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第15話 書類審査 

――――6月初旬 書類最終審査 


香藤が応募書類の一枚を手に取ってブラブラと

それを揺らす


「300人以下にする事は可能か?今この書類審査で……」


彼は虚ろ目なまま、息が詰まりそうな程に声を落とした。


無機質にユラユラと揺れるその一枚の応募書類は一瞬にして会議室の全員の目線を奪った。


「はい……書類審査、一次審査と

“期待外れ”、“審査基準”に満たさないという

決が満場一致で起これば、あり得る事ですね」


立花社長が、リズムを崩さずに答えて行く。


言葉を聞いた香藤は手に持った応募書類を

ゆっくりと手元に戻す。 


「俺はな……平凡な奴を受からせたくないんだ」


無精髭を撫でながら、背もたれに豪快に

よしかかると椅子が鳴く音が場に響く。


「例えば、No.213……名前は……

ええとなんだったかな……まあいいや」


小栗は、ぶっきらぼうな彼の態度に

下唇をやんわり噛むと該当の応募書類を探す。


他の3人も同様に、その動作をすると

紙が擦れる音が一斉に鳴り出す。


「ああ、ありましたNo.213……ええと名前は」


筆頭スポンサー会社の代表・尾野が口に出す。


「“美鴨サキ”……さんですね」


「あぁ、そうそう……兎に角、この子は平凡だ

 自己PRの熱意は買うが、華がない」


「確かにまあ……特筆した外見や雰囲気は写真からは伝わってはこないですねぇ」



2人が分析を重ねる最中、小栗は拳を強く握っていた。


「後はこの子と住所が近い他の応募者も見つけたし……

概ね試しに応募してみたとか……そんなヌルい理由でやったんだろうな」


香藤がどこか呆れ気味に吐くと、頭をガリガリと掻く。

立花社長を横目に見る小栗、ただ社長は愛想笑いをするばかり。反論も何もしない。


「現役のアイドルである小栗さんはこの子をどう思いますか?書類最終審査まで残ったとは言え、オーディションの価値を著しく、落としてしまい兼ねませんが……」


尾野が半笑いで、尋ねるが

俯く小栗は該当、応募書類を凝視している。


「“ヌルい”……ですか?彼女達が……」


小栗が、その態勢のまま紡ぐと

誰かのコクリと唾が喉に流れて鳴く音が聞こえる。


「私は知っています……

 彼女達がどんな想いで応募をしたのかを」


ゆっくりと顔を上げる小栗華が真っ先に捉えたのは

腕組みをして無愛想に構えている香藤だ。


「私は三美神、そして三美神の2人の代表として

出席していますが……それだけじゃありません――」


緊迫感に満たされた会議室は今にも火が付きそうだ


「かつての夢見る少女としての熱を知っている

“理解者”として審査をさせて頂いているんです」


ブラインドから本の小さな隙間から光が溢れる。


「だからこそ言わせてください……ここまで残った応募者も勿論のこと応募者全員――」


小栗の鋭い目線が香藤と尾野を貫く。

香藤は目を据えていたが

スポンサー代表の彼は額に一筋の汗を流す。


「“生半可な気持ちで応募したと思わないでください……

彼女達を踏み躙らないで下さい”」


香藤はその意思を確認するように頷くと

座る体勢を変えて、小栗に目を合わせる


「まあ所感なんて人の気まぐれだ……

俺は番組的の為にも本物を探しているだけだ――

まあだからって熱くなっちまうのは俺の悪い癖だがな」


場の熾烈な議論は、静かに終止符が

今、打たれようとしていた。


「さっきの発言、あれは悪かった‥‥

ただ一つだけ言わせてくれ

“一次審査で俺は見境なく評価をつける”ってな」


香藤の宣言を耳に通すけれど、人知れず

胸の内が熱く煮えたぎっていた小栗であった。





――――2時間後 会議室

最終書類審査は小休憩を挟みつつ2時間で終了。

議論と厳正なる審査過程の末

350人が一次審査へと駒を進める事となった。


「悪いね、会議室に残ってもらって‥‥

 小栗と少し、話したくてね」


会議室に残っていたのは、小栗の立花。

2人は腰を据えて向かい合わせに。



「それより小栗も言える様になったんじゃないか」


少し嬉しさを孕んだ、声で彼女に問い掛ける立花。


「私はただ、夢追い人を応援したいだけです」


小言のように「そっか‥‥」と呟いて

その場に立ち上がる立花。


「それじゃあ実際に言語化してみて欲しいな‥‥」


立花の手にはコーヒー缶。

時折それを啜り、ブラインドから漏れる夕焼けに浴びる


「感情論に感覚論、それから属人的な意見じゃなくて

しっかりとした根拠(エビデンス)でさ」


小栗は手元の悠然と書類の束をトントンと整えると

社長をただ、静かに見つめる。



「…………正直、今の書類審査段階では完璧に人は測れないです、ましてやダンスや歌の技術なんてこれからです」


思索に耽りながら続ける小栗。


「本当の意味で一次審査で分かる筈ですよ‥‥

今は第一印象や直感が一番の審査基準だと思います」


「そうだね……至極真っ当だね」


コーヒー缶をデスクの上にカンッと軽く置く社長。

何か思案しているのか動きが鈍い。


「なんだか思い出すよ‥‥小栗、君と初めて会った日を。

アレは確か当時所属していた事務所の審査会だったかな」


「……10年も前の事じゃないですか」


遮るように小栗は応対する。その反応を確認する

立花は椅子に座ってフフッと口角を上げた。


「君を初めて見た時から感じていたんだ、君ならば

 “時代”を創ることができるのだとね」


照れ臭そうにする訳でもなく、ただジッと小栗。


「聞いていいですか?社長の審査基準……社長の今回のオーディションで目指す未来を」


「そうだね、これだけは伝えておくよ――」


社長はデスクに膝をつき指を組んだ。

そして、裏を含んだようにまた笑みを漏らす。


「“時代の継承”或いは“新時代”を牽引する

 圧倒的な個々の力を発掘したいってね」


唾を飲み込む小栗。

その音が全身に大きく響くのを感じると

目を閉じて、深呼吸をした。


「“三美神”の事もあるから、尚更さ」


社長が付け出すように放つと

彼女の肩にそっと手を置く。


「さあ、そろそろ時間だ‥‥ありがと

 久しぶりにサシで話せて楽しかったよ」


肩を置かれた瞬間、目をパッと開けた小栗。

先ほどまで正面にいた社長が傍にやってきたのに

唖然としたまま、小栗は察して立ち上がる。


「はい、私も楽しかったです立花さん」


――――6月9日 金曜日  10時00分


その日、その時間

350人の元に一斉に送信された一通のメール。



件名:【Girls Storys!】書類選考結果のご通知


この度は『Girls Storys!』にご応募いただきまして誠にありがとうございます。

厳正なる書類選考の結果、貴女を一次審査へとご招待することをお知らせいたします。


■一次審査について

日時:2023年6月19日(月)〜6月30日(金)

場所:都内某所※詳細は別途ご案内いたします

内容:歌唱・ダンス実技および面接


■ご注意事項

・指定日時に遅刻、無断欠席の場合は審査辞退とみなします

・交通費は自己負担となります

・未成年の方は必ず保護者の同意を得た上でお越しください

詳細な会場案内および集合時間は後日改めてご連絡いたします。

夢を追い求める貴女とお会いできる事を心より楽しみにしております。

サンセット事務所

           『Girls Storys!』運営事務局

次回更新は来週金曜5月29日 20時!


最近、PV伸びてます!ありがとう!

ブックマーク、感想など、どうかよろしくお願いします!


下記のYouTubeチャンネルにて

作中楽曲が実際に聴けます!


https://www.youtube.com/@%E7%A7%8B%E6%B5%A6%E3%83%A6%E3%82%A4

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