的。


ただ‥‥今回の楽曲の


「1人帰り道でポツリ呟くとね〜

 小さく溜息ついちゃうけど!」


『Specials Storys』は危険な偶像がリリースした最期のシングル曲で本曲をライブで披露する事はなかった。


つまり音声のみ。MVも振り付けも未発表。


「歩いてきた道を辿れば、皆んなが待っているね!」


現在、彼女が振り付けとして披露しているのは

危険な偶像のフォロワーだったり、個人だったりが作成した振り付けではない。


つまり今回、披露するのは完全な美鴨サキのオリジナル。



審査員は懐疑的な目を向けるのか

首を傾げたり、腕を組み始めた。

呆れなのか、恍惚としての物なのか判断がし難い

少しの漏れ出る“溜息”が耳に入るが――


そんなの彼女は気にしない!



「例え、いつも通りの日常じゃなくても

 暗い顔をしている向日葵だったとしても!」


情熱や技術等を見せるならば

もっと良い選曲ができたはずなのに何故、

わざわざ創作ダンスを彼女が持ち出したのか。


「この手を握っていれば、ほら元気出せるや!」



創作ダンス自体が悪いわけではないが

ただ、眉間に皺をより一層に寄せる審査員。

その一瞬の歪みを捉えるようにサキは‥‥


「ほーら」


問いかけるように、そして慰めるのか

はたまた注意を引かせる優しいウィスパーボイスを。


彼女のダンスは基本を抑えつつも

既存の三美神や危険な偶像の楽曲に含まれていた振り付けをバラバラに継ぎ接ぎしていた物。



Aメロは明るい曲調に合わせつつも

まるで湖の中央で佇む白鳥のような切なさが眉や視線で審査員を呑み込む。それは指先一つ一つに正確に水を滴らせるようで身体全てが、表現として機能としているようだ。


「歌おうよ、みんなで踊ろうよ

皆んなで笑おうよ、皆んなで歌おうよ。」


そしてサビに入る頃には

今度は普遍的な“アイドル”らしい

小ぶりなステップをしながらも、愛らしさを補う。



「以上!ありがとうございました!!」


前と後ろからの拍手も喝采も何も無いが

パフォーマンスを終えた彼女の額からは数滴の汗。

息が上がっているがサキは完走の余韻に浸る間もなく自身の席へ。


横目に応募者の顔を窺うことが出来たが、その誰もが伏せてサキを直視しようとしない。

たった1人、彼女の所作を見逃さまいと視線を動かしていたのは鳥海葵であった事はサキは知らなかったが。




―――― 数時間後 一次審査会場

独り。

審査室の無機質な白いテーブルと、その椅子に腰掛ける

審査員のうちの1人・香藤が残っていた。


「なるほど‥‥な‥‥」


彼は審査票を眺め、ほくそ笑む。


「‥‥‥」


彼が審査票を片手にスマホを持つと誰かに電話を繋げる。


「あぁ〜立花、アンタの言う通り‥‥しっかりと良い種と、それ以外を見極めたつもりだ」


部屋の電気は既に消えていて薄暗い中

そのまま音を立てずに立ち上がる。


「残り数日の審査も今日の様な奴がいる事を願ってるよ」

次回更新は来週金曜6月12日 20時!


最近、PV伸びてます!ありがとう!

ブックマーク、感想など、どうかよろしくお願いします!


下記のYouTubeチャンネルにて

作中楽曲が実際に聴けます!


https://www.youtube.com/@%E7%A7%8B%E6%B5%A6%E3%83%A6%E3%82%A4

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