第14話 ここからはオリジナリティ勝負 前編
――6月初旬 都内某所 サンセット事務所 会議室
数名の大人がノートパソコンを目にしている。
画面のレイアウトはシンプルだ
大きく応募者のバストアップ写真
そしてその横に、名前と身長体重と自己PR
「……違うな……」
1人にかける時間は10秒も満たない。
初感、合格、不合格或いは保留の項目
そのクリック一つで応募者の全てが決まる。
会議室の空気は重々しく、大量の応募者に
目を通すのは当然ながら色んな意味で心身を削る
「失礼します」
会議室の扉をノックして入ってきたのは3人の女性。
「お疲れ様です」「さあ、やっちゃうか!」
彼女達の雰囲気によって
部屋の無機質さと重々しさを除去される
「三美神の皆さん、本日は書類審査員としての
お力添えありがとうございます、よろしくお願いします」
部屋の全員が手を止めて、首を休める。
そして入ってきた3人に軽く会釈と挨拶を繰り返した。
「あっ、そうだレイレイ!審査員の皆さんに差し入れ持ってきたんですよ!」
三美神の陽気担当“花田麗亜”。
彼女が両手にぶら下げていた紙袋をデスクに置く。
「お店を選んだのは私だがね」
同じく三美神、容姿担当“安喜シュネ”が優雅に一言挟む。
「これは駅前に最近、新しく出来た洋菓子店のケーキです
柊プロデューサーが、行列に並んでやっとの思いで買った――」
「つまり全て柊さんの計らいですよ」
「あぁ、小栗の言う通りだ」
安喜シュネの言葉を遮ったのは三美神の秩序担当“小栗華”。
「どうぞ召し上がってください長期間作業お疲れ様です」
疲弊している審査員らに労いの言葉を込めて
その場の審査員達数名に差し出す。
「ありがとうね〜」「マジ、助かる……」
その次に彼女達が会議デスクの空席部分に座ると
場には山積みになった書類が。
「おお、凄い量だね〜」
花田が書類の山を横から覗き込む。
「今から、これ全部見ていくってことでしょ!
すんごい楽しみなんだけどっ!」
「落ち着いてレイレイ
こういうのは真剣にじっくり向き合うべきだからね」
その真横に座るシュネが、目を細めて
自身の長い髪を後ろに流す。
「……応募はどのくらい集まったんでしたっけ?」
小栗が応募書類に目を通しながら
その場の審査員達に尋ねる。
「“5万9049人”……だ」
丁度、会議室に入ってきた男がその答えを放った。
男はネクタイを緩く解き、低い声を響かせた。
「どうも、オーディション番組のCPの香藤だ……よろしく頼むよ」
その場にいた全員の視線を捉えると、緊張が走る。
彼が自己紹介を終えた時には全員が起立し会釈。
「あっ、か、香藤さん!お疲れ様です!」
花田が場違いに陽気な声を上げる。
「あぁ、お疲れさん……んで、まあーちょっくら立花さんに頼まれて、下見と活気作りに赴いてきたんだが……」
無精髭を撫でる香藤は会議室を見渡し。
それから小栗華を見下ろす。
「……いい奴、見つかったか?」
その言葉を周囲に問い掛けるように呟き
また、そのまま憂うような眼光を彼女に据えていた。
「まだ全ての応募者に目を通していないので何とも言えないですが、まあ現時点でいい経歴の子や見た目の子は――」
周囲の1人が長々と述べていく。
香藤はその情報を耳に入れながら
小栗の書類の山を半分ほど攫った。
「ダメだ……違うな……」
香藤は次々と紙を
一枚、二枚……とデスクへ放り投げていく。
「……あぁ、これもダメだ……華がない……
これは全く捻りのない自己PRだなぁ……」
その紙一つ一つに印刷されている彼女達の想いが
彼の、流れ作業で次々とデスクに、宙を舞っていく。
その光景は周囲の審査員は止める事はできず
ただ行為を黙認していた。
「……んん?なんだ、もう終わったな……」
あっという間に半分の応募書類に目を通した香藤。
三美神の三人すらも何も言えず、説教を喰らった様な
喉が熱く痺れるような重圧が会議室に張り詰める。
「俺が見る限り、さっきのに逸材はいなかった……
まあ、五万人もいれば俺が求める奴も――」
周囲の空気に気まずさを感じたのか、冷静になって
深い溜息を吐いてから
散らばった応募書を香藤は紳士に掻き集めた。
「三美神に取って代わるような……
或いは超えるような奴も、いるだろうな」
頭を掻き走らせ、小栗と目が合った香藤。
「いますよ……絶対に」
小栗が一言放った。
その声は確かな熱と痺れを帯びる
途端、周囲が小栗をハッと一瞥して
すぐさま反応を逃さまいと香藤に視線を移す。
「原石というのは深く掘り進めて、尚且つ、よく目を凝らさないと、発見できない物だと私は思いますし」
それから彼が持っていた書類の束を見ると
ゆっくり、目線を上に動かす小栗。
「そう……か」
そう呟くと彼は書類を目線の高さまで持っていくと
1番上の応募書の持ち主となる人物を
しっかり捉えてから、デスクに丁寧に置いた。
「……会議室前に箱で栄養ドリンクを置いた
作業のお供に飲んでくれ……邪魔した、悪かったな」
彼は、そう言い残して会議室を後にした。
――オーディション番組の重鎮が会議室を退出して数分。
彼からの手厳しい審査を目にしたからか
しばらく、沈黙が流れる。
「ぷはぁ〜緊張ってか集中力解けたぁ〜」
花田がデスクに突っ伏す。
一刻前まで彼女も無言で審査をしていたのだが……。
「レイレイ、まだ10分も経っていないじゃないか
未来のスターは君の手元にいるかもしれないぞ」
シュネが自身が抱える、応募書類に目を通しながら
器用に会話を繋げていく。
「まぁシュネッチ〜それ正論だけど
やっぱりさっきの香藤さん怖くって〜
あんなに鋭く審査しなくってもねぇ……」
「オーディションというのは厳しくて当然さ……
レイレイ、君も審査する側に立っているんだ
今この時でも夢見る少女達に真剣に向き合って欲しい」
その言葉を聞いた花田は
「うん……じゃあ……っし頑張る!!」
膨らませた頬を破裂させるように平手を打つけた。
会議室は再び、審査員が黙々と審査を続けていた。
その時――
「ん、この子達……」
小栗華がボソッと呟いた。
「どうした華?」
シュネが不思議そうに覗くと
小栗は3枚の応募書を並べて頬杖をついていた。
「あぁ、住所が近いし年齢も同じだね……
この3人は友達同士かで多分一緒に応募したんだろう」
不可解さを説明するシュネの横で
口元を緩ます小栗がいた。
「いや、それだけじゃないよシュネ――」
小栗はその笑みを包み隠さなかった。
その様子のまま、3枚を手に取って丁寧に高さを整えた
彼女達に興奮するように
味わい深く、頷いて一言。
「……この子達は“仲良し子よしで応募していない”
そう訴えかけるような“熱と愛”を私は直感している」
シュネが、考えるようにして天井を見上げ
「まあ小栗が言うならね」
疲れていた手首をクネクネと回す。
3枚をデスクの中央に迷いなく添える小栗。
「なんか……懐かしくも感慨深い気分になったよ」
「え?急にどしたの小栗〜」
再び、応募書類と向き合う時間が続くが
三美神は少しの思い出話に花を咲かせていた。
器用にも、ゆっくりと真剣に応募者に向き合うように
「私達も立花さんに審査されて……
そして今度は私達が未来を担う人々を審査している
これって、なんだか不思議だよね」
「レイレイ達も、相当遠い所まで来たってことだよね!」
花田が伸びをしてから、2人と顔を見合わせた。
「……だからこそ見つけないとね“未来”を」
――――時は遡って5月4日 篠宮邸
篠宮邸のとある一室に籠る4人。
一行が応募用の写真を互いに取り合って数分。
彼女達の撮影風景というのは四者四様であった。
案外、慣れたようにカメラ目線するサキは
照明の眩しさが想像以上で楽しそうであった。
カコは眼鏡を外したり、また付けたり
何度も何度もリテイクを繰り返していた。
いつも通り淡々としているイマもまた、心なしか
笑顔の回数はいつもより多かった
そんな3人を尻目に鼻を高くしながら
場の誰よりも圧倒的な『華』を醸し出した
“篠宮エミィ”が撮影をこなしていく。
だが写真に写った、それぞれの微笑みと眼差しは
希望と野心が融合した明るい物だった。
「おお!!盛れてるっ!」
次回更新は来週金曜5月15日 20時!
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