第16話 奇跡の突破!!
――――6月9日 金曜日 昼
屋上にはいつもの3人とエミィ。
エミィは屋上の柵越しに景色を眺めて過ごす。
幼馴染3人は出入り口付近のベンチで談笑。
「てかさぁ来月、期末あんだって!!
やばくない?要らないでしょ!」
「……要らない訳ないです
サキそろそろ本腰入れた方が身のためですよ」
「イマちゃんの言う通り、今度こそ赤点取ったら
そろそろヤバいよ〜サキちゃん〜」
サキが堂々と真ん中に座るから、ギュウギュウになって
窮屈そうに2人はベンチに座っているが、極端に嫌な顔は一つもしていない現状。
「取り敢えず勉強しましょう……アタシが教えますから」
いつも通り、コッペパンを食べるイマ。
「ワタシも、教えれる所は教えてあげるよ〜」
カコは太腿に弁当箱を置いて、時折その箱を持って
箸でゆっくりと食す。
「いーや!勉強する暇あったらダンスとか歌の練習した方が実になるでしょ!」
「……なに言ってるんですか?」
呆れたように、呟くイマ。
「ダメだよサキちゃん!しっかりと勉強もして、その先にあるのが夢とか目標なんだからね?」
カコは優しくも朗らかに、放つと自身の弁当箱から唐揚げを一つ箸で挟みとるとサキの口元へと持っていく。
「あっ!ありがとっカコ!!」
まるで自動ドアのように開いたサキの口に唐揚げが
一気に消えてなくなってしまった。
「あぁ、そうです歌やダンスと言えば――」
イマがコッペパンをモグモグと咀嚼する中
思い出したかのようにポロッと放った。
「“アタシ、書類審査通りました”」
それを聞いた、サキ、カコが動きを止めて
イマの頬張りを一点に見つめていた。
まるで時間が止まったように
そして天地がひっくり返ったような衝撃が走っている。
「はぁ、アナタ達!やっとその話題に入ったわね?」
今しがたまで、屋上の端で佇んでいたエミィがスタッスタッとコンクリートの床を鳴らして遂に動き出す。
「まさかだと思うけど‥‥新岡イマ以外落ちたって事はあり得ないわよね?」
エミィが3人を見下ろすように高飛車に尋ねる。
サキとカコはアタフタ。
「えっ!ちょっと待って今日メール来るの!?
心の準備まだなんだけどっ!!」
「わ、ワタシも今日来るなんて考えてなかったよ
あっ、えとまずはイマちゃん通過おめでとう!」
コッペパンを食べ終えたのか、イマは
その小袋を折り畳む。そしてゆっくりと頷いて
「ありがとうございます」と落ち着いて言葉を紡ぐ。
「いい?一次審査は十日後の19日よ?
少なくとも一週間前に通過メールが来るのは
予測ぐらいできていたんじゃないかしら?」
腕を胸の前で組むエミィ。
その正面でスマホを開いて呼吸を整える2人。
「よ、よし‥‥確認してみるよ!」
サキが意気込む、その横ではカコが瞼をピクつかせていた
「え、ちょ、ちょっとまだ心の準備がサキちゃん‥‥」
カコが弱々しく不安を吐く。
彼女はスマホを持つ、その手を震えている。
「大丈夫!きっと大丈夫っ!」
そういうサキも若干の緊張をしていたのか
瞬きの回数が多かった。
「で、でももし何も来てなかったら‥‥」
エミィはカコの隣に寄ると、その肩にそっと触れる。
「なに弱音吐いてんのよ‥‥
あ、アナタ達がここで落ちてる訳ないでしょ?」
目を泳がせてばかりで一度も目を合わせなかったエミィだったが、それでもその想いをサキ、カコが胸に熱く感じる
「よしっ、開くよ?」
「うっ、うん!」
2人はメールアプリを凝視して
「いっせーのー」
2人の声が重なると
『で!!』
同時にアプリを力強くタップする。
「え‥‥」 「そ、そんなことって‥‥」
サキ、カコが同時に声を漏らす。
刹那、2人の目に映ったのは――
『Girls Storys!』運営局宛からの一通の通告メール。
イマがサキの耳元まで顔を近づけて
スマホ画面を覗く。
エミィも同じくカコの画面を覗く。
「き、き‥‥奇跡だよ!」
サキがそのメール内容をゆっくりとズラッと
読んだ後、声高らかに放った。
それから他の3人を一人一人目を合わせると
ニッコリと笑顔が大きくなっていくサキ。
「ワタシ‥‥初めてだよ、こうやって一歩前進できたの」
カコは涙目。スマホ画面を伏せると
声を震わせながら幸甚を噛み締めていた。
「よかったじゃないですか‥‥」
安堵したように、滅多にしない笑顔を覗かせるイマ。
すると立ち上がると2人の頭にポンッと手を置いた。
エミィはフッーと息を吐いて
3人から少し離れて伸びて
「まあ‥‥そう来なくちゃね」
ボソッと独り言を呟く。
「これを奇跡と呼ぶかどうかは、アタシ達のこれから次第ですから一次審査に向けて一層、気を引き締めましょう」
イマの今後の関してについて一言を添えると
思わず目尻から涙を流すカコ。
その涙を横目に彼女の手を握るサキがいた。
「そうよ、エミィ達はまだ出発点に立ったばかり
その出発点にまだ歩いてすらないってこと――」
エミィが、優雅な立ち姿のまま
その淡麗を曇り空の中ですら輝かせていた。
「念頭に置いて、望むことね」
「‥‥それに改めてそれぞれの家族にこの事を話しておいてください、一次審査当日までのスケジュールなどはアタシが考えていきますので」
書類審査が通った云々の、あの緊張感があっという間に
次のフェーズに対しての事柄へと変わっていく様に
サキは内心、ワクワクしていながらも
「気張っていかないとね!!」
躍起と不安が交差しあった複雑な心境でいたのは事実。
――――秋田県 某市
そこには1人の小柄な女の子。
「おっ、お!おっかね〜!!」
スマホを遠ざけて、田んぼ道を真っ直ぐに
駆け走っていく、
「しっ、しったげまじ!!合格するなんて‥‥んだ!
そうと決まったら東京さ行く計画立てねば!」
◯書類審査 通過者 鳥海葵
――――東京 某撮影スタジオ
「黒石さん出番でーす!」
大勢の大人が音響、照明機材や撮影機材を構える。
誰もが目を奪われる、真っ直ぐで艶やかなその姿が
撮影スタジオの熱を一気に高める。
「本番よーい!!」
それは正に“一千年に一度の逸材”と謳われるのも
納得せざるを得ない“圧倒的な華”を纏う。
「‥‥‥‥はい」
「じゃあ行くよ〜!!」
カチンコの音が鳴ると、彼女のギラついた目つきが
暖かで優しいヒロインの瞳へと変化していった。
◯書類審査 通過者 黒石アイ
―――――――――― 一週間後 6月16日
カラオケ『アルカトラズ』
その個室の中では、2人が長らく沈黙を続けていた。
曲を入れるわけでもなくただスマホを眺めたり
「‥‥‥」
意味もなく、モニターに流れる音楽告知を見る。
そんな時間が続いていた。
「ドリンクバー‥‥取ってくる」
続いていた重苦しいまでの沈黙を切り裂いのは
オーディション応募者“辻凛”。
「飲み物、何がいい?」
「なんでもいい‥‥」
即答したのは辻のバンド仲間で小学からの親友でもあった
その声は低く、ぶっきらぼうである。
「分かった‥‥緑茶にするよ」
席を立つ口実を並べる辻は颯爽と個室を後にする。
部屋を出て、外の空気を吸うと呆れたような溜息を吐く
その調子のままドリンクバーまで歩く。
顔は何に対しても光を通さないそんな虚ろ顔だ。
「ちょ、サキちゃん〜ちゃんと自分の飲み物は
持ってってよ〜」
「あぁ〜はいはい!」
ドリンクバーには辻と同じくらいの歳頃の
キャピキャピとした3人が瞳に映る。
「2人とも、他の人に迷惑になっていますよ」
「あっ、ごめんなさい!ほら、サキちゃんも!」
「っ、あっ!ドリンクバーに固まってすみません!」
1人のショートカットの女の子が2人を抑制すると
3人がコチラを向いて軽くお辞儀をすると
逃げるようにその場から離れていく。
「元気だな‥‥どこの高校の子だろ?」
そんな誰に対して言うでもなく、ボソッと呟きながら
コップを二つ用意して、バーの緑茶の位置にセットする
「あああっ!すみませんっ忘れ物〜!」
少しの小休憩を挟んでいた辻の背後に先ほどの女の子が忙しなくやってくる。
彼女はバーの機械の近くにポンと置いてあった“スマートフォン”を手にすると言葉を漏らす。
「あっぶな〜これないと審査会場わからないや」
「審査‥‥会場?」
気づいた時には既にその場には彼女はいなかったが辻は
思いがけず、その単語を耳にして声を漏らす。
「‥‥‥‥ま、さかね‥‥‥」
辻はバーから緑茶を注ぎながら、鼻でフフッと笑うと
虚ろな目のままに凝り固まった肩を回す。
「待ってて、絶対にバンドは死なせない」
◯書類審査 通過者 辻凛
次回更新は来週金曜6月5日 20時!
最近、PV伸びてます!ありがとう!
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下記のYouTubeチャンネルにて
作中楽曲が実際に聴けます!
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